第21話 〜白銀と祈り子〜

 三学年総出となると実に壮快な並びだ。先頭の方に東雲会長の姿も見える。

 一年生のウサギさんクラスはゆきが居るチームが選抜されたようだ。


 冬月大佐が生徒達の前に立つ。


 「今日集まったもらったのは、他でもないAntsybalを殲滅する為だ!」

 「一年生の野外演習の中で突如現れた変異種が仲間を呼び,Antsybalの巣窟になってしまった巣をこれから殲滅しにいく」


 「一箇所に集まったAntsybalを後悔させてやろうではないか!!」

 「三学年を集めて作戦を実行するなんて滅多にある事じゃない。たぎっている者も中にはいるかもしれぬ! その全てをAntsybalにぶつけてやれ!」


 冬月大佐が外でもはっきりと分かる通る声で話す。


 今回参加する全ての人間が鉄騎へと乗り込む。こんなに沢山の鉄騎が並ぶと迫力が凄い。様々な騎体の色と形,武器を持ち合わせた鉄騎が並ぶ。


 三年生の会長のチームが先頭に立って他の皆を引き連れていく。作戦が開始された。

 俺達一年生は巣の中心とはかけ離れた場所の残党の処理に当てられている。


 まあ簡単に言ってしまえば,簡単な任務だ。それでも油断は出来ない!

 以前もそうやって安全だと思われていた場所で事件は起こったんだ。


 その事を一番良く知っているからこそ,一年の中で俺達のチームだけが緊張感を持って任務に挑んでいる。


 移動をしながら今回の任務についての詳細や確認を恭子が無線で皆に話す。

 普段の演習でも変わらない恭子からの話しだった。


 でもあの日以降,恭子は任務の中で考えられる最悪の想定も同時に俺達に伝える事を始めた。限りなく0%に近い確率だったとしても,俺達は恭子の話を黙って聞く。

 俺達は恭子が事前に下調べてしてくれて,なおかつ考えられる可能性を炙り出した上で説明してくれている事だと知っているからこそ,誰も馬鹿にしないし,静かに恭子の話に耳を傾ける。


 あの恵でさえ恭子が作戦内容や注意事項を話している時は静かに聞いている。

 説明し終わるとうるさいのは言うまでもないが。


 「質問は何かある??」

 「ないよ」

 「他の皆は?」

 「俺もないで〜す」


 「ねぇーよ」

 「私もないわ」


 「了解」


 任務の場所へと向かっていく。

 到着すると俺達が変異種と戦った巣の中心とは遠い場所だった。


 そこにはレベル0がウヨウヨといた。

 一年生はレベル0の殲滅がメインの任務だった。


 「ウヒョー!! オラオラオラ!!」

 一目散に飛び出して行ったのは恵だった。俺達も続く!


 恭子も珍しく攻撃に参加してレベル0を殲滅していく。


 恵はあっという間に殲滅していく。雷斗も同じくとてつもない速度で倒していく。

 その二人を横目に俺と恭子は着実に倒していく。


 彩乃はいつも何か考えながら攻撃を繰り出しているように感じている。

 鉄騎同士の模擬戦ではよくわからないが,Antsybalの戦闘になると,ほぼ一撃でAntsybalを倒していく彩乃。


 恭子から少し聞いた程度だが,彩乃の家はAntsybalとの戦闘に特化した武術を秘伝で行っているらしく,Antsybalの急所を確実に一撃で突いているらしい。


 ただ軍の研究の結果では,Antsybalに人間みたいに急所らしい急所はなく,もっと言うと個体個体で内蔵の位置も違っている事も多く,急所を叩くという発想自体が時間の無駄というのが見解みたいだ。


 彩乃の家の話しはあくまでらしいという噂でしかなく,本当の所は分からないらしいが,今までの戦闘を見ている限り,恵みたいな派手さはないが,確実に仕留めるという印象があるのは確かであながちその噂も嘘ではないと思っている。


 俺達はAntsybalをすぐに殲滅し終えた。見る限り倒し損ねたレベル0はいない。

 任務が完了した事を本部に報告した。

 何もなく無事に済んで良かったと思った。


 「つまんなかったなぁーーおい!!」

 恵はいつものように物足りなさを嘆いていた。


 ここから見える巣の中心地の方では,上級生が戦っているだろう音と気配を感じる。本来ならば俺達があそこに居て,Antsybalを殲滅するべきなのかもしれない。多分恵と雷斗はそう思っているはず。恭子も表には出さないがそう思っているのかもれない。


