第16話 奏と京子(1)


 放課後。

 スーパーへと向かう途中、京子は奏とばったり会う。


「あ、お疲れ、きょう」

 京子の顔を見るなり、奏は右手を上げ挨拶をする。

「お疲れ様です。神さま」

 奏に気づくと京子は明るい顔で奏に向かって行った。

 珍しい。神さまがこの時間に出かけているなんて。

 仕事でどこかに行っていたのだろうか。

「これから買い物?」

 京子の荷物がスクールバックだけなのを見て、奏はそう言った。

「そうですっ」

 嬉しそうに京子は笑顔で頷く。

 不思議と嬉しい気持ちが込み上げる。

 神さまと会ってからだ。

「それじゃ、僕も行くよ」

 そう言うと、奏は京子の隣へと歩み寄る。

「あ、そうですか?」

 普段はついて行かないのに、今日はどうしたのだろう。

 京子は不思議だった。

「たまには――ね」

 奏は京子へ笑顔を向けた。

 こういう時に重い買い物は済ませたい。

 出来るだけ、彼女の負担が減るように。

「では、行きましょうか」

 京子は張り切ったような声でそう言う。

 

 向かう中、京子はどうしてかドキドキが止まらなかった。



 二人でスーパーに入ると、生鮮コーナーで幸恵と出会う。

「あら、神さまと――京子ちゃんじゃない」

 幸恵は奏たちを見るなり、あらま、とでも言いそうな驚いた顔をした。

「長谷川さん、どうも」

 奏は幸恵を見るなり会釈をすると、京子もそれにつられるように会釈をする。

「――なんだかあなたたちを見ると、懐かしい気持ちになるわね」

 幸恵は二人をまじまじと見つめ、何かを思い出している顔でそう言った。

 懐かしい気持ち――。それはきっと、姉さんと健吾さんのことだろう。奏は幸恵の言葉の真意を理解する。

「・・・・・・?」

 京子は幸恵の言葉に首を傾げていた。

「あ、そう言えば、神さま」

 思い出した顔で幸恵は笑顔で奏に言う。

「どうしたんです?」

 先日の仕事のやり忘れがあったのだろうか。途端に奏は不安そうな顔になった。

「努さんがありがとうって言っていたわ」

 長谷川努。幸恵の夫の名だ。

「努さんがですか――。今度、努さんの店に行きますんで、その時にお礼は言いますね」

 奏は驚いた顔になると、そう言って幸恵に笑顔で返す。

 良かった――。仕事のやり忘れではなかった。奏は心の中で安堵した。

 努が営むのは商店街にある定食屋。看板メニューは昔から変わらない生姜焼き定食。

奏は幼い頃からお世話になっていた。美千代たちと行っていた幼少期を思い出す。

ふと、努が作る生姜焼きが無性に食べたくなった。

「そうしてちょうだい。努さん、会いたがっていたから」

 そう言うと幸恵は生鮮コーナーから離れていく。


 

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