第6話*チュートリアルと兄と母

 チュートリアルの間は、脳内に響く声に言われたことしかできなくなった。

嗚呼、チュートリアルでよくあるやつだ、コレは。

あと、チュートリアルの時は声のテンションがおかしい。


<< ステップ1:まずは、神殿で神の祝福を受けよう! >>


 こんな具合に。


 とりあえず、神殿に向かう前にする家族の顔合わせのために廊下を進む。

さすが貴族の家、廊下も豪華絢爛だ。


 そんな小学生並みの感想を心の中で呟いていると、廊下に飾られた鏡が目についた。


 そうだ、今までいた部屋には鏡がなかったから、少し自分の容姿を確認してみよう。


 ブサイクじゃないといいなぁ……。



 鏡に映ったのは、金髪に赤みがかかった瞳の少年。


 ここまでは、事前に聞いていた通りなので問題ない。

ただ……表情が死んでいる。

その瞳はあまりにも無機質。


 一瞬だけ驚いたけど、すぐに納得できた。

なるほどチュートリアルで言動が制限されるとこうなるのか。


 とりあえず、ブサイクじゃないことがわかったので良しとしよう。




 大きな暖炉のある広い部屋で、母とともに他の家族を待つ。

しばらくすると、神経質そうな一人の若い男性が現れた。


 年齢は、十代後半に見える。

鈍い金髪をオールバックにしたその男性は、その細い目でじろじろと、しばらく俺を睥睨した。


 彼の緑眼が俺を品定めしているのだと思うと緊張する。

この人の前では背筋を正さなければという気持ちになるのだ。


 これが、貴族のカリスマなのか……。


 おそらく、俺の兄だろうその人は、おもむろに口を開く。


「私は、プロイ・アナトリー。長男であり、不本意ながらお前の兄だ」


 本来なら弟の俺の方が先に、自己紹介なりなにか挨拶しなければならないが、まだ祝福を受けてないから、会話を禁じられているし、なによりチュートリアル中の制限で声が出せない。


 焦りが募る。


「……」


「……やはり、お前は断俗を行っているのか。なら、挨拶は祝福の儀が終わってからで良い」


 断俗?

祝福の儀までは何もしちゃいけないアレのことか。


 次に、プロイは俺の母に目をやると、責めるように言った。


「何故、報告しなかった」


「……イリオファーニア様には伝えました。しかし、実物をみないことには信じられないとおっしゃったので」


「それで、断俗にこだわるあまり、父上にお見せしなかったのか」


 兄と母の問答をすぐそばで聞いていたが、俺にはさっぱり内容の意味がわからなかった。


 断俗っていうからには、俺と関係ある話題だとは思うけど……。


 とりあえず、父親の名前がイリオファーニアであるということはわかった。


 ちなみに、母の名前はリアカーダだ。

世話役のおばさんが、そう呼んでいた。

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