第二章

第15話 〜突然の死と別れ〜

 あの日の一件から数日が経った。しかし俺自身財前の死をまだ引きずっていた。


 他のメンバーはむしろやる気になっているみたいだ。いつもはだるそうにしている雷斗でさえ,訓練に熱を入れいてる。自分自身の射撃の技術を上げると共に,新たな攻撃の手段を考えているようだった。

 

 雷斗自身あの時に変異種に一つも傷をつける事が出来なかった事が悔しかったらしく,もしまたあのような状況になった時でも対抗できる手段を模索しているみたいだった。


 恵に至っては,上級生の鉄騎とひたすら戦っているようだった。それも一対一ではなく,数体を同時に相手をして訓練しているようだ。そんな状態でも勝てるような技術と新たな力を身につけたいと言っていた。

 

 恵はあの時片腕を取られる事がなければ,もし他に攻撃する手段があれば,財前を残して逃げるなんて事をしなくて良かったかもしれない。

 恵もまた自分自身の実力の無さを悔やんでいるみたいだった!


 俺は雷斗や恵のように仲間が殺された,死んだ事で奮起出来る訳がない。


 毎日,勉強が面倒くさいだの,数学の先生がウザいとか部活が面倒くさいなんて言っていた平和な日本から突如来た俺がつい先日まで一緒に学んでいたクラスメイトが死んだなんて現実を受け入れる事が出来なかった。


 それにあの時,もしからしたら俺が残っていたら何か対処が出来たかもしれない。

 変異種といえど,適合率が高い俺は何か出来たかもしれない。

 助ける事が出来たのしれない。そう思うと俺は悔やみきれなかった……


 恭子に至っては,財前が居なくなった事でチーム内のバランスが崩れた為に,新たな作戦の立案やフォーメーションを模索しているようだ。


 さらには軍の研究者達が書いてるAntsybalの論文など,Antsybalに関する最新の知識や今までの文献などを漁って前回のような事にならないようにどんな事でも対処出来るような知識を勉強しているようだった。


 俺だけが引きずり前に進めないでいる。


 俺達のチームに新しいメンバーが加わる事になった。五人で一チームであるチームで,財前が抜けた後に入るメンバーが決まったようだ。


 学校の鉄騎の授業の中で山口先生から発表があった。


 「あぁ〜,藤井! お前達のチームの新しいメンバーが決まったぞ! 工藤! お前が新しいメンバーだ」


 そう山口先生から紹介された工藤という女の子は俺達のチームに入る事になった。

 「初めまして,工藤彩乃くどうあやのです! よろしくお願いします」

 メガネをかけたいかにも優等生といった見た目の彩乃は透き通るような白い肌と綺麗な黒い長い髪をしていた。


 「「「「よろしく!」」」」


 簡単に挨拶を交わした。俺達は新たに彩乃がメンバーに加わった。

 彩乃は自分自身の簡単な自己紹介をしてくれた。


 彩乃の実家は武道の道場を開いているらしく,見た目に反して鉄騎に関しては,格闘技術が優れてるみたいのようだ。


 鉄騎での戦闘も勿論接近戦で,武器を使わず自らの拳や脚を武器としている。

 俺達は彩乃を交えてチームとして戦う練習をしたが,一つも上手くいく事はなかった。

 

 今までよりもさらに個が強くなり,自分勝手な行動をするようになった恵と雷斗を上手くフォローする事が出来なかった。


 今までは全て財前の力量に任せていたフォローを今度は俺達でやらないといけない。

 さらに彩乃自身は接近戦を主戦場としている為,フォローをするような技や力を持っている訳ではないので,彩乃にその役目を期待する事も出来ない。


 恭子も頑張ってフォローをしているようだが,恭子自身の鉄騎の扱いでは恵や雷斗のフォローさらには彩乃のフォローまで手が回らない。


 俺自身も頑張って皆の手助けをしようとするが,皆みたいに昔から戦闘経験があるわけではないので,勿論上手くいかない。


 一年生の野外演習をした事をきっかけに,一年生は授業のカリキュラムの一環で外に出て実際にAntsybalを調査したり,戦ったりする授業が新たに始まった。


 他の一年生も野外演習をした俺達のように,実際にレベル0やレベル1と戦ったりする。

 あの時は簡単だったレベル0やレベル1が嘘のように倒せないでいる。


 個々としては以前よりもパワーアップしている事は間違いないと思うんだが……連携が上手くいなかい。


 雷斗の射撃が恵の鉄騎に当たったり,俺の攻撃が皆の邪魔をしてしまっている事もある。

 恵は恵で先頭で暴れすぎて彩乃の邪魔になったり,お互いがぶつかったりとチグハグだ。

 恭子もリーダーとして指示を出すが,恵がちゃんと聞くわけもなく,全てが悪い方向へと動いている。


 そのせいで,Antsybalを上手く倒す事が出来ないでいる。

 皆も気付いていることだと思うが,財前という人間がどれほど優れていたかを痛感する。

 他の一年生はどんどん次のカリキュラムに進んでいくが,元々クラスの選抜で選ばれた俺達は足踏みをしていた。


 そんな頃に三年生達が俺達が野外演習で行ったAntsybalの巣の調査に出かけていた。

 理由は変異種があの時に仲間を集めたせいでAntsybalの巣窟になっているみたいだからだ。


 東雲会長があの時に巣の近くまで近づいた唯一の人だから,自らチームを率いて調査に出向いたという事を山口先生から俺達は聞いた。


 その調査をしてきた東雲会長のチームの報告があがった。

 やはりあの巣にはAntsybalが沢山集まってきたみたいだ。

 レベル2やレベル3も多くいるようで、このまま放置する事はできないようだ。


 しかしAntsybalが一箇所に集まってくれたおかげで、まとめて殲滅する事ができるチャンスという事だという。


 ただ、そう簡単にいく事ではない!

