第14話 〜老少不定〜

 俺達がいるテントの外の方で何やら騒がしくなっている。会長の部隊が戻って来たみたいだ! 丁度恭子も先生や大佐の話から開放されたようで戻ってきた。


 「東雲会長の部隊が戻ってきたみたいね。皆で迎えに行きましょうか」

 俺達は皆で東雲会長の部隊の帰還と財前の帰還を迎えに行った。


 しかし,そこへ戻ってきたのは東雲会長の部隊の五騎だけだった。会長の白銀の鉄騎の右手には鉄騎の頭部だけがそこにはあった。

 

 会長が鉄騎から降りてきて,俺達の方へと向かってくる。会長が俺達の目を一人一人見つめ話し始めた。


 「すまない……着いた時にはもうすでに間に合わなかった」

 「かなりの数が襲ってきていてレベル3なんかもいて,これが限界だった」


 「私達が着いた時には変異種は見当たらなかった。きっと財前君が倒したんだろう」

 「しかし財前君は変異種を倒した後に沢山きたAntsybalにやられたんだと思う」


 「もう少し早ければ助ける事が出来たかもしれなかった……いや,もう何も言うまい」

 「彼は自分を犠牲にして君達四人を逃がすことに成功したんだとても立派だった」

 会長が俺達に語ってくれたが,俺の耳にはほとんど届いていなかった。


 残された俺達四人は消沈していた。一番最初に雷斗が口を開いた。


 「あの財前がやられるなんてな……一応覚悟しているつもりではあったけど,これが化物のAntsybalとの戦いなんだな」

 「だから嫌だったんですよぉ……鉄騎に乗るなんて……」


 「私達これからどうなるだろうか。巧くんが居なくなってチームとしてもいきなりまたバラバラになっちゃうのかな?」


 「急に仲間が死んだって聞かされて納得出来るんかよ?? 俺は正直出来ねぇよ……」

 俺は率直な気持ちを言った。

 

 「私達だってそんな簡単に納得出来るわけないじゃない! 巧くんと友達じゃなかったとしても,小さい時からこの街で一緒に学んで大きくなった同士ではあるのよ! 誰だって納得なんて出来るわけないじゃない……」


 「……ごめん」


 「私はもう鉄騎に乗りたくないです。怖いです」


 「なあ俺達って財前に助けてもらって,生かしてもらったって事になるよなぁ〜……めんどくせぇけど,なんか半端な事出来なくなっちまったなぁ〜」


 雷斗の一言でより空気が重くなった。


 「ここにずっと居ても仕方ないからね。解散しましょう」

 リーダー恭子の発言で俺達は解散する事にした。


 俺はやりきれない気持ちを抱えたまま,どうにもならないので,冬月大佐のもとへ訪れた。


 「冬月大佐! 黒崎雄二です。入ってもよろしいでしょうか?」

 「雄二か……入れ。どうした?」


 「野外演習は安全だったんじゃないですか?? 財前がやられるような事態が,仲間がやられるような事態が起こるなんて聞いてないですよ……」

 俺は零れそうな涙をこらえながら,本来なら逆らってはいけない相手に逆らってしまっている。


 「今回の事は本当に残念で仕方ない。優秀な鉄騎乗りの一年生を失くすとは私も軍でさえ思わなかった……」


 「一年生は安全な場所を選んで任務に行ってもらってるに決まってる。いきなり危険で大変な場所に送るわけがない!! ただ今回に関しては全てが例外だった。レベル2の変異種,それに強い個体なんて,今まででも数えるしか確認された事がない個体だ。それが不運にも雄二達に当たってしまったとしか言えない」


 「つまり大佐は運が悪かったとそう言いたいんですか??」


 「わかりやすく言ったらそういう事になる。だが本来なら全滅してもおかしくなかったレベルだったが,財前が居てくれたおかげで雄二達が生きて帰ってこれたとも言える」


 「運が悪かったのか良かったなんてのはどうでもいい。どうしたってもう財前が戻ってくる事はもうないんですから」


 「そうだ,戻ってくる事はない。彼のおかげで生きる事ができたその命を大切にしろ。もし憎むなら強くなれ雄二! そしてAntsybalを殲滅しろ!」

 俺は大佐の部屋を後にした。頭の中が整理出来ないまま寮に戻る。

 「おう! おかえり雄二!」


 透が元気に迎えてくれた。気にしてくれてるのだろうか?

