第4話 〜錯綜④〜

 「よし! 皆そろったな。それでは授業を始める。山口教諭の噂もチラッと聞いたのでな。全然座学の授業をしてないってな。だからせっかくだから私が直々に教壇に立つのも悪くないと思ってな」


 「基本的な知識からおさらいするぞ。知識があるとないとでは全然違うからな。では授業を始める」

 勢いのいい大佐の声と始まった授業のど頭で衝撃的なものを目にする事となった。


 「これが現在の日本の全体像の地図と分布図だ」


 と見せられたのは俺が知っている日本という国ではなかった。本州は四つの大陸に分断されていてよく見ると沖縄県がない。北の北海道は何があったのか,抉られたように地形が変わっている。細かい島々が集まった国といった形が日本だという。この街がある四国はそこまでの変わりはないようだ。

 

 「現在この日本では人間が集まって住んでいる街は全部で八ヶ所だけだ。他の場所や地域はすでに荒廃している」


 「こうなってしまったのは,この日本に俗称でAntsybal《アンチバル》と呼ばれる化物が現れたからだ」

 「Antsybalが現れて今年で132年になる。我々日本はAntsybalに対して永遠と戦い続けているが,今では住む場所も人口も減ってしまった。人口も900万人を切っている」

 大佐が話を続ける。


 「次にAntsybalについて少し触れておこう。Antsybalには種類があり,レベルで分けられている。ただ分かっていない事も多すぎる生物だから,習った知識全てを鵜呑みにはなするな。その時その時で臨機応変に対応し応用しろ」


 「それではまずは説明する。レベル0だ。レベル0は昆虫の幼虫のような形をしていると言えは分かりやすいだろう。外皮も柔らかく人間の使う武器でも倒す事ができる。ただ巨大であるため接近しすぎるとやられる事もあるから留意しておくように。レベル0はAntsybalの中でも弱いとされている個体である」


 「続いてはレベル1だ。こいつはサナギだな! 攻撃も全くできないししてこない。だが外皮がとてもつもなく硬い! 人間の武器ではもうどうにもならない。というのが普通だったのだが,最近新しい武器が開発されて,レベル1にも攻撃が通用することが判明した。なのでレベル0とレベル1は人間の手で倒す事はできる」

 「レベル0やレベル1は地下に巣を作る事が多いとされている。見つけたとしてもレベル2やレベル3が守っている場合もあり,簡単に殲滅するという事ができない」


 「だがずっと守っている訳ではないし,必ずいるというわけでもない。だからすきを突いて殲滅する事が多い。てっきに乗って一番多くやる任務がこのレベル0とレベル1の巣の発見と殲滅になるだろう」

 

「次いでレベル2。サナギのレベル1から羽化した個体になるが,Antsybalの中で最も分かっていないのがレベル2になる。様々な個体に進化する可能性があり,レベル0より弱くなる個体もあれば,ものすごく強くなる個体もあったり,はたまた共食いする個体やお互いを攻撃する個体も存在する」


 「分かっていないことが多いからこそ一番警戒しなくてはいけないと認識してくれ! レベル2の予想外の個体,知らない個体からの攻撃から部隊が混乱に陥ってやられるというのが一番多いパターンだ。ある意味ではレベル3より厄介だから気をつけろ!!」


 「レベル2ともなると人間の手に負えなくなる。そこで現れるのが,人間が生み出した戦闘兵器の【鉄騎】で戦うことになる。鉄騎はAntsybalと戦う為に作り出された兵器だ。ヒト型の形をした兵器で,適合率が高ければ高いほど,そのポテンシャルを引き出す事が出来ると言われている。鉄騎自体も分かっていない事が多い。だが強いAntsybalと戦える唯一の人間側の武器だと知っておいてくれ」 


 「まあ言われなくても皆分かっていると思うがな」


 「ちなみにここにいる山口教諭は適合率が悪かったにも関わらず,その年のAntsybalの撃破数一位だった人だ。戦いだけは天才的な先生であることは私が保証する! 適合率が悪くても鉄騎に乗ることができるし戦う事はできる。何かあれば山口教諭に聞いてみるといい」

 

 「レベル3……人類にとっても鉄騎にとっても強敵な個体である。鉄騎を以ってしてもレベル3を倒すのは大変である。その年代のエースと同等の力を持っているほどだろう! しかし,レベル3がいる所にはレベル2もいる事が多く,多数と戦う事が多い。そっちのほうが厄介である」


 「単体だけというのであれば,どの個体も倒す事は不可能って事はない。やはり数が多い事が問題である。多数と戦う事が多くなる事がAntsybalとの戦いで最も厄介なことだろう」


 「レベル4は今までに確認された事はない。今のところはレベル3までである」

 「Antsybalにもボスのような存在が居る。それがAntsybalα,Antsybalβがいて,レベル3の個体が増えるとα《あるふぁ》が統率してレベル3とレベル2を引き連れて,人間の住む場所へ大群で押し寄せてくる。これを大災害と呼んでいる! 我々人類は現在この大災害が起こらないようにレベル0とレベル1,レベル2を出来るだけ駆逐して,レベル3を出来るだけ産み出さない,Antsybalの数を増やさないという戦いを強いられている」


 「Antsybalについては日本の四ヵ所に突如出現したモノリスと呼ばれる物体があり,そこから産まれてきていると考えられている!! だがモノリスにはβ《べーた》と呼んでいるAntsybalが番人のように守っていて街には侵攻してこないが,今まで発見された全ての個体の中でβ,モノリスの番人が一番強い」


 「しかし,人類の歴史上一度だけモノリスを破壊した事がある!! それが現生徒会長の東雲ししのめ一族がこの地域から一番近いモノリスを破壊した事がある。東雲が人類に光を見せたと言っていいだろう」


 「その時は多くの犠牲の上で成り立ったのは事実であるが,人類は歓喜したものだ」


 「モノリスを破壊した後,レベル0,レベル1,レベル2,レベル3は急に全て消滅したんだ。αとβは倒し一つ人類の勝利に向かったと思ったのだが,一年と経たずにまた同じ場所にモノリスが出現したんだ。それでまたAntsybal達が出現し始めたんだ……」


 「そのモノリスのαとβは以前の個体よりさらに強くなって出現した。今では以前のように大災害が起こらないよう,攻防を繰り返しているといった現状だ」


 大佐から語られる現状の日本というのは,俺が想像しているより遥かに悲惨だった。

 違う日本って言ったって,多少違う程度にしか考えてなかった。和久さんが戦っているとか言ってはいたけど,そんな大それたものではないと思ってた。化物と人類が戦ってる?

 なんだそりゃ! 


 人口が900万人切ってる?? はぁ!? 現実なのか?

 俺が居た日本は1億2000万人以上人口があったっていうのに。

 なんだよそれ!!  


 「冬月大佐!!! 質問してもいいですか??」

 「雄二か,なんだ?」


 「なんでAntsybalと対抗できる鉄騎の存在があるのに,ここまで人類は追いやられてるんですか?」

 今までずっと隣で聞いていた山口先生が口を開いた。


 「それはだな〜,いくら私や冬月大佐が超のつく天才だったとしても,鉄騎を操縦できるのは十五歳〜十八歳までの三年間だけなんだよ。それは何故かは全く分かってない」


 「十八歳を迎えると鉄騎が反応しなくなって操縦できないんだ。いくら天才でも訓練を合わせると鉄騎に乗れる期間二年ぐらいだ,二年やそこらで全てを殲滅なんて出来ない。ましてやモノリスの破壊なんて一人でどうこう出来るレベルじゃない。その時代に天才的な奴が何人もいないと達成出来る事じゃない。それに毎年優秀なやつが出てくるとも限らない」

 「だからずっと一進一退を繰り返してるんだよ!」


 だから子供が重宝されてる世の中で,軍の敷地内に全部学校があったり,軍の管理下に置かれているのか。


 「そういう意味だと今年は一年二年三年それぞれに猛者が多いと聞く! Antsybalの殲滅を大いに期待している。お前達全員にだ! もちろん雄二お前にもだ!」

 大佐は皆に檄を飛ばすように声を張り上げた。しかし,俺にはその声は届かなかった。

 


 「では,次の授業で鉄騎について話そう。クマさんクラスとウサギさんクラス合同で,鉄騎が置いてある駐騎場で授業と訓練を行う! では解散する」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る