 

 レベル2やレベル3も多くいるために、一年二年三年の全学年の総力全てを使って殲滅作戦を遂行するという事で決まった。


 もちろん俺達のチームの皆は当然行くものだと思っていたが,現在行っている演習の成績が良いチームが殲滅作戦に選ばれるみたいのようだ。


 このままだと俺達のチームは作戦で選ばれる事はないかもしれない。

 俺自身はそれでもいいと正直思っていた……

 戦いたくないと思っていたし,戦えないと思っていた。


 とある日,いつものように透と寮でご飯を食べて,いつものように部屋でくつろいでいると,部屋に訪問者が現れた。


 「おい! 雄二いるか? 雄二!」

 その声の持ち主は雷斗だった。


 「どうした? 雷斗何かよう?」

 「何かよう? じゃねえだろ! お前あれからずっと何やってんだよ!」


 雷斗は俺に対して怒っているようだった。


 「何だよ! 急に……」

 「お前がチームで頑張ってくれないとチームが強くならなだろ!」


 「なんで俺なんだよ!」

 「適合率が一番高いお前だから言ってるんだろうがよ!」


 「財前の代わりとかじゃねぇ,だけどその代わりが務まるとしたらお前しかいねぇだろ」

 「このままだったら俺達チームとして作戦とか連れて行ってもらえないだろ!」

 「いいだろ別! そうだったとしても!」



 「まあまあまあまあ,二人共その辺にしとけって!」

 透が俺達の間にはいり,鎮めようとする。


 「透は入ってくるなよ! これは俺達のチームとしての問題なんだよ」

 「そうだけどよぉ……あんまり騒ぐと迷惑だろ!?」


 「あぁ!? そんな事はいいんだよ! 雄二をどうにかしないといけないんだよ!」

 「雄二お前本当にこのままでいいのか? 鉄騎に乗ってAntsybalを倒したくないのかよ!?」

 「別に……俺はお前達みたいな熱量はないよ!」


 「テメー本当に言ってるのかよこの野郎」

 雷斗をそう言うと,俺の顔面を殴ってきた。

 人生で初めて顔を殴られた。凄い痛いけど,俺の中の何かがその時切れた。


 「殴ったなこの野郎!」

 「おお! いいぜかかってこいよ」

 俺達二人は取っ組み合いの喧嘩が始まった。


 小さい時から武道の授業をしていた雷斗と喧嘩しても敵うはずがなかった。

 それでも何回でも倒されても殴られても,俺は何度でも雷斗目掛けて突っ込んだ。


 透は俺達の喧嘩を止めようと始めはしていたが,諦めてどこかへ行ってしまった。

 俺はボロボロになっていく。それでも雷斗にどうにかして一撃食わしたいという欲求だけでまた立ち上がる。


 透が戻ってくると,食堂のおばちゃんと清美ねえちゃんを連れてきていた!


 「二人とも喧嘩は駄目ですよ! もうその辺にしときなさい!」

 清美ねえちゃんが俺達の喧嘩を止めさせようとした


 「「うるせぇなババ――」」


 その瞬間から記憶がない。記憶が飛んだ。


 気が付くと俺はベッドの上にいた。身体を起こそうとしたが,全身が痛くて起き上がれない。


 「気が付いたか??」

 そう声をかけてきたのは透だった。


 「雄二,目が覚めてよかったよ! 清美ねえちゃんにもの凄い蹴りかまされて,死んだかと俺は思ったよ」

 透は笑いながら俺に話してきた。


俺は喋ろうとするが,上手く喋る事ができない。


 「雄二,あんまり無茶するなよ! 顔腫れてアザだらけで大変な事になってるよ」

 透に鏡を見せられて,俺は驚愕した。


 自分の顔なのかどうかはっきり分からない位腫れ上がっていて,顔が潰れている。


 「とお……る,結局……俺達はどうなったの?」

 「え? 清美ねえちゃんに二人共瞬殺されて,雷斗と雄二は医務室に運ばれたよ!」


 「雷斗は目が覚めてすぐに戻って行ったが,雄二は怪我がひどいからまだ横になった方がいいよ」

 「そっかぁ……」


 「清美ねえちゃん凄かったぜ本当に! 全然目で追えなかったよ! 気付いたら二人とも気絶してたもんな」

 笑いながら透が話す。俺のことを多少でも元気づけてくれているのかもしれない。

 透という人間,男はそういう奴だ!


 「じゃあ俺はそろそろ行くわ! 雄二は今日はここで寝てて良いってさ」

 「そっか。透ありがとうな迷惑かけたわ!」

 「いいよ別に! じゃあな」

 「じゃあな」


 透と別れた後,俺は雷斗との出来事を考えた。

 今日まで,周りに手助けされて言わるがままに何とか生活してきたけど,本当の意味で俺は覚悟を決めてこの世界と俺に起こっている状況に向き合わなければいけないのかもしれないと悟った。


 次の日の朝を迎え,身体中が痛いのは変わらないが,なんとか身体を起こすことができ,一度寮に戻り,学校へと向かった。

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