第12話 〜選抜演習④〜

 次の日,俺達は初めて外に出ることになる野外演習に向かう。一年生が全員集合した。    

 冬月大佐から挨拶があり檄が飛ぶ。


 「一年生の諸君。選ばれたメンバーは今日は初めて外の訓練となる。不安の者も居るかも知れないが,安心しろ! 三年生をここで待機してもらって何かあった時はすぐに駆けつける事が出来るようにしている。さほど危なくない場所に行ってもらう事となるだろう。存分に普段身に付けた鉄騎の力を見せてくれ!! 私からは以上だ。東雲会長から挨拶があるから聞くように」


 「一年生の皆さんおはようございます! 三年生の東雲桜しののめさくらです。私も二年前は今の皆さんと同じで外でAntsybalと戦うのは不安でした。ですが日頃の鉄騎の訓練でやった事を守ればAntsybalを倒す事が出来ます。私も出来ました。そのおかげで徐々に自信をつける事ができ,今では最強などと言われるほど成長する事が出来ました。皆さんも今日の演習でAntsybalと戦って,自信をつけて下さい。何かあれば私がすぐに駆けつけますから! もっというと私の為に敵を残してくれてもいいのですよ!? では皆さん頑張ってください」


 東雲会長の挨拶が終わり,俺達五人は出撃の準備をしていた。


 「今日私達が向かう場所はレベル0とレベル1しかいない場所になるわ。周りにも特に問題がある訳でもなさそうだわ。比較的簡単な任務だと思う。ただ何が起こるかわからないから注意だけはするように。特に恵ちゃんと雷斗くんはあんまり突っ走らないように」


 「雄二くんと巧くんはいつも通りで! じゃあとりあえず頑張っていきましょ」

 リーダーの恭子がこの日の情報をかなり収集してくれて教えてくれたおかげで,俺達は安心して演習に向かっていける。


 「最初は藤井がなんでリーダーなんだ?? って俺は思ってたけど,このチームだと特に藤井が目立つよな! 情報収集や作戦の立案なんかも藤井かなり凄いし! リーダーは財前でもいいかな? とか思ってたけど,俺が間違っていたらしい」


 雷斗がそう言うように,恭子の能力が高い。戦闘が始まると影を潜めるが,戦闘が始まるまでの準備段階での恭子の存在感が凄い!


 恭子がリーダーで財前がフォローしてくれるだけで心強い。俺も頼ってばかりじゃいけないと思う。今回の演習ではとにかく邪魔だけはしないようにしようと心に誓っている。


「皆準備はいい? じゃあ行くわよ!」

「「「「了解」」」」


 まだ街の中にいる俺達は本当に外に出るまではまだ時間がかかる。

 恭子と山口先生から注意事項のような事を長々と無線で話しているのを流して聞いていると街の外の方へといつの間にか到着していた。


 俺が知っている街の風景はなくなり、廃墟や崩れた建物が目立つようになってきた。


 「そろそろ外に出るわよ! 皆あそこに浮かんでる物体が見える? あの浮かんでいる物体より先が結界で守られていない外の世界の境界線よ」


 座学の授業で学んだ事だったが、境界線の所には風船のような物体が浮遊しており、その先が外の世界になる。祈りの一族の結界の限界がこの浮遊物までらしい。まあこの辺に住んでる人もいなそうなので、誰かが居たりする事はないだろうから安心ではある。


「それじゃあ行きますかぁーー!」

雷斗が先頭切って走り出す。


「うひょーー! これが外の世界か! そんな酷いってほどでもないなぁ」


 守られた結界を抜ける時に何かを通り抜ける感覚があった。もの凄く丈夫で頑丈なシャボン玉を通り抜けたかのような感覚であった。


 抜けるとそこは見たこともない景色の外だった。砂漠とまではいかないが荒れた大地や自然がそこにはあった。人が居て住んでいたであろうかすかな文明があちこちに残ってはいるが、ボロボロになってしまっている。


 俺が知る日本はここにはなかった。本当に未知の敵と戦っているんだと実感する。

 俺達は指示された場所へと向かっていく。がそのまま簡単にいくわけもなかった。


 「おりゃーーーーー私の獲物はドコだよオラ!!」

 「ちょっと恵ちゃん先に行かないで!」

 「うるせぇー!! 敵はドコだよ恭子ー!!」

 今まで静かに我慢してた恵がとうとう暴れ始めた。


 このチームで一番のじゃじゃ馬は何を隠そう恵だ。彼女は鉄騎に乗ると性格が豹変するらしい。戦闘狂へと変貌するからチームとしてはじゃじゃ馬過ぎて難しすぎる。ただ戦闘の腕は財前が認める程確かではある。小さい身体に適応して鉄騎も小さく,とにかく素早いのが特徴で,双剣を操るのが恵の鉄騎だ。


 

「オラオラ〜!! Antsybal出てこいや〜!」

 恵が暴れ始めたが,まだAntsybalは出てこない。


 「とにかく恵止めないと一人で飛び出しちゃうぜあいつ」

 「恵ちゃん聞いて! もうちょっとしたら私達はAntsybalのレベル0やレベル1の巣に到着するわ。そこに行けば好きなだけ暴れる事が出来ると思うからそれまでは私達に後についてきて」


 「チッ! 仕方ねぇな! それまでは我慢してやるよ」


 恵が落ち着きを取り戻したみたいだ。初めて恵の豹変を見た時はびっくりしたものだ。普段が普段なだけにまさか鉄騎に乗るとこんな性格になるとは思わなかった。


 しばらくすると大きな穴が見えてきた。地面が陥没している大きな穴が出現した。穴の直径が三十メートルはあるだろうか? とにかく巨大な穴だ。


 「この穴の下にAntsybalの巣があると思われるわ。どの位下まで続いてるのかわからないけど,降りないといけないわね」


 「ヒャッホー!! 私がぶっ潰してきてやるよ!!」

 恵が一番に穴に飛び込んでいった。俺達も後に続いて飛び込む。

 かなり下の方まで降りただろうか。どの位降りたかは定かではないが,底まで到着したみたいだ。


 「なぁ恭子,Antsybalの巣ってこういう感じなの??」

 「はっきりと特徴的なものがあるとも言えない事が多いわね。様々な形をしているものが多いわ。今回でいうと,私達はこの穴だけど,ウサギさんクラスの巣は洞窟みたいな場所みたいだしね」


 「私達も初めてだからね。データや資料によると,ここのような地面の場所にある巣は今いる巣の形である事が多いみたいだね」

 「そうなんだね」

 

 「そんな事より,奥の方でもう恵が戦闘始めちゃってるみたいだぞ」

 「えっ!? うそ!? すぐに駆けつけないと」

 「ホントに勝手すぎるだろあいつ」


 皆で駆けつけると,恵の鉄騎が戦闘を始めていた。

 「ヒャッホー!! 化け物かかってこいや!!」

 すでに恵は暴れ回っていた。


 「巧くんはフォローお願い。雷斗くんもすぐに攻撃に参加して」

 「おい藤井,Antsybalだけど,レベル0とレベル1しかいないって聞いてだけど,レベル2もいるぞここ。孵化してきてるけど,大丈夫なのか??」


 財前が恭子に確認を取るなんて珍しい。


 「恵ちゃんがもう戦闘始めちゃったから戦うしかないわ。それに孵化する前なら安全だし,レベル2だとしても私達の戦闘力の方が上だからそこまで心配しなくても平気よ」


 「郡司が突っ込まければ,こんな事にならずに済んだのに……世話がやける」

 「まあそんな事言ってても仕方ないからなぁ,俺達も恵の後に続いて攻撃するぞ」


 俺達は恵の勢いに乗っかってAntsybalと戦い始めた。俺は戦闘している恵や雷斗を横目に着実にレベル0とレベル1を殲滅していく。


 穴を降りた先には大きな空洞の部屋が存在していた。そこにはウヨウヨと動くレベル0が沢山いて,その他にレベル1が端の方でサナギになっていた。


 初めての戦闘だが,レベル0は確かに簡単に倒す事が出来た。身体はデカイが攻撃をしてくるわけでもないので鉄騎なら簡単に倒せる事が分かった。レベル1も大した事がなかった。鉄騎ならば確かに問題なく倒せる。


 恵がとにかく暴れ回って次々にAntsybalを殲滅している。財前と雷斗もそれに感化されてAntsybalを倒していく。


 俺達が強いのかそれともレベルが低いから弱いのか?レベル2もいるような事をいっていたけど,関係なく次々に倒していく。

 

 「オラオラ〜!! かかってこいや化物どもめ! ぶっ殺してやるよ!」

 「恵が先頭切って戦ってくれるから俺はめちゃくちゃ楽だぜホントに」


 恵と雷斗の相性は確かに良い。先頭で暴れまわる恵が居て,後ろから射撃する雷斗がいる。雷斗の射撃の腕は相当なもので,外している所をあまり見たことない。

 さらに財前がフォローしているので,正直俺と恭子が出る幕がほとんどない。何もしなくても三人が殲滅していくからだ。


 元々はレベル1までしか出ないと聞いていたけど,レベル2まで出てきている今回は本来なら体制を整えるか,本部の方に連絡して三年生の助けを呼ぶのが普通なのかもしれない。


 恵が関係なく戦闘してしまったせいで乱戦のようになってしまったが,たまたま今回はそこまで強い個体がいないから助かっているようなものなんだと思う。これがレベル3なんていたら恵が攻撃した事で,取り返しのつかない事になってしまったかもしれない。


 「恵ちゃんに続いてどんどん攻撃して! もらったデータと資料よりも数が多いけど,私達なら大丈夫だと思うから」


 「私にかかってこいやAntsybalどもめ!!」

 あっという間にAntsybalの巣のレベル0レベル1レベル2を殲滅し終わった。

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