僕は小説に殺される

奇跡いのる

 天才ではなかった。

 天才にもなれなかった。

 だからと言って、努力することもしなかった。


 いつか、何かの才能が開花すると信じて、色んなことに手を出した。


 三日坊主の繰り返し。

 いや、三日持てばいい方だった。


 売れてる音楽を聞いて、触発されてギターを買って二日でフリマに出品した。

 売れてる漫画を読んで、漫画家になろうと思ってネットで画材を調べてる内に面倒臭くなってやめた。


 ワールドカップの時期にはサッカーをやって、野球の日本シリーズの時には野球をやって、バスケ漫画を読めばバスケをやった。


 どれも違った。

 諦めると言うのもおこがましいくらいに、すぐにその道を引き返した。


 人生は一度きりだと思って手にしたものの数々が、何一つ僕を形作ってはくれなかった。


 嘘と言い訳と諦めが僕の成分だ。



 最後に小説家になろうと思って小説を書き出した。

 色んなことに手を出してきた僕だから、色んなことを題材に出来るはずだと思った。


 純文学、ミステリー、SF、恋愛、スポーツ、ファンタジー。


 ありとあらゆるジャンルに手を出して、

 それらに主人公を生み出し、そして全てを捨てた。


 誰ひとりとして物語の完結を知らない。

 なぜなら僕自身にも分からないからだ。


 何一つやり遂げたことの無い僕には、物語の完結を書き記すことは不可能だった。



 そして、夜、夢にうなされる。


 僕が生み出した作品の数々の、登場人物たちに追い回される夢を見る。


「俺の未来はどうなるんだ?」

「私の恋はどうなるの?」


 広げた大風呂敷を畳めもせずに、次から次へと生み出した作品の登場人物たちが苦悩の表情を見せる。


 僕は僕の小説に殺される。




――はぁ、またこの夢か。


午前三時、目が覚める。またいつもの夢だ。小説なんて書いたことも読んだこともないのに、なんで小説家の苦悩の夢を見なければいけないんだろう。











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