第15話 京子と橘(1)
奏が公園にいたのとほぼ同時刻。
京子は授業中、康のことを考えていた。
まるで、かつての自分と同じ雰囲気を持つ男性。
授業終わりのチャイムが鳴り、休憩時間に入ると紗英がやって来る。
「ねえ、京子。どうしたの・・・・・・?」
京子の顔をまじまじと見ると、紗英は不思議そうな顔になった。
「ん? どうしたのって?」
そんな不思議な顔をしてどうしたのだろうか。京子は首を傾げた。
「すごい険しい顔していたよ?」
「険しい顔?」
険しいとは。京子は想像がつかなかった。
「こんな顔」
紗英は眉間にしわを寄せ、難しい顔をする。
一瞬にして、紗英の可愛らしい顔が台無しになった。
「そんな顔してた私?」
意識していなかった。
京子は慌てるように驚く。
「京子の可愛い顔が台無しだよ。いつ言おうかずっと迷っていた」
紗英は心配そうな顔で京子を見つめる。
「それは・・・・・・心配かけてごめん」
申し訳なさそうに京子は小さく頭を下げる。
「なんか悩みごと? もしかして、一緒に暮らしている人?」
京子の前の席に座り、紗英は不思議そうに首を傾げる。
「ううん。一緒に暮らしている人じゃないよ。こないだスーパーで会った人が気になって」
京子はゆっくりと首を左右に振り、紗英に康と出会ったことを話す。
「一人――か」
話を聞いた紗英は途端に暗い顔でそう呟いた。
「うん。あっちからしたら、赤の他人だけど気になって。私にも出来ることが無いかなって・・・・・・」
京子は太ももに両手を置き、俯き考え込む。
赤の他人。
その事実は変わらない。
だけど――、それでも私は。
「出来ること・・・・・・。その人がどこの人かわかるの?」
右手の人差し指を口に当て、紗英は悩んだ顔をする。
「――あっ、わからないや」
京子は気がついたようにハッとした顔でそう言った。
どこの人かはわからない。
通りすがりで町内に来た人かもしれない。
「でも、その感じだと町内の人みたいだね」
話を聞いて、紗英は何食わぬ顔で言う。
「そ、そう・・・・・・?」
何を根拠に紗英は言うのか。京子は不思議だった。
「うん。そんな気がする」
紗英は無邪気に微笑んだ。
「探す――とまでは行かないかもしれないけど、またスーパーで会ったら話しかけようと思う」
京子は自分に言い聞かせるように頷いた。
少しでも彼の思いを知れるように。
――私は私が出来ることを。
「ねえ、京子」
頷く京子を紗英はじっと見つめる。
「ん?」
そんなじっと見つめてどうしたのだろうか。また、私は変な顔をしていたのだろうか。
「私、京子と会った時は京子のこと、積極的な女の子って思っていなかったんだけどね」
そう言う紗英は少し呆気に取られたような顔をしている。
「うん」
相槌のように京子は返事をする。
「今なら、京子が積極的な女の子だって思うよ」
少しうっとりした顔で紗英は言う。
「積極的?」
紗英の言葉に京子は不思議そうに首を傾げる。
京子は自分のどこが紗英の言う積極的なのかがわからなかった。
「うーん、なんだろう・・・・・・? 自分から前へ前へと行こうとする心かな?」
自分でもピンと来ていない顔で紗英は腕を組んで悩み始めた。
次第に眉間にしわを寄せ、うーん、と深刻に悩み込む。
紗英の悩むその姿は自然と愛らしく見えた。
「前へ、前へ――か」
前へ――。
その言葉を想像すると、自身の母の姿が頭に浮かぶ。
太陽のように明るく、
皆を前へと引っ張っていくその姿を。
「私は進みたいって思っても、あと一歩のところで立ち止まっちゃうからさ。その一歩を踏み出せるようになりたい」
紗英は右拳を握り、力強くそう言った。
「私もそうなりたい――」
京子は教室の窓から空を眺め、そう誓う。
かつての母のように私も――。
ねえ、お母さん。
私もお母さんみたいになれるかな――?
京子は空向け、問いかけるようにそう告げた。
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