 まだ戦っている上級生を背中に感じながら俺達は一足先に基地へと戻る。


 一番最初に戻ってきたのは俺達のチームだったみたいだ。

 他の一年生はまだ戻ってきていない。


 特に何もなく任務を遂行出来た事に俺はホッとした。

 他の皆も同じ気持ちだったのかもしれない。

 緊張感が取れた顔つきを皆がしているからだ。


 山口先生が俺達の元へとやってきた。

 「お疲れさ〜〜ん! 特に問題なかったみたいだな」

 「ええ! 特に何も問題なかったです美咲先生」

 「そうか。とりあえずお疲れさん!」


 先生も心配してくれたみたいだったようだ。

 俺達は饒舌になりながら,上級生達の帰りを待った。


 簡単な任務に配属された一年生が先に戻ってくる。

 ゆきのいるチームも何事もなく戻ってきたようだった。


 二年生のチームが戻ってきた。中心の方,穴の中の奥は三年だと思うが,中心に近い場所の任務に就いていた上級生が戻ってきた。


 戻ってきた人達の話しでは,三年生,特に会長のチームが無双の力を発揮していて,Antsybalを殲滅しているようだ。レベル2もレベル3もいるのにも関わらず,倒しまくっているという事だった。


 基地に居る皆は,その報告を聞いて流石会長だと皆話していた。


 そうこうしている間に三年特に最も奥で戦っていた最前線の東雲会長の居るチームが最前線から戻ってくるようだ。今まで帰ってきた全員が無事だった。

 だれでも怪我もせずに済んでいるのが凄い事なんだと思う。

 学校に居る全生徒で会長の帰りを待った。


 遠くの空から白銀の閃光を輝かした騎体が基地に向かってきた。

 会長のチームが戻ってきたみたいだ。


 外に出て三年生達の凱旋を迎える。


 会長の白銀の鉄騎には傷一つ付いてなかった。

 鉄騎から降りた会長は大佐と何か話している。


 「全生徒の諸君,作戦は上手くいったようだ! Antsybalの殲滅が成功した!」

 大佐が声を張り上げて皆に向かって発言した。


 俺はそれを聞いて胸をなでおろした。

 会長が皆がいる方へと歩みを始める。


 俺は会長にあの日のお礼を言いたくて,人をかき分けて会長の元へ訪れた。

 「会長ーー!!」


 「おう! 雄二君じゃないか」

 「会長お疲れさまです! 凄い活躍だったと聞きました」


 「そんな事もないさ!」

 「会長あの日はありがとうございました。会長にお礼が言いたくて!」


 「いやいや! 別にそんな事いいさ」

 「それでも会長のおかげで俺元気がで――」

 東雲会長が俺の方にもたれ掛かった。びっくりして言葉が一瞬出なかった。


 「会長?? どうしたんですか? 会長?」

 会長の方に顔を向けると会長からは反応がなかった。


 「誰かーーーー!!!! 会長がーーーーーー!!!!」

 異変にすぐ気付いた大佐が自ら会長を抱きかかえて敷地内にある病院へと運ぶ。


 俺はその後に続いて追いかけた。

 病院に着いてどの位の時間が経ったかはわからない。


 医者の先生が来て,会長のチームメンバー三年生の先生方,そして軍の偉い人? と思われる人達が訪れて部屋の中で何やら話している声が聞こえる。


 そして和久さんも何故か病院にいた。部屋の中に入れてはもらえてないが,俺の隣でタバコを吸っている。


 「なんで和久さんがここに居るんですか?」

 「あ〜!? それを言ったら雄二お前もだろ」


 「何かあるんですか?」

 「ん〜特別に用があるってわけじゃないけど,東雲会長が倒れたって聞いて,ちょっと確認したい事が出来てな」


 部屋から続々人が出てきた。最後に冬月大佐が珍しく神妙な顔つきをしていた。

 俺と和久さんが大佐の元へ訪れる。


 「雄二と伊藤研究員か」

 「大佐! 俺達も部屋に入って様子を見てもいいか?」


 「分かった部屋に入れ」

 部屋に入ると横になった会長が目を閉じて眠っていた。


 「東雲会長の容態はどうなんですか??」

 「詳しい原因が分からないそうだ。目を覚まさない」


 「ふ〜ん! 超簡単に言ったら植物状態って事?」

 「そうとも言えるな……」


 「えっ!? どうしてですか? なんで急にそんな事に?」

 「だから原因がわからんって言っているだろう」


 「今この瞬間に目を覚ますかもしれないし,明日もしれないし,一生目を覚まさないかもしれないと医者は言っていた」

 「全く分からずという事か……」


 「まあそういう事だ! 東雲の不在は今後のAntsybalとの戦いと作戦に大きな影響を及ぼす!」

 「それよりさ〜大佐にちょっと聞きたい事があるんだけど,いいですか?」


 「なんだ?」

 「会長は鉄騎に乗って最前線で戦い始めたのっていつ頃からですか?」

 「一年の時から,二年の時には作戦の主力として動いてもらっていた!」


 「なるほどね」

 言葉のノリとは裏腹で,和久さんの表情は見たこともない位真剣な表情をしていた。


