第5話 〜錯綜⑤〜
俺は聞きたいこと言ってやりたい事が出来たようだ。
「冬月大佐。和久さんって今はどこにいますか??」
「伊藤研究員か? 今は研究室にいると思うぞ! 次の授業で伊藤研究員に鉄騎などについて話してもらおうと思っているから,呼びに行くから一緒に行こう」
そう言われ俺は大佐の後を付いていった。敷地内の学校とは別の建物の中に入っていく。
そこで第三研究室と書かれた場所の前まで案内される。大佐が扉を開くとそこには和久さんと何人かの研究員らしき人達がいた。
「おう! 大佐と雄二じゃないか。どうしたんだ急に」
「私は伊藤研究員に座学の授業で説明をしてほしいと思ってな。呼びに来たんだが,丁度雄二も話したい事があるらしい」
「和久さん俺,色々と話聞きましたよ! マジでふざけんなって!」
「いきなり戦場に行けって行けるわけねーだろ!」
俺は和久さんに怒り散らかした。正直キレる気持ちと不安な気持ちの両方だった。
こんな俺に対して大佐は何一つ変わらない態度で,和久さんはあいも変わらず軽薄な感じで頭をガシガシ
「まあ落ち着けよ雄二。俺だって雄二の気持ちを考えたらキレたくもなる。でも話を聞いてくれ」
「話を聞けって!? 何を!?」
「大佐とこの子以外は皆外に行ってくれないか?」
そう和久さんが言い,中に居る研究員達が外に出ていった。
「雄二が何で怒ってるのかとりあえず説明してくれ」
「この世界のある程度の現状を授業で聞きましたよ。正直信じられない部分もまだあるけど,それが真実だとしたら,俺が鉄騎に乗って化物達と戦わないといけないってことでしょう」
「和久さんだって分かるでしょう。あんな平和な日本からいきなりこんな所きて,家族もいない知り合いもいない,その上化物と戦えって? 冗談じゃない」
「雄二がやっと俺の話を信じてもらえそうな状態になったから話すぞ」
「現在の日本の状況を聞いたと思うが,今はとにかくジリ貧の戦いをずっとしてるんだよこの日本は。俺がこの世界に来てから歴史をとにかく漁ったんだが,この世界は突破口が見つかるまでの延命しているに過ぎないんだよ現状として」
「これまでに突破口になるような事を色々試した形跡があるが,どれも結果が出なかったらしい」
「それが俺とどう関係すると!?」
「まあ最後まで聞けって! 奴らAntsybalと戦える兵器が鉄騎で操縦できるのが子供だけだぜ!? 雄二だったらどうすればいいと思う?」
「どうすればって言われても……強い子供が増えればどうにかなるかも?」
「普通そう思うよな! 正直強い子供が沢山いれば,鉄騎でどうにかなるのではないか? って考えたらしいんだよ。小さい時から教育出来るからな。だから適合率の上げ方を様々な方法で試したそうだが,結果的には成果があまりなかったらしい」
「じゃあ次はどうするか? 強かった子供のクローンや遺伝子を使って人工授精なんかも含めた意図的に強い子供を作る実験をしたらしいんだ。これなら強い子供が沢山作れるかもしれないと……しかしこの実験も全て上手くいかなかったみたいだ。適合率が高い子供を意図的には作る事が出来なかったらしい」
「なら次はどうすればいいと思う……?」
「無理やり子供を作らせたらしいんだよ。こんな時代でもやっぱり犯罪をする人はいる。そういった人達で無理やり子供を沢山産ませたらしいんだ。そうすれば軍である程度融通の効く教育も出来るし,戦わせる事も出来るからと! でも適合率が高い子供が出来た事がないという結果しか出なかったみたいなんだ。適合率が高いのは何が影響しているのか全く見当がつかないといった感じみたいなんだよ」
「何で日本に残ってる街が攻撃されないと思う??」
「いや……詳しくは知らない」
「祈り子様と呼ばれる祈りの一族が居て,その人達の能力,力のおかげで攻撃をされずに保っているんだよ。鉄騎を動かす原動力としてAntsybalを倒すことで稀に出る,結晶のようなもの,力が込められたモノが出現するんだが,それを使って鉄騎を作り,適合率というのは,結晶との適合率という事なんだ」
「そんな中で結晶に特殊な反応,特殊な適合した一族が祈り子様の人達で,彼ら彼女らは,大きな結晶を媒体として現在街々で結界のようなものを常に張っているんだ! そのおかげAntsybalから発見されず,攻撃を受けずに済んでいるという状態なんだ。一番の問題はここで,絶対にまた結界を張れる人が常に現れるかどうかわからないだろ? 鉄騎でさえそうなんだから。後ここだけの話にしてほしんだが,あちこちで結界の範囲が徐々に狭くなっているという事なんだ」
「つまり我々日本は,早急にも何か新しい突破口となる武器や兵器,もしくは何かしらの成果が必要となっているという事なんだ」
「そんな時に適合率の高い,国に登録もされていない,どこのどいつだか分からない子供が軍に発見されたらどうなると思う?」
「色々と実験されて,十八歳まで薬漬けの戦闘兵器,その後はいじくり倒されて殺されちまうだろうよ。元々存在しない人間なんだから,適合率が高いから十八歳までは確実に生かされるだろうがな」
「それとも雄二はそっちの方が良かったか? そうなる前に大佐に保証してもらって,他の奴らから手を出されないようにした方がいいと思ったんだよ。それにこの世界で生きていくしかないからな……学校に行って雄二自身新しい知り合いを作った方がいいだろう?」
「後一つ付け加えると,元の世界に帰る手段をまだ諦めたわけじゃねぇ。この世界は未知な事が多い。何か帰る手がかりが見つかるかもしれない! だけどこの街の中にはない。あるとしたらモノリスやAntsybalが手がかりになるかもしれないし,荒廃した地域で何か見つかるかもしれない。それにはどうしたって鉄騎で外に行く必要が出てくる。雄二が見つけて帰れる可能性だって0じゃない」
「じゃあなんで……昨日ちゃんと説明してくれなかったんですか?」
「いやだって信じないだろお前」
「どっちみち先に軍に見つからなくてホントに良かったと思うぞ俺は。俺も雄二も大佐の物ってところだからな。人体実験はされずに済むと思うぞ」
「まあそれでも雄二が怒るのも無理はないがな」
「今後俺はどうしていけばいいんですか?」
「そうだなぁ鉄騎に乗ってある程度の戦果を上げて学校を卒業。その後は大佐の部下になり,軍に仕えて仕事していくってなるんじゃないのか?」
「帰ることは本当に出来ないんですか?」
「今の所はな! 帰る為にも雄二の力が必要なんだよ」
「雄二! 我々は強い操縦士を必要としている。雄二と伊藤研究員は元の世界へ帰る手がかりを必要としている。そのためには鉄騎に乗って外の世界へと行く必要がある。雄二には十分に鉄騎に乗る資格がある。我々はAntsybalを殲滅してもらいたい。雄二は手がかりを探す為にAntsybalと戦う。お互いにお互いメリットがある関係性だと思うんだが,どうかな?」
「そうです……ね」
理屈は分かる。理屈は分かるが……それで納得出来るほど簡単な事じゃない。
「それじゃあそろそろ次の授業に行こうか。雄二も伊藤研究員も一緒に来い」
次の授業を行う駐騎場へと向かっているのだろう。
だが俺の頭の中はパニックで一杯でそれどころではなかった。考えを消化できない。
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