[04]お前はできないと言って欲しかったのか?(蔑)

 女神となった私は、宛がわれた部屋でサーディレと話をしている。


 女神になれず般若になった神楽姫と、それを無視して私に求婚し続けるマクイス。この二人から逃れるのに苦労した。

 神楽姫は従姉聖女が責任を持って持ち帰った。


 神楽姫は後妻の子で、前妻の子である従姉とはあまり会う事は無かった。従姉の母親は国王の姉にあたる人物。


 そして継承権を剥奪されたマクイスはというと、


「詳しく話を聞いたところ、マクイスは聖家の姫と結婚したかっただけで、別に神楽が好きだったわけではない……と父に告白した」


 聖国で聖家の血を引く女性は神楽姫と、皇子二人の従姉。

 血の濃い結婚は忌避されるのがこの大陸の常識だから、皇子たちとは関係のない後妻が産んだ神楽姫をマクイスは選んだ。


「迷惑な人ですね。王位継承権を剥奪して良かったじゃないですか」


 偶々神楽姫が美人だったからこんな噂になっただけで、普通の顔立ちだったら此処までの騒ぎにならなかったんだろうな。


 神楽姫は俗世にその姿を、痕跡を残しすぎていた。


「そのことなんだが、王位継承権を剥奪をなかったことにする方向で話が進んでいる」


 どうしてそんな事に? と思ったら、私が関係するらしい。


「女神にご迷惑をおかけする訳にはいかないというのが父の意見だ。王位継承権を剥奪した事で、女神の夫になれる権利を得てしまうと、更なる迷惑がかかる」


 マクイスは女神と結婚したいだけの男なので、王位継承権が剥奪されても問題ない――周囲に迷惑がかかるだけ。


「確かに迷惑ですね」


 その他諸々の理由で、私は第二皇子サーディレと共に旅に出ることになった。聖国に残っていると、第一皇子が面倒なので。


 こうして旅に出た私たち――次の国でも面倒が持ち込まれた。

 簡単に言い表すなら「鬱陶しい」である。

 私とサーディレと、誰にも見えない四條は、王宮に来ている。

 女神と聖国皇子が他国を訪問して王を素通りすると色々と問題が起こるので、立ち寄らなくてはならないのだが、そこで面倒ごとを頼まれるのは、本当に鬱陶しい。


**********


 この国に入ってすぐに、四條はまた情報を集めに先行した。

 戻って来た四條は不快さを露わにした表情で、語れと言ったわけでもないのに語りはじめる。

 四條がいうには、この国には”別世界”からきた娘がいるそうだ。

 世間一般的には知られていないが、私は知っている。


「異世界トリップというヤツか」


 私の声に皇子が反応する――もちろんサーディレには四條の声は聞こえていないし、私も通訳はしていない。

 でも会話に入ってくることは構わない。


「異世界からの訪問者?」


 王族であるサーディレは知っていた。

 なにせこの異世界トリップしてくる者たちは、八割強の確率で”支配者階級”の前に現れるので、必然的に記録が残るのだ。

 ただ現れるだけなら良いのだが……


[いつも通りだ。国王の傍に侍っていて、国王も満更ではないどころか、王妃を疎んでその娘を後釜に座らせようとしている]


 やはり”それ”か。


「後釜に添えることが出来ないでいるということは、家臣達が反対しているのだな?」


 皇子は私の独り言を注意深く聞き、私の視線を追っているが、どうやっても四條は見えないはず。


[家臣は反対している。だがその理由は、家臣の殆どがその娘に夢中だからだ]

「それもいつも通りじゃないのか?」


 いつものヤツだな!


[まあな……確かにいつも通りだ。相変わらず困ったヤツだ]


 四條の表情を見ると、それ以外の理由も……理由は大体想像がつくけれども、敢えて触れないでおいた。


 世界を次元移動させる。それは【神】の御業である。神の御業を部分的に行使できる守護霊たちは、異世界からならば、この世界に召喚することができる。


 神の御業と守護霊の召喚についてはこの位にして――会いたくもないのだが、この国の王”そう”と面会することに。


 その”そう王”の隣に娘がいた。


 何でも【じょしこうせい】という地位にある娘らしい。そう王はその【じょしこうせい】を元の世界に帰すために力を貸して欲しいと。


「この国の聖家は?」


 国があるのだから、聖家は必ず存在するのだが、そう王が言うには、今この国の聖家には、守護霊を持つ女性――聖女――が存在しないのだそうだ。

 だから他国の聖女に頼むしかない……と。おや? おかしいな。確か先程四條は、此処で守護霊に会ったかのようなことを言っていたし、何より【じょしこうせい】を召喚したのは、この国にいる守護霊の仕業のはず。

 四條はこの国の聖女についている守護霊は、昔から困った奴だったと言っていたから、なにかあるのだろう。

 四條に”困ったヤツ”言われるくらいだ、本当に困ったヤツなんだろう。それを見えない国王に向かって言っても仕方ない。


「戻るのでしたら、今すぐ戻しますが」

「えっ!」


 ”さっさと返してやるぞ”と言ったら、心の準備が出来ていないとか言いだした国王と【じょしこうせい】。

 同じようにわめきだす、周囲の男たち――全員【じょしこうせい】に心引かれている奴等だが……お前たち、どういう気持ちで、私に話を持ちかけたんだ?


 もしかして「できない」って言う返答を期待してた?


 なんか【じょしこうせい】は明らかにそういう表情だったなあ。まるで「実は召喚はできるけれど、元に戻すことはできないんだ」と言われるのを期待していたような――まさかねえ?


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