 勢いよく俺の肩を組んできた。


 「よぉ〜〜し!! 飯食いに行くぞ飯食いに!!」

 そのまま連行されるかの如く食堂へと連れて行かれる。

 食堂に着くといい匂いがしてくる。こんな時でも腹は減るのだから不思議だ。


 「おばちゃ〜〜ん! 雄二連れてきたよぉ〜!」

 「おお雄二きたか。色々大変だったみたいだね。今日は特別なメニューにしといたから好きなだけ食べていきな」


 盛られた食事は豪勢なのは勿論なんだが,それよりも量が凄い。


 「雄二,じゃああっちで食おうぜ!」

 見ると翔太と茂人、それに雷斗もいる。


 「おう雄二じゃねえか」 

 「雷斗がいるなんて珍しい。寮で初めて見たよ」


 「ん~まあ俺は適当にしてるからな、気付かなかっただけだろ」

 「じゃあ皆揃ったことだし、いただきます」

 「「「いただきます」」」


 透が率先して馬鹿な話をしてくれた。俺は落ち込むどころか透から元気をもらった。さすが俺の親友だと思った。雷斗も一緒に飯食うなんて初めてで、雷斗がこんなに笑ってるのも初めて見た。


 「透ありがとうな! 元気出たよ!」


 「ん!? まあこの寮の決まりというか、チームやクラスメイトの一人が戦いで死んだら、皆で騒いで飯を食う! 一人にさせないってのが飯田のおばちゃんからのお達しだよ」

 「そうやって何かあった時こそ、皆で騒ぐのが一番だって飯田のおばちゃんが言ってたんだよ! だから雄二と雷斗も誘って飯食ったんだよ」


 「そうなのかありがとうな。翔太と茂人もありがとう」

 「良いって事よ!」

 「まあ元気出してこうぜ」


 「ホラホラしけた顔してんじゃないよ!」

 「おばちゃん今日はありがとうね」

 「いいってことよ! とにかく食って元気出しな」


 皆いい人だし,おばちゃんもありがたい。

 「生きて帰ってくる事が一番大切さ。今後も何かあっても,なんでもいいから帰ってくるんだよあんたら」


 「「「はい」」」

 俺達はテーブルに盛られた大量の食事を平らげた。


 「それじゃあごちそうさまでした」

 「「「ごちそうさまでした」」」


 俺達はそれぞれの部屋に戻った。今日は色々あって疲れているはずなのに中々寝付けないでいる。ベッドの下から上に居る透に向かって話しかける。


 「なぁ透,財前って嫌な奴だったよな?」

 「ん〜? ああ,嫌な奴だったよ最高に」


 「財前ってさ自主練毎日やってたみたいなんだよ。それも学校の訓練よりもずっとキツイ練習を毎日毎日一人で。自分が街の皆を助けるって言ってたんだよ……」

 「ああ……」


 「クソ野郎だよな全く」

 「ああ……」

 「悔しいけど,実力だけは確かにある奴だったからな財前は。一年生で一番凄い奴だったよ」

 


 戦いがあるとか,化物とかがいるなど,どこか現実味がなかったけれど,財前の死をきっかけに俺達は本当に危ない命を懸けた戦いをしているんだと実感が湧いた。


 俺は今宵,眠れない夜を過ごした。


 ほとんど眠れないまま次の日の朝を迎え,学校のクラスに着くと,山口先生が珍しくすでに教室にいた。

 「おいお前ら全員座れ〜!! ここにいる全員は勿論知っていると思うが,昨日財前が野外演習中にAntsybalにやられて死んだ」


 「お前らなら分かっていると思うが,一年で誰よりも優秀だったのは財前だった。財前ほどの実力を持っていてもやられる事があるのがAntsybalとの戦いってやつだ」


 「財前のおかげである意味では戦いの大変さと過酷さと危なさを再認識した事だろう。仲間の死を無駄にするな。今後の戦いの糧にしろ! そして財前の事をクラスメイトとして同士として決して忘れるな。皆で黙祷を捧げよう。 黙祷――」



 俺達はクラス皆で目を瞑り財前の死を弔った。


 それぞれの思いと共にまだ死を受け入れる事が出来ないまま俺達はまた訓練の日々と以前の日常へと戻っていった。

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