第22話 京子と紗英
午後四時。
教室。
京子はまだ高校にいた。
「だいたい課題の見通しはついたね・・・・・・」
机の前で紗英は溜まっていたように大きくため息をつき、顔を埋める。
「そうだね・・・・・・、みんなこんなのよく出来るね・・・・・・」
京子も紗英と同じようにため息をついた。
どうしてこうなったのか。
京子は事の事態を振り返る。
それは三限目の終わり。
急に課題を出されたからだ。
提出は明日。
訳もわからない二人は協力して問題を解いていた。
「もう四時か・・・・・・。今頃、お母さんは茶色の散歩かな・・・・・・?」
顔だけ横にして、疲れた顔で紗英は窓の景色を眺める。
「茶色?」
その単語が気になり、京子は聞いた。
「うん。こないだ、お母さんが一時的に茶色い子犬を引き取ったの――」
紗英はそのままの態勢で事の経緯を話す。
話を聞くと、どうやら、先日紗英の母親が町内会からの依頼により、茶色の子犬を引き取ったとのこと。
茶色とは、色のことではなく、その子犬の仮の名らしい。
「一時的に?」
どうして、一時的なのか。
京子は不思議だった。
「うん。里親を探すまでって言っていたし。それに茶色がいた公園で茶色を可愛がっていた人がいたらしいから、どちらかと言うとお母さんはその人を探しているみたい」
紗英は悲しそうな顔でそう言うと、顔を再び埋めた。
「もしも、その人が見つかったら・・・・・・?」
埋める紗英に恐る恐る京子は聞く。
「茶色はその人のところに行っちゃうかも・・・・・・」
埋めたまま首を左右に振り、紗英は大きくため息をついた。
「それは寂しくなっちゃうね」
京子も寂しそうな顔で机に埋める。
――いつしか別れは来るのだ。
ペットであれ、友人であれ、家族であれ――。
必ず訪れる未来。
いつしか、神さまとも別れが来るのだろう。
京子はその運命を理解する。
――それは嫌だな。
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