 「和久さん何かあるですか?」

 「いや! ん〜確証もないし俺のあくまで仮定の話で雄二を混乱させるのも悪いからな」

 「どうしたんですか? なんか珍しく真剣な顔しちゃって!」


 ドタドタドタドタと,遠くの方から走る足音が聞こえてくる。

 「桜ちゃん!!!!」

 扉を勢いよく開けられた。


 そこに現れたのは一人の少女だった。しかし俺はその子を見て驚いた。なんと前の世界の妹だったのだ。


 「祈り子様!?!?」

 大佐がそう言い跪いた。

 「お前らの跪け!! 祈り子様の前だぞ」


 俺と和久さんは訳も分からず跪いた。

 「いいんです冬月大佐! 顔を上げてください」

 「はっ! ありがとうございます」


 冬月大佐がこんな態度を取るという事は偉い人なのは分かる。

 「それでさく――東雲さんの容態はどうなんですか?」


 大佐は先程俺達に話したように祈り子様と呼ばれる俺にとっては前の世界の妹に会長の容態について話した。


 「そうですか……」

 すると後ろから大きなガタイをしたの軍人らしき人達が来た。

 「祈り子様,勝手に行動されては困ります」


 祈り子様を守るボディーガードのような人達なんだろう。

 俺は顔をあげて祈り子様と呼ばれる妹の顔を見る。

 やっぱり俺の妹に違いない。でもこの世界では関係ないのは分かっていることだが。


 俺は祈り子様と目が合うと,祈り子様はハッとした表情を見せた。それが俺にはもしかしたらと思わせた。 


 「里沙!?」 

 妹だった名前を呼んでみた。


 すると驚いた表情で里沙は俺の顔を見る。


 「貴様,どこでその名前を!!!!」


 もの凄い剣幕で俺の胸ぐらを掴む大佐!

 「いや……別に……」

  

 「まあまあ冬月大佐何をそんな怒ってるんだよ!」

 和久さんが大佐の事を止めに入る。


 「お前はどこでその名前を聞いたんだと私は聞いている」

 「前の……世界……俺の……妹だった」


 あまりの締付けに意識が遠くなる。

 「なるほどな! そういう事だってよ大佐」

 「とりあえず離せって!」


 やっと開放された。俺は訳が分からず戸惑った。

 「ゴホッゴホッ……」


 「それで? 何がいけないんだよ! 名前ぐらいで!」

 「私達祈り子は正体を知られるわけにはいかないからです」


 「祈り子様! 私が説明します」


 「祈り子様達の力があるからこそ我々はこうして生きる事が出来ているもし居なければ,Antsybalにすぐに街を攻撃されてしまうだろう。つまり我々にとっては救世主であり,絶対的な存在である」

 

 「では,その力というのはどこからくるものだろうか? 鉄騎の適合率のように祈り子様達は特別な適合率を有しているけれど,それだけじゃない! 大事な要素として我々の街の人達から崇拝され,感謝されることでその力を発揮する事が出来ているとされている」


 「つまり特別な存在であり,身近な存在となってはいけないんだ。だからこそ一般と同じ名前が存在する! なんて知られるわけにはいかないんだ」


 「ふ〜ん! なるほどな! まあ要は神様って事だろ? だからこの日本は他の神様,仏様とか宗教とかの教えがないのか」

 和久さんは簡単に納得したようだが,俺には理解できない。


 「いいんです! 大佐! こちらに居る方々が噂の違う世界の住人なんですよね」

 「はい! 彼らがそうです」


 「なら問題ないかと思います! それにきっと彼らも黙っていてくれると思います」

 「東雲さんが倒れたと聞いて,様子を見に来ただけですから。騒がしくして申し訳ありませんでした」


 「いえ!」

 「では私は戻りますね」

 祈り子様の里沙は病室から出ていった。


 「雄二! 祈り子様がお前の妹ってマジ??」

 「本当ですよ……俺だってびっくりしたんですから」


 「雄二,貴様分かっていると思うが,今日会った事さえ誰にも言うなよ! ましてや名前なんて言ったらどうなるか流石に分かるな??」


 「はい……」


 「ホント何があるかわかんねぇ〜な〜」


 「とりあえず今日は帰れ二人共」

 「へいへい! それじゃあ雄二帰るか」

 「はい」


 俺と和久さんは病室を後にした。

 「なあ雄二,バタフライ・エフェクトって分かるか?」

 「知らないです」


 「風が吹けば桶屋が儲かるは?」

 「まあ聞いた事だけは」


 「雄二が来てからこの世界の状況が変わりつつある。それが良い方に,悪い方向に向かっているのかはわからない。でも俺はいい方向に向かっている信じているし,その変化が俺達が帰れるきっかけになると俺は信じている」


 「だから頑張れ!」

 「まあなんとなくやりますよ」

 「そうかぁ」


 いつになく大人の表情をしている和久さんのこの時の横顔を俺は何故か忘れられなかった。

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