第2話 〜錯綜②〜

 「起きたか雄二。早速で悪いがすぐに出かけるから水道はあっちにあるから顔洗ったらすぐに出るぞ」


 朝にゆっくりする暇もなく,言われた通り顔を洗っただけですぐに部屋から飛び出した。

 昨日乗った車に乗せられ,ずさんに渡された携帯食で朝食を済ます。


 「どこに向かってるんですか?」

 「ん?学校だよ! 学校! 雄二は学生だからな。今日から学校に行ってもらうからさ」


 「はぁ? 急すぎだろ! 聞いてないし!」

 「言ってないからな全然。ただ今のお前の状況を考えたら学校に通わせるのが一番いいと俺の頭脳が判断した。今は分からないかもしれないが,俺にとっても雄二にとってもそっちの方がいい」


 「学校に行けば色々と見えてくると思うしな」

 そんな話をしている中で昨日は夜だったからよく見えていなかったが,朝になり,きちんと街の風景を見ると自分が知っているこの街と違う箇所が微妙にある。驚いたのが,ただ学校にいくだけだというのに巨大な門のセキュリティを二つ程通り抜けた。それでもまだ学校に着かない。


 「伊藤研究員,おはようございます!」

 「はいよ〜おはよう」


 軍人っぽい人達に挨拶される。

 こんな施設や場所は確かに俺は知らない。昨日和久さんが軍事国家であるような話をしていたが,確かに軍人のような人達が大勢いる。


 通るたびに敬礼をされる。確かに知らない世界だった。 

 最後の門を潜るとそこにはよくある学校の外観をした建物が現れた。


 「今日から雄二が通う学校がここだ。比国海岸訓練高校だ。あ〜それと今日から学校の寮に住んでもらうからよろしく! 雄二もあんな俺の部屋に住みたくないだろ? 学校にはある程度話をつけてあるからさ」


 「今から学長に挨拶しにいくから。学長は結構話がわかる人だから安心してくれ。俺を評価してくれたのも身元不詳でも雇ってもらえたのも学長のおかげだからな。 キツそうな性格してるし,ちょっと怖い感じの人だけどいい人だから安心してくれ。雄二の事情もある程度は伝えてあるからさ」


 「昨日から全てが急すぎて追いついていかないんですけど! しかもいきなり学長に挨拶とかめちゃくちゃ嫌なんですけど……」

 「雄二はちょっと特殊すぎるからな,転校とか転入なんてないから基本的にこの世界は。子供が重宝されていて,産まれてすぐに全ては把握されているし,皆この中の学校内で育つんだよこの世界は。だから急に新しい人が来ますなんて異例中の異例だからな」


 「軍の中で他の人に怪しまれたりすると色々と厄介事に巻き込まれる可能性があるから,学長に目をつけられている,もしくは気に入られているという風に感じ取られれば,何かちょっかい出される心配もないだろうからな」


 「いま和久さんの話を聞くと,俺が知っている知識や常識が全く通用しないんじゃないかと思ってきたんですけど……」


 「それでいいよ! 全く通用しないと思うし,驚く事しかないからなきっと。俺から言えるアドバイスは一つ……頑張れ!!」

 「全くアドバイスになってないんですけど」

 俺は本当に違う日本の世界へと迷い込んでしまったのだと思い始めた。


 瞬く間に進んでいく話を聞きながら,雄二は学長室の前に着いた。

 和久さんがドアの前に立ちノックをした。扉の向こうから声が聞こえる。


 「誰だ?」

 聞こえてきたのは意外に女性の声だった。


 「伊藤研究員です! 昨日連絡した少年を連れてきました」

 「入れ」


 たった二言を聞いただけで,威厳がある,人の上に立つ器量を持つ人だと直感的にそう感じ俺は緊張し部屋に入った。


 「伊藤研究員,この少年が例の少年だな?」

 「そうです冬月大佐」

 「初めまして少年。私の名前は冬月千夏ふゆつきちなつ階級は大佐だ。この学校の学長も務めている。少年の名前と年齢を聞かせてくれないか?」


 そう話した冬月大佐は見た目は美人だが,男性にも負けない身長で175センチ以上はあるだろうか? スラッとした体型ではあるが,女性なのに軍服の上からでも分かるほど鍛え抜かれているその体格。パッと見ただけで勝てない! そう思わせるほど説得力がある見た目と威厳だった。


 「……黒崎 雄二です高校一年生の十五歳です」

 「ふむ。雄二か! これからよろしく頼む」

 「雄二が伊藤研究員と同じ世界から来たという話だな伊藤研究員」


 「そうです大佐。昨日連絡した通り,俺と一緒で身元を探してもわかりませんよ」

 ハキハキとしゃべる冬月大佐とは対象的になんとも軽薄に答える和久さんの態度が異様な関係性を物語る。


 「それでね大佐,できたら大佐の方で身元を保証してもらえないかと」

 「そんな安々と何度も身元の保証なんかできんぞ。貴様がやったように,軍に対して何か利益になるような事があれば話しも通しやすいんだんがな」 


 「それなんだが,一つは彼がまだ高校一年生でてっきに乗る資格があるという事。後昨日の夜に簡易装置で調べてみたんだが,適応率が80%を超えたんだよ。どうです? 使えるでしょ?」


 「それは本当か?」

 「ええもちろん。だからちーちゃん頼むよぉ! 雄二の身元保証してやってよぉ!」


 「貴様誰に向かって口を聞いてるんだ。私が保証してなかったら伊藤研究員は牢獄行きな立場なのを忘れるな! 私にそんな口をきくのは伊藤研究員ぐらいだぞ」


「大佐〜,前にも言ったでしょう。大佐は前の世界で俺の後輩だったんだよずっと。どうもその時の千夏が抜けなくてな」

 「何度も言ってるが私は知らん。口の利き方には気をつけろ」

 「はいよ大佐」


 「雄二悪いが適正検査にちょっと付き合ってもらうぞ。何か変な事をするわけじゃないから安心してくれ。さっきも話に出ていただが,ちょっと適正をみるだけだ。結果次第では私が雄二の保証人になると誓おう。そして学校の編入も認める事とする」


 「冬月大佐……質問していいですか?」

 「なんだ? 言ってみろ」


 「さっきから適正とかてっきに乗る資格だとかなんとかって話があるんですが,一体何の話をしているんですか?」


「なるほど! 伊藤研究員、雄二にこの世界の状況についての説明はしなかったのか?」

「いやぁ~まあ多少はしたけど、信じてくれないと思ってな。だったら自分の目で確かめさせたほうが早いと思って詳しくは説明してない」


 「そうか分かった。それじゃあ付いてこい! まずは検査する」

 「大佐〜,ちょっと聞きたいんだけどさ,クリスマスって知ってる?」


 「ん? なんだそれは! 新しい武器か?」

 「雄二? な? うそぉ〜って感じだろ?」

 

 「え? クリスマス存在しないんですか?」

 「西暦じゃないからな……」

 「え? それはどういう……」

 「お前たちは何コソコソ話してるんだ。行くぞ」

 

 そう言うと冬月大佐は部屋を出て俺達を先導する。

 雄二は和久にそっと話しかけた


 「和久さん俺って本当に違う世界に来ちゃったんですね」

 「そうだよ! やっと実感が湧いてきたか?」


 「色々と見てそう感じました……」

 「正直不安なんですけど……」

 

 「まあそうだよな。俺でさえ不安だったからな。たかが十五歳の学生じゃあキツイよな」

 「でもまあ出来るだけ俺と大佐が力になってやるよ! 唯一俺と同じ日本出身だしな。でも俺や大佐でも力になれない事も多い。雄二自身で理解して乗り越えないといけない事が多い」

 「だから頑張れ……」

 


 「それはそうと和久さん元々居た世界では大佐が後輩だったんですか?」

 「まあな。全然性格は違うけどな」


 「こっちの世界で捕まって事情聴取されたのが大佐だったんだが,びっくりしたぜ! 千夏じゃねぇーかってなったけど,全く俺の事知らないし俺の知ってる千夏の面影1つもないしな。おまけに階級は大佐で今では俺の上司だ」


 「まあでもちょっと堅苦しい感じだが,悪いやつでは全くないから」

 確かに冬月大佐は威圧も凄いし怖い感じではあるけど,話せば分かるといった理想の上司といった感じではあった。


 そんな話をしていると,一つの部屋の前に到着し大佐が扉を開ける。そこは絵に書いたような研究室のような部屋で中では白衣を着た様々な人が作業をしていた。

 中央にはMRI検査の装置のようなものがあり,検査に使うものだろうと予想がつく。


 「雄二には中央にある装置に入ってもらって,測定させてもらう」

 「わかりました。何か痛いこととかしないですよね?」


 「特にそんな事はないから安心してくれ」

 俺は言われた装置の中に入った。


 しばらくすると冬月大佐の指示と共に検査が終わったようだ。

 「雄二,検査が終わったご苦労だったな。検査の結果も出たぞ!」

 「話にも出ていたが,適合率が82%だった喜べ雄二。これで私が保証人として学校に通えるようにしてやろう」


 「それは喜んでいいんでしょうか? というか適合率ってどの位だと凄いんですか?」

 「伊藤研究員,説明してやれ」


 「え!? おれ!?」

 「そうだな〜雄二,この世界の子供は小学校の時からてっきに乗る為に訓練や知識を蓄えるんだ。どうだ? 凄いだろ? そんな奴らで首席トップの人達で大体50%だ。今年は特に豊作の年代と言われていて,現在この学校で最も優秀な奴で75%,今年の1年生のトップが42%ってところだ」


 「つまり適合率だけを見たら雄二が学校で一番ってことになる」

 「転入してきた常識が通用しない謎の天才って感じで噂話になるんじゃないか?」


 「伊藤研究員はこの結果をどうみる?」


 「どうかな? 俺達が居た世界の住人は高いのか? それともそもそも雄二自身のポテンシャルが高いのか? データがなさ過ぎてなんとも言えないが,ただ雄二は相当戦力になる事だけは確かかな。例外過ぎるデータだけどな」

 「私もこんな適合率をみるのは初めてだ。いい兆しだな」


 昨日からずっと俺がわからない所でどんどん話が進んでいく。

 「え? それで俺はこれからどうすればいいんですか?」

 「雄二はこれからこのまま編入してもらう。それでそのまま寮に入ってもらうことになるから」 


 「手続き等はこちらでやっておくから,とりあえず制服一式は用意してあるから,着てもらってこのままクラスへ案内といこうか」


 制服と大佐は言っていたが,これはむしろ迷彩の軍服といえる。

 俺は静かに話を聞いて従ってきたが,この世界が俺が知っている日本じゃないだろうと思い始めたのは確かだが,俺はこの世界で生きていけるのだろうか? という不安が強くなってきた。


 「クラスへの案内は私自身がやろう。伊藤研究員は持ち場に戻ってくれ」

 「へいへい! じゃあな雄二またな」


 「じゃあ雄二いこうか」

 「分かりました…….」

 大佐と2人きりになると急に気まずくなる。あの見るからに怪しくてノリが軽い和久さんがいると全然ちがう。和久さんはよくこの人にあんな軽い口調で話しかけられるものだと思った。


 「ところで雄二,雄二は本当に違う世界の日本から来たのか?」

 「え?……多分間違いないかと」

 「何故そう思うんだ?」


 「僕はここの町の生まれですけど,こんな施設や学校はありませんでした。それにそもそも軍隊が国には存在しませんでした」

 「それに……大佐は俺の居た世界の常識を答える事ができませんでした。きっとここは違う世界だなと」

 

 「なるほど! 伊藤研究員からこの世界の事を聞いているのか?」


 「いえ。ほとんどは聞いてないです。ここは違う日本で自分達の常識が通用しない世界だと。それと戦っているとも言ってました」

 「ですけど,何と戦っているのかなどは詳しく知りません。今日になれば色々と分かるから自分の目と耳で確かめろと」


 「なるほど。クラスの皆への説明は私がしてやろう。雄二は特殊な目で見られるからな」

 「私が説明すれば,クラスでもそこまで浮く事もあるまい」


 「和久さんも言っていたんですが,それはどういう事なんですか?」


 「この国や地域では子供を重宝しているんだ。だから生まれた瞬間に生まれた地域で全ての子供が登録され,何かあった時や何かあればすぐに分かるようになっている。幼稚園,小学校,中学,高校,大学までここに全てあり,同年代は高校までずっと一緒なんだ」


 「だから新しい人が来るっていう事自体がそもそもない。特殊な目で見られるし雄二は適合率が尋常じゃなく高いからな。そういう意味でもきっとクラスから浮くかもしれないからな」


 大佐と話していると,とある教室の前で大佐が止まった。ここが俺の通うクラスみたいだ。


 「今日からここが雄二のクラスになる。1−クマさんクラスだ」

 「え?……クマさん?」

 「そうだクマさんクラスだ。とりあえず行くぞ」


 大佐からクマさんなんて言葉出てくるなんて思わず,びっくりしてしまった。というより,なんで幼稚園や保育園みたいなクラスの名前なんだ。


 「失礼するぞ!」

 そう言い大佐は勢いよくクラスに入る。


 「ゲッ!!!? 冬月学長!?」

 「なんだその反応は? 山口教諭」

 「いえ……なんでもないです」


 担任の先生と思われる人が驚いたような顔をする。それと共にクラスに居る全生徒が立ち上がり,ビシッとした姿勢で全員が敬礼をしている。普通の高校生というより明らかに軍隊といった方が正しい。


 「直れ! 皆楽にしてくれ座っていいぞ」

 「え〜今日からこのクマさんクラスに新しい仲間が加わることとなった仲間を紹介する」

 「雄二,軽く挨拶を」


 「黒崎雄二です……よろしくお願いします」

 クラスがざわめき始めた。確かに転校生が来るっていうのは前の世界でも話題になるもんだけど,なんかそういった雰囲気ではなさそうだ。


 「こんな事は初めてだと思うが,仲良くしてやってくれ。それと雄二は記憶喪失で記憶がほとんどない! だから色々と戸惑う事も多いと思うが手を貸してやってくれ」

 

 そう大佐は付け加えた。確かに記憶喪失にしておけば,驚いたり聞いたりしても何も問題なさそうだ。


 「山口教諭はちょっと廊下に。雄二は後ろの席に座ってくれ」

 「分かりました」


 俺は言われた一番後ろの席に座る。大佐と山口先生は廊下へと出ていった。

 「みたぁ? 初めて近くで冬月大佐見た! 凄いかっこよかった」

 「冬月大佐ってものすごく凛々しくて美しい」


 あれ? 転校生とかってベタに注目の的になるのでは? さっきも言っていたけど,俺は特殊なんじゃないのか? 俺より大佐の方がよっぽど注目されてるようだ。

 まあ,俺としてもそっちの方がいいか。そんな事を思っていたら隣の席の人が話しかけれてきた。


 「どうも初めまして,隣の席の藤井恭子ふじいきょうこです。よろしく! このクラスの委員長もやってるから何か分からない事があったらなんでも聞いて」


 「黒崎雄二です よろしく! 大佐も言っていたけど,記憶がほとんどないから変な事を聞いたりするかもしれないけど,勘弁してくれ」

 「変な事ってなんだよ!?」


 会話に入ってきたのは前の席のやつだった。振り向いた姿に俺は驚いた。

 見覚えのある友達の姿がそこにはあった。

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