第11話 〜選抜演習③〜

 俺達が丁度訓練場に着いた時,三年生のチームが遠征から帰ってきた所だったようだ。

 「見て! あれが東雲会長の居るチームよ」


 見ると,東雲会長が乗っているという鉄騎は白銀に覆われた外装でとても美しかった。

 その鉄騎から降りてきたのは銀髪のロングヘアーをなびかせた鉄騎と同じく美しい女性だった。


 「いつ見ても東雲会長って綺麗な人だよね。それに強いんだからかっこいい」

 恭子がそう言う。


 確かにそう思った。一番強い人だというから,どんなゴツい人かと思ったら,とても綺麗な人で驚いた。もっと驚いているのは,その東雲会長が俺達の方へと向かってきているという事だ。

 東雲会長が俺達五人の前に立つ。


 「君達が今年の一年生で,今度の野外演習に出る一年かな?」

 「はいそうです!」

 驚くほど気持ちのいい返事をしたのは財前だった。


 「それに君がもしかして雄二君かな? 私よりも鉄騎の適合率が高いって噂の」

 「え!? まあ……はい一応俺が雄二です。よろしくお願いします」

 「やっぱそうだよね。もしかしてこれからチームで訓練するのかな? だったら私が相手になってあげよう!」


「「「えっ!?!?」」」

 急な提案で皆驚きが隠せない。


 「相手がいないと練習にならないでしょう? せっかくだから私が直々に直接相手になってあげる。勿論ちゃんとハンデとして私だけで戦うから!」

 半ば強引に東雲会長につられて戦う羽目になった。


 「みんな聞こえる?」

「「「「きこえるよ」」」」


 恭子が無線で皆に話しかける。

 「東雲会長と戦ったことはもちろんないけど、東雲会長の鉄騎の特徴としてはとにかく速いって事は分かってるわ」


 「攻撃もだけど、攻撃以外もとにかく速いのが特徴で、捉えることすら難しいと思う」

 「とにかく会長の動きを一瞬でも止める事ができれば、一撃位は攻撃を与える事ができるかもしれない」


 「話してたとおり、恵ちゃんと雷斗くん,雄二くんの三人は前で東雲会長にアタックしてほしい。その他はフォローするわ。巧くんもフォローお願いするわね」

 「ああ、了解した」

 「じゃあ行きますか!!」


 模擬戦の開始の合図が鳴る。

 始まるや否や雷斗と恵の鉄騎が先制攻撃を仕掛けた。しかし,仕掛けた攻撃を東雲会長の鉄騎は簡単に躱した。


 いや! 躱したなんてものじゃない。鉄騎が消えたという表現の方が正しい。

 雷斗が遠距離攻撃を,恵が近距離攻撃を仕掛けたが,会長の鉄騎は一瞬にして姿を消し,二人の攻撃を躱し背後を取った。


 俺の鉄騎の姿を消す技とは違う。あまりにも速すぎて消えたと錯覚しているだけだ。

 それにしても二人の攻撃をいとも簡単に躱してしまうのは凄いとしか言いようがない。


 お互いに距離を取り直した。

 「最初の攻撃で皆分かったと思うけど,とにかく素早いからどんどん攻撃していくしかないわ。だから三人はとにかく手数を増やして攻撃して!」


 恭子が指示を出す。

 「「「了解」」」


 恭子の指示で攻撃の手数が増やしたが,とにかく当たる気配がない。


 皆の攻撃が当たらないのであれば,初心者の俺の攻撃が当たるわけがない。

 だが,俺は鉄騎の姿を消す事が出来る。初めての鉄騎に乗った時に財前に攻撃を食らわしたのもこの技のおかげだった。


 これだけの乱戦の中で鉄騎を消して背後を取れば,いくら会長といえど見えない相手なら,一発位は食らってくれるだろうと考えた。他の皆が精一杯攻撃をしてくれてる中でさり気なく俺は姿を消した。


 攻撃が飛び交う中で,徐々に東雲会長の背後に近づく……


 左手にシールドを携えて絶好のチャンスを伺う。俺は全身全霊で東雲会長目掛けて突っ込んだ。俺の姿は見えていないはず! 見えていないはずなのに華麗に躱された。


 俺達は手も足も出ないまま会長に一撃を与える事もなく模擬戦が終了した。

 東雲会長の鉄騎はさらに俺達に一度も攻撃する事がなかった。


 模擬戦の東雲会長の動きを直接肌に感じて,この学校一強いというのも納得できる。

鉄騎を降りると東雲会長が俺らに声をかけてくれた。


 「君達の戦いは中々良かったよ。ヒヤッとした攻撃も何回もあって私の訓練にもなった。え〜と君のフォローが凄かったね。このチームの連携の要は君の鉄騎次第って感じだろうね。名前を聞いてもいい?」


 「はい! 財前といいます!」

 「財前君か。君達のチームの事も覚えておこう。また今度私と訓練してくれ」


 「はい」

 「東雲会長! 俺の鉄騎の姿は見えていなかったと思うんですけど,なんで攻撃を避ける事が出来たんですか?」


 「ん? あれか? ただの感だよ」

 「感で避けたんですか?」

 「そうだよ! 私の感は中々当たるんだ」


 「そうなんですか……今日はありがとうございました」

 感で避けたなんて,なんて人だ。


 「急だったが私もいい勉強になった。このチームの実力なら今度の外での訓練も問題ないでしょう。多少のハプニングがあったとしても何も問題ないだろう。じゃあまたね」


「「「ありがとうございました」」」


 俺達もそのまま解散しその場を後にする。誰も何も言わなかったがこの作戦というより,恭子が提案したこの布陣が一番連携が取れていたことは言うまでもなかった。


 野外演習までの数日間,俺達はチームで戦うことに慣れる為に幾度となく模擬戦をした。 

 全然勝てなかったのが嘘のように,自分の達のチームは勝利を収める事ができた。




 チームを組んで,何度も戦うことで分かったことだが,財前がとにかく凄すぎる。フォローを完璧にしてくれるから,好き勝手に戦うことが出来る。よく俺はコイツに勝ったなと思う。


 いよいよ明日が野外演習の日となった。Antsybalを生で見て戦った事もないが,明日の演習はきっと大丈夫だろう。


 だけれど,中々寝付ける事が出来ない。外の風に少し当たろうと思い寮の外に出る。今日も誰かが自主練をしている。いつもフードを被っていて誰だか分からない。


 毎日夜に一人で自主練をしているような奴なら,真面目な奴だと勝手に思っている。でも一体誰なのだろうか? 邪魔にならないように,そっと後ろから正体を見ようとした。


 「誰だ???」

 その声の正体は意外な奴だった。


 「悪い財前……邪魔するつもりはなかったんだけどね」

 「なんだ雄二か」


 財前の顔から溢れ出す汗が,どれほど練習をしていたのかを物語る。日頃の学校の訓練ではどれだけキツイ練習でもほとんど汗すらかかずに簡単にこなす財前。そんな奴がこれだけの汗をかく練習をしているとは思わなかった。


 「財前明日は野外演習だし,そろそろ身体を休めたら?」

 「別に大丈夫だ。普段毎日やっている日課だし,明日は特に安全な一年生に向けての演習だろ? 大丈夫だろ」

 「財前毎日やってるのか??」


 「ああ……まあな。初心者だったお前にすら負けてしまったからな。鍛え直してるんだ。これで適合率が上がるかどうか分かってないけどな」

「僕は財前家の人間として,この街の奴らを守ってやらないといけないからな。強くならないといけないんだよ」


 「十分強いと思うけどな財前!!」


 「東雲会長には五人でも歯が立たなかったじゃないか。今のままでは駄目だ! きっと僕も含めて僕達は強い敵と出会ったらきっと勝てない。逃げるしかないと思う。それは駄目だ。どんな敵でも殲滅出来るほど僕は強くならないといけない」


 財前は正直嫌な奴だし,口も悪いし態度もでかいからかなり腹が立つ奴だが,実はかなりいい奴でとんでもなく凄い奴なのかもしれない。


 「財前お前って実はかなり良い奴だな!!」

 「あぁぁ!? なんだ!? 喧嘩売ってんのか??」

 「いや! 売ってないけど! 邪魔して悪かったな俺は部屋に戻るよ」

 「僕はもう少しやっていくから。じゃあな」


 財前はそのまま勢いよく走っていく。俺は部屋に戻った。

 「ん〜? 雄二どっか行ってたのか?」

 「悪い透起こしちゃったか? ちょっと夜風に当たってただけだよ! もう寝るよ」

 「そっかぁ。おやすみ〜」

 「透もおやすみ」

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