第9話 〜選抜演習〜

 学長室の前に着いた。ノックをする。

 「黒崎です!」

 「雄二か入れ!」


 学長室に入るとすでに和久さんが居た。

 「雄二今日一日ご苦労だったな! 今日一日過ごしてみてどうだった?」


 「どうだったと言われまして……とにかく大変でしたよ。走ったり戦ったり,戦ったり……」

 「そうか。まあ一日目だししょうがないだろう! ここに呼んだのは雄二に話があるからだ」


 「一週間後,選抜された一年生の鉄騎による実践訓練を行うんだが,雄二は選抜のメンバーに入ってもらう。一週間後本格的な実践訓練に加わってもらう」


 「え!? 実践訓練ですか!? そんな急に……」

 「五人一チームになってもらい,結界で守られている街の外に行き,Antsybalと戦ってもらうという事だ」


 「いきなりですか!?」

 「大丈夫だ! そんないきなり強いAntsybalと戦う訳じゃない。レベル0やレベル1しかいない巣。比較的安全だと判断された所に出撃して実際に戦ってもらう訓練だ」


 「なんで俺なんですか?」


 「何でってそれは今日自分自身で力を証明したではないか!」

 「財前に勝つぐらいだからな! 選ばれても不思議ではない」


 簡単になるほど分かりました。頑張りますとは正直ならない。

 しかし,逃げる事もできないとも思っている。

 「できる限りがんばります……」


 そう答えると,今まで静かにしていた和久さんが口を開く。

 「不安なのか? それとも嫌なのか? まあどっちもってところか」

 

 「そんな一週間後なんて急すぎて……鉄騎だって乗りこなせてないのに!」

 「操縦に関しては残り一週間もあれば,雄二の適合率なら乗りこなす事が出来るだろうよ」

 「今日の模擬戦を見た限りは,よほどの事がない限り心配する事もなさそうだしな!」

 「まあはい……わかりました。今日はとりあえず疲れたんで、帰ってもいいですか!?」

 「そうだな今日はもう帰っていいぞ雄二! わざわざご苦労だったな」

 俺はそのまま学長室を出た。


 寮に戻ると透が部屋で待っていてくれた。

 「おう雄二おかえり。話はどうだった!?」


 「大した話じゃないさ。それより腹減ったよ! 食堂に行こう」

 「まあそうだな! 食堂行くか」


 食堂に着くと寮生でいっぱいだった。

 透にならってカウンターでお盆に乗った今日の夜のメニューを受け取る。カウンターには飯田のおばちゃんが居て、俺にご飯を盛ってくれた。


 「雄二は今日から寮の仲間だからおまけしといたよ!」

 「あ、あ、ありがとう飯田のおばちゃん」


 「いいよ! いいよ! おかわりも沢山あるからねいっぱい食べな!」

 そう言って盛られたご飯の量は尋常ではない……


 大盛り!? いや! これは飯田盛りだ……

 正直食べれるかわからない。そう思ってると耳元で透が――


 「残したらぶっ飛ばされるから、死ぬ気で食えよ!」

 ある意味今日一番の試練かもしれない……


 俺と透はさっき一緒だった翔太と茂人の席で一緒に食事を取ることにした。

 席に着いて俺はとりあえず,死ぬ気でご飯を食べる。


 他の三人は色々と話をしているが,話に入れない程食事と俺は格闘している。

 どこかで聞いたか忘れたが,脳がお腹いっぱいとなる前に入れれば沢山食べる事が出来ると聞いた事があるから,俺は詰め込んでいる。


 「雄二,凄い量だけど,食べれそうか? 飯田のおばちゃん残すの嫌いだから残すのは駄目だけど,よかったら手伝うぜ!?」

 透がそう声をかけてくれたが,口の中がいっぱいな俺は大丈夫大丈夫と身振りをした。


 「まあ,大丈夫いいならいいけど,あんまり無理すんなよ!」

 

 死ぬ気で俺は食べきった。もう限界でホントに腹が破裂しそうだ……


 腹八分目ってよく言うけど,本当にそう思う。食べすぎはよくない。

 俺はお盆をカウンターに返しにいく……


 「ごちそうさまでした……」


 俺は透と部屋に戻りそのままベッドに倒れ込む。

 「いや! もう限界だ!」


 「まああれだけ食べたらそうなるわな」

 「俺先に風呂入るよ」

 「うん」


 透は部屋にある風呂に入る。今日一日がやっと終わった……そう思ったら急に眠気が襲う……


 「…………」

 どれくらい経ったかわからないが目が覚めた。部屋は暗く,透のイビキが聞こえる。


 俺はこのまま寝ようとも思ったが,身体が気持ち悪くシャワーを浴びる事にした。

 「透やつ起こしてくれればよかったのに……」


 そんな事を思いつつシャワーを浴びた。頭をタオルで乾かしながら部屋に戻ると,丁度月明かりが部屋に差し込んでいる。

窓の方に近づくと,外で誰かが何かしている。よく見ると自主練? をしているような感じだ。


 こんな時間に自主練なんかしてる努力家も居るんだなと感心した。

 シャワーを浴びて分かったが,俺は身体中がとんでもなく痛い事に気付いた。筋肉痛なのか,擦り傷なのか打撲なのかわからないが,身体中が痛い。

 

 明日も学校で一週間後には実践訓練がある。と考えると憂鬱になるから俺はとにかく寝た。




 「おい! 起きろよ雄二! 朝だぞ!」

 「ん〜……あ〜……透か?」

 「そうだよ! 朝だ朝。 早くしないと遅刻するぞ」


 俺は透に起こされ,食堂に向かい朝飯を食べ,急いで支度し学校へ向かう。

 「やばい! 雄二とにかく走るぞ!」


 「え!? 朝から!? てかなんでこんなギリギリなんだよ!」

 「雄二が起きないからだよ。俺は朝弱いし,いつもギリギリだよ」


 「そんな事自信満々に言うことじゃねえだろ」

 「とにかく走れ!! 遅刻すると,訓練の量増えるぞ」


 俺達はギリギリ間に合わなかった。

 「雄二と透アウト〜!! 今日の訓練覚悟しておけよ」


 山口先生にそう言われ,俺と透は席に着いて授業を聴く。昨日と同じで座学から始まる。

 座学が終わるとグラウンドに行き,昨日とは違って俺らは15キロの重りを背負う羽目になった。その重りを背負いながら15キロ走る。全身が筋肉痛でかなりキツイ。


 どんどんクラスの皆に周回遅れになる。追い越すたびに妙に突っかかってくる奴がいる。

 財前だ……


 涼しい顔で荷物を背負いながらあっという間に駆け抜ける財前!

 俺は何回抜かれたか分からない……やっと15キロを走り終えた。


 終わったらと思ったらそのまま山口先生による個別指導の組手が始まる。

 山口先生と組手が始まったが,何をしても当たらなし,すぐにひっくり返されてしまう。

 

 「雄二……お前弱すぎて,一週間じゃあどうにもならないなぁ〜」

 「大佐から一週間である程度形にしてくれ! とか言われたけど,普通に無理だな」


 「適合率が高いんだから,その潜在能力の使い方学んだほうが強くなりそうだな!」

 俺は山口先生にひっくり返されて空を見上げながら先生に聞いてみた。


 「山口先生,実践訓練って危なくないんですか? 俺大丈夫ですかね?」

 「まあ大丈夫じゃないか? 絶対なんて事はないけど,一年生の実践訓練はかなり安全な場所に送られるし,本当に慣れる為に行うといった感じだ」


 「気楽に行ってこいよ」

 「そうですかぁ……じゃあ頑張ってきますね」


 不意をついて攻撃を繰り出したが,逆にみぞおちに拳を食らって息ができなくなった。

 とにかくヘトヘトになり,それが終われば,今度は鉄騎に乗った訓練が始まった。


 模擬戦を繰り返し,和久さんがこの授業の時は来ていて,何かデータを取っているようだ。

 和久さんからアドバイスなどを受けて,基本的な動きをいくつも確認したり,出来る事出来ないことを確認した。


 俺はほとんどの行動は難なくこなす事ができた。本当に自分が頭で思い描く動き,自分の身体のように動く事がわかった。しかし,空を飛ぶ飛行に関しては練習が必要であるようだ。

 自分の身体で空を飛ぶなんて事したことないから,当たり前だろ! と和久さんに言われ確かにとそう思った。


 走ったりする事は問題ないから,空を飛ぶ飛行を中心に鉄騎の練習はしていこうという話になった。

 今日はそろそろ止めようかな? と思っている所にゆきが現れた。


 「おう! 雄二じゃねえか! 私と一勝負しようぜ!」

 「え!? ん〜〜……一回だけね」


 俺自身試してみたい事があって,勝負を受け入れた。大佐が言うように実践が一番なのかもしれない。



 お互いに鉄騎に乗り込んだ。開始の合図があり,模擬戦が始まる。

 俺はすぐに距離を取った。接近戦の技術がないから,俺には遠距離からの攻撃の方がどちらかといえば良いと思ったからだ。


 昨日の財前との模擬戦を見て,接近戦が得意そうなゆきの攻撃を躱す事ができれば,実践で後れを取ることはないだろう。


 俺は長距離の攻撃として銃を使ってみる。勿論経験がないから当てる事は困難だった。だから俺はさらに小型のドローンを数台展開させて,そいつらにも撃ってもらいとにかく数で押し切る作戦でゆきに対抗してみた。


 かなり複雑な攻撃にも関わらず,ドローンからの攻撃と俺からの攻撃をゆきの鉄騎はいとも簡単にすり抜けていく。スピードが速く上手く当てる事ができない。


 ゆきの鉄騎がどんどん俺に近づいてくる。その勢いで斬りかかってきた。

 俺は咄嗟に左腕に盾を出してガードをした。


 まだ俺には右手が残ってる……至近距離なら外すまい。

 ゆきの騎体は前宙をしながらアクロバティックな動きで,俺とドローンからの至近距離からの攻撃を躱して俺の背後を取り,身動きが取れないように関節を固められた。


 俺はやられたと思い攻撃を止めて武器を落として降参をした。

 「マジかよ――あんな事できるの!?」


 終了の合図があり勝負は決まった。

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