鉄塊

yuraaaaaaa

第1話 〜錯綜〜

 胸の中にいつも大事にしまっている写真を事あるごとに見る。大切な写真だからだけではなく,同士達の顔を見ると引き締まった気持ちにさせてくれるからだ。何故なら全員がここにいるわけではない。もう会えない同士もいる。


 それなのに,この写真の中にいる一人が誰だったのか思い出せない……

 誰だったのかわからない。でも私達にとって大事な人だったような気がする。

 周りの仲間に聞いても誰もわからない。



 「次は比国海岸ひくにかいがん。比国海岸」

 ウトウトしてたが,そのアナウンスの声で乗り過ごしそうになった俺は慌てて駅に降りた。


 「あぶねぇ!」


 一駅乗り過ごすだけで,二十分以上はかかってしまう程の田舎だ。駅に降りると丁度夕日が海の水平線へと落ちていくのが見える。いつも見ているはずなのに何故かこの時は素直に綺麗な景色だとそう思った。


 感傷に浸るような年齢でもないのだが,こういう時は少し寄り道や遠回りをして帰りたくなる気分になる。いつもより遠回りをしてコンビニに寄って帰ろう。

 部活の帰りにコンビニに寄って好きなアイスを食べながら帰るのが俺にとってお決まりになっている。最近新しいアイスが発売したらしい今日はそれでも買って帰るか。


 そんな事を考えながらコンビニに到着すると目の前に見えるコンビニが違う。

 違うというのは今日の朝に見たコンビニと明らかに違うコンビニになってしまっている。看板が絶対に違うと言い切れる。


 この駅のコンビニはここしかない。間違えるわけがない!

 昨日もコンビニ寄ってるし今日の朝も前を通って学校へと向かった。たった数時間で工事を終えてコンビニが変わる事なんてありえるだろうか? ありえないだろう普通。

 不思議に思って入り口で立ち止まっていると,


 「またあのおっさんいるよ。いっつもコンビニの前でブツブツ言ってて気持ち悪いんだよな」

 コンビニから出てきた二人組の男性の話し声が聞こえきた。


 彼らが見ていた方に目を向けると,見た目は四十歳前後の白衣を着た猫背で寝癖だらけ,無精髭を生やした,いかにも怪しい挙動をしている人がコンビニを見ながら何かを呟いている。


 まあいいやとコンビニに入ったが,自分の目当てのアイスがなかったので,というよりアイスがそもそも売っていなかったので,何も買わずにコンビニの外へと出る。


 「あれ?おかしいなぁ……いつコンビニ変わった?というより何でアイス売ってないんだ?」

  そう言葉をこぼすと,先程の白衣を着た怪しい人がこっちに向かってきた。


 「おいお前!もしかしてこのコンビニじゃないコンビニ知ってるのか?」

  あ! やばい! ヤバイやつに話かけられた。そう感じた。


 「いつきた!? いつこっちにきた!?」

 「ちょっと何言ってるかわからないんですけど……」

 

 「お前に聞きたいことがある。沖縄県といえば?」

  男に両肩をがっちりと掴まれてそう聞かれた。抵抗したら危険そうなので,彼の質問に答える。


 「…………シーサー?」

 「12月25日は?」

 「クリスマス?」

 一体彼は俺に何を聞きたいんだ。


 「第2次世界対戦の終結年は?」

 「1945年」


 「日本の首都と言えば?」

 「……東京??」


 そう答えると男は高笑いと共に俺の両肩をバンバン叩く。

 「おいおい本当かよ! お前最高だぜ!!」


 正直かなりヤバイ人に捕まってしまったかもと思い,この見るからに怪しい人の腕を振り払って俺はこの場から持てる力の全てを使って全力で逃げた。

 後ろから声が聞こえる。


「おい! 戻ってこい! お前何かあったら戻ってこい! コンビニにいるからなぁ〜〜〜」

 他にも何か言っていたかもしれないが,全力で逃げてる耳には入ってこなかった。


 駅についてから変な事が多すぎた。コンビニは何故か変わってるわ,アイスが売ってないわ,変な人に絡まれるわ,一日の最後にとてつもなく疲れた。今日は早く寝よう。


 俺は自分の家がある場所に着いて今日一番の衝撃を受ける事となった。

 家がないのだ。そう朝まであった俺の家がなくなっているのだ。


 「はぁ!? なんで家がないんだよ!」

 いま俺の身に何が起こっているのが誰か説明してほしい。

 とりあえず俺は一度冷静になり考えた。何が起こっているのかわからないが,隣に住んでいる幼馴染の家に話を聞きに行った。何かは知ってるだろうと思った。


 「ピンポーン」とチャイムを鳴らす。

 「はい?」そう聞こえてきたの幼馴染のゆきの声だった。


 「ゆきか? 雄二だけど,俺ん家がないんだけど,どうなってるの?」

 「え? 雄二ってだれですか? 知らないんですけど」


 「え? いや,隣に住んでる雄二だよ黒崎雄二くろさきゆうじ。ゆきでしょ?」

 「隣に住んでる? 家なんてありませんよ元々! 隣はずっと空き地です。それに黒崎雄二なんて人知りません」


 「いやいやいやいや! マジで言ってんの!? わけわかんねぇ〜んだけど!」

 「よくわかりませんが,帰ってください! 軍の人を呼びますよ?」 

 ゆきからそっけない物言いをされインターフォンが切れる。


 俺は途方に暮れた……

 「どうなってんだホントに……」

 何がどうなってんだかさっぱり分からない。


 俺の家がなくなってるし,隣のゆきは俺の事を知らなかった。とにかく帰る場所がない。近くで頼るところもない。それにさっき確認したが,最悪な事にスマフォがない。どこかに落としたか,学校に忘れたかのどちらかである。とにかく最悪な状況であることは変わらない。


 考えられるとしたら,コンビニか電車の中にスマフォがあるはずだ。 

「コンビニに戻ってみるか……」


駅から降りたときは夕日が綺麗だった空が今ではすっかり暗闇に覆われてしまっている。普段であれば何でもないような事なのに,今の俺の不安を煽ってるかのように感じる。


 「お! おーい! やはり戻ってきたか少年。待ってたぞ」

 「いや。別にあなたの為に戻ってきた訳じゃないですよ。落としたスマートフォンを探しに来ただけですから」

 「ふ〜ん。俺は天才科学者の和久かずひさっていうんだよろしく! 少年名前は?」

 「雄二って言います」


 天才科学者和久と名乗る怪しい男はタバコをふかしながら笑顔をみせる。

 「なんかあったんだろ? だからコンビニに戻ってきたんじゃないのか?」


 「スマートフォンをどこかに落としちゃって探しにきただけですよ!」

 「和久さんでしたっけ? ちょっとスマフォ貸してもらえませんか? 電話をちょっとしたいんです!」

 「やっぱそうだよなそうだよな! え〜とスマフォだっけ? 悪いが持ってない」

 「え!? 持ってないんですか? いいです自分の探しますから」

 

 「ん〜まあ探して見つかっても使えないぞ!」

 「はぁ? どういう意味ですか?」


 「まあそれは今はいいんだ。雄二お前,家に帰れたか? なんか変わった事とