第3話 〜錯綜③〜

 「おい! 透じゃねぇ〜か!」

 そう俺は言い,しまったと思った。俺の事を知らないはずだからだ。

 しかし,つい知っている顔にいきなり出会ったのでテンションが上がってしまった。


 「あれ? なんで俺の名前知ってるんだ? どこかで会ったことがあるのか?」

 「いや! 今のは忘れてくれ。こっちの話しだ。黒崎雄二だ」

 「高橋透たかはしとおるだよろしく! 雄二は本当に記憶ないの?」

 

 「そうだな……記憶がないんだよ。基本的な事や常識もわかないんだ」

 「だから迷惑かけるかもしれないけど,よろしく頼む」


 「なんだそれ面白そうだな! 雄二が来てクラスが楽しくなりそうだな」

 「俺は不安でいっぱいだけどな……」


 良かった。席の近くの人には恵まれたみたいだ。

 正直不安でしかなかったが,なんとかやっていけそうだ。

 

 「透くんそうやって雄二くんに絡まないの!」

 「冬月大佐が言う位だからホントに記憶がないんじゃないかな」

 

 「冬月大佐ってそんな人気なの? 皆ザワザワしてたけど!」

 「「えっ!?」」

 二人のあまりにも驚いた顔に逆に俺自身が驚いた。


 「雄二くん本当に? ここの生まれだよね?」

 「まあここの生まれだと思うけど……」


 「冬月大佐がわかりやすく言えば,この地域の象徴みたいな人よ! 階級も大佐で学長まで務めているさらにはあの見た目だからね。知らない人なんていないのよ」


 「要はすごい人って事か!」

 「簡単に言ったらそうだけど……」

 

 そんな話をしていると,廊下から先生が戻ってきた。

 「お〜い静かにしろい!」

 「とりあえず雄二! 大佐からお前の事情はある程度聞いたから,何か学校で分からない事があったら隣の藤井に全部聞いてくれ。出来るだけ面倒な事は起こすなよ〜!! 私は仕事したくないからさ〜」


 「はぁ〜……努力します」


 「冬月大佐が当分の間は雄二の動向を見たいらしいから時々授業に顔を出すそうだ」 

 「最悪だぁ〜〜。サボれないじゃないか〜〜」


 もの凄いダルそうに話す山口先生は,女性の教師とは思えないようなだらしない風貌をしている。

 迷彩のズボンに,ヨレヨレのTシャツを着て,ダルそうにあくびをしている。


 そっと藤井さんに質問してみた。

 「藤井さんあの教師大丈夫なの!?」


 「え!? 美咲みさき先生!?」

 「下の名前美咲っていうんだ。そう山口先生」

 「ん〜まあ先生としても人間としてもかなり駄目な人かもしれないけど,てっきの扱いと戦闘に関しては超一流で冬月大佐が推薦して先生に抜擢されたそうよ。それと私の事は恭子でいいよ」


 「そう? 分かったありがとう恭子」


 「それじゃあとりあえず今日は外へ行くか〜さっさと外に出ろ〜」

 山口先生が言い,俺達は外のグラウンドへ向かい集合した。


 「よ〜し! 集合したか? とりあえずグランド10キロ走ってこい」

 「ちなみに全員このリュックを背負って走れ」

 俺は言われたとおりそのリュックを背負うとしたが,あまりにも重すぎてびっくりした。

 「先生……このリュック何キロあるんですか?」

 「あ〜それか? 優しく8キロにしてあるぞ」


 いやマジか!! 8キロのリュックを背負って10キロ走るのか??

 クラスの皆はさぞ当たり前かのように背負って走り始めた。


 「はぁはぁはぁ……」

 なんだこの世界は……

 自分の居た日本の世界では正直そこそこスポーツができる方だった。部活もバスケ部だったので,持久力にもそれなりに自信がある方だった。


 しかしなんだこれは,女の子にも周回遅れするほどに皆の体力が異常だ。

 8キロ背負ってて,こんな余裕で皆走るのか??


 とそんな事を思ってると軽々と後ろから声をかけられる。

 「おい! 雄二大丈夫か?」

 その声の正体は透だった。


 「雄二全然走れないのかよ! そのペースだとぶっちぎりのビリだぞ」

 元気づけに来たのか分からないが,答える事もできない程余裕はない。


 「まあとりあえずがんばれ〜」

 そういうと軽快に俺の前を走り去っていった。


 「雄二くん大丈夫?」

 次は恭子が話しかけてきた。

 「とりあえず,完走目指して頑張ってね」


 「あ……りがとう……」

 ここは本当に学校なんだろうか? 本当に軍隊だよこんな事をするなんて。

 やっとの思いで完走し終わった。ただ走るだけじゃなく,8キロ背負った条件だとしんどい。


 「ま……じでキツイ……」

 

 完走してすぐに山口先生が声を出す!

 「よぉ〜し! じゃあそのまま組手するから相手選べ」

 「雄二じゃあ俺と組むか?」

 透が誘ってくれたが,


 「あ〜雄二は私が相手するから,高橋は違うやつと組んでくれ」

 「わかりました。雄二! ご愁傷様です」

 「あ〜雄二くん美咲先生とか。死なないように気をつけてね」

 

 「えっ!? それはどういう意味??」

 「おい!! 雄二早くこい」

 そう先生に呼ばれ,組手が始まった。武道なんて全くやったことがないし!!

 というかこれが授業なのか??


 「雄二お前,違う世界から来たらしいな〜。本当かどうか確かめていいか?」

 「え? なんでそれ知ってるんですか? 大佐から聞いたんですか?」

 「まあそんな所だ。バラさないから安心しろ。もしバラしたら逆に私がぶっ殺されるからな」


 「とりあえず,殺す気で本気でかかってこい!」

 「そんな事言われても,人生で喧嘩すらちゃんとした事ないのに」

 「ゴタゴタ言わずこいって」


 そう先生に言われ,訳もわからずとにかくかかっていった。しかし10キロ走った疲れか足がもつれて転んでしまった。


 「いや……雄二マジか」

  俺は赤っ恥をかいた。周りのクラスの皆からも失笑されている。


 とにかく俺は先生が言うように向かっていった。

 人を殴った事もないが本気で殴りに行く。


 でも先生にはちっとも当たらない。むしろ簡単にひっくり返される。何度も何度もひっくり返された。受け身もきちんと取れない俺はそれでけで呼吸が止まるほどの衝撃を受ける。


 顔面には攻撃してこないが,先生は腹に何発も入れてくる。もし昼食後だったら確実に吐いていただろう! 


 「雄二,本当に色々と経験がないんだな!」

 「えっ? それはどういう意味で?」


 「こんな簡単な攻撃も捌けないんだと思ってな」

 「簡単? 無理ですよ! 人生で初めてなんですから」

 「周りを見てみろ」


 周りを見ると,見たこともないような動きで組手をしているクラスメイト達だった。

 皆が皆何かの武道の達人かのような動きをしていた。


 和久さんが,とにかく頑張れとか言ってたのはこういう事??

 こんな事を毎日やってたらそれこそ死んじまう……


 「普通は大体あの位できるもんなんだよ。だけど雄二は全然できない。ホントかどうかわからないけど,ここで生まれて育ってないって事は確かだな」


 「それだけで,そんな判断になるんですか? そうだったらいつか俺バレちゃうんじゃないですかね?」

 「もしかしたらそうかもな。バレても大佐が保証人になってるんだろ? まあ大丈夫だろ」


 「とりあえず雄二の実力と経験はわかった。大佐の方から鍛えてくれって言われてるから私が直々に鍛えてやるからな」


 そういって美咲先生は笑顔を見せた。俺はとにかく死なないように頑張ろうと思った。

 「よぉ〜〜し! 組手やめろい!! 今日はこの辺で教室もどるぞ〜」


 俺は教室に戻るのさえ億劫になるほどボロボロになった。仰向けに横になってると恭子と透が上から覗き込んできた。


 「雄二くん,美咲先生に見事にボロボロにやられたね」

 「まあでもあの先生には誰でも勝てないと思うからな。この学校で一番強い生徒会長でさえ子供扱いだったらしいからな」

 そう言い透が手を出してくれて,俺を起き上がらせる。


 「でも美咲先生が直々に相手するなんてね。雄二くんって何かあるの? 普通の授業でさえちゃんとやらない先生なのに」

 「俺だって全然わからねぇ〜よ。ただ何か大佐からの指示で鍛えてくれって言われたらしい」


 「えっ!? 冬月大佐からの直接な指示で?」

 「ん〜なんかさっき言われたよ。まあよくわからないけど……とりあえず疲れたよ」


 透と恭子と共に教室に戻る。二人は俺に対して気さくに相手してくれるが,他のクラスメイトはまだちょっと様子見といった感じで遠くから見てる感じがする。


 俺から皆と仲良くしていきたいという思いはあるが,なんせこの世界の常識さえも知らない俺が何の話題をすればいいのかわからない。正直話しかけたくても話しかけられないという感じだ。


 まあ今日は編入初日だし焦る必要もないか。


 教室に戻ると次に待っていたのは座学だった。つまりは勉強という事だ。

 こんなに身体を動かした後に勉強とは強烈に眠くなるものだ。

 しかもこの授業冬月大佐がやるらしい。教室には冬月大佐がいる。

 座学の授業でこの世界の日本というものを知ることとなった。

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