9話  (諸事情により横読みを推奨します)

 ファミレスの周辺を探しましたが、めるの姿はあらませんでした。

 電話をかけてみましたが応答もありません。だけど、ケータイの電源は切ってないようでした。

 そうなれば、GPSが使えます。

 めるのケータイにこっそりと入れたGPS機能。私のスマホから、めるのケータイの電源が入っていればその位置を特定することができる。

 私はスマホを操作します。

 画面に地図が表示され、緑色の点がゆっくりと点滅している所に、めるはいます。

 そこは駅とは反対方向で、何の目的でそこに向かったのでしょうか。私から逃げたかったのでしょうか。いや、そんなことはどうでもいいのです。

 私は走ってスマホが示しためるのいる場所へ向かいました。

 緑色の点が示していた場所は大型のショッピングモールでした。

 何度確認してみても、緑色の点はショッピングモールの中を示したままです。

 なんでこんな場所に? と首を傾げながら、ショッピングモールの自動ドアを通りました。

 ショッピングモールは人でごった返しで、私は人波を縫うように、スマホが示す場所を目指しました。

 緑色の点が近くなって足を止めます。

 そこはフードコートでした。ファミレスから逃げ出して、お腹が空いてここで食べてるのでしょうか。だとしたらかわいすぎないか、める。

 フードコートでご飯を食べているめるになんて声を掛けようか。とりあえず、謝ろう。そして、もし仮に、ひかりちゃんが言うように、めるも私のことが好きなら、あわよくば……私の気持ちを伝えて……そして──。


「──菜乃葉?」


 頭が真っ白になりました。

 どうしてこうも、めるは私の想像を裏切ってくるのでしょう。

 だけど、めるは私を見つけ、視線を斜め下に落とします。まるで私に会いたくないと言うように。


「め、める……」


 私がそう呟くと、めるはハッと顔を上げ、くるりと背を向け、スタスタと立ち去りました。


「め、める……!」


 私は走って追いかけ、めるの手を掴みました。あの時とは違い、優しく、だけど離さないように。


「め、める、ご、ごめん、わた、私……」

「いいよ別に、気にしてないし」


 めるは私と目も合わせてくれません。


「ち、違くって……あの、その」

「もぅ、わかったから!」


 めるは手を払い、私はめるの手を離してしまいます。

 めるは振り返ることもなく、行ってしまいました。

 私は手を伸ばします。だけど、めるは私のことなど見向きもせず、雑踏に消えていきます。

 このまま見送ったら、たぶん、もう二度とめるとは。そう思いました。そう思ったら──悲しくなりました。今まで感じたことのないぐらい大きな悲しみ。心臓と腑を握り潰されるような、そんな悲しみ。

 気づいたら、子どものように叫んでいました。


「い゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!! ぎら゛い゛に゛なら゛ない゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛!?」

「ちょっ、な、菜乃葉っ……! わ、わかったから、や、やめてよっ……!」


 目を開けるけど、涙でよく見えません。だけどぼんやりと人影が滲んで見えました。それにめるの声が聞こえます。


「め゛る゛!? ごめ゛ぇ゛ん゛なざぁ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」


 私はその声のする方に飛びつきました。めるっぽい細い身体、そしてめるの匂い。間違いなく、この身体はめるです。める以外ありえません。


「め゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!! め゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!! め゛る゛だよ゛ね゛ぇ゛!?」

「わ、わかったから……人の目ってものを気にしなさいよ、愚か者さん」

「め゛る゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

「本当にわかったから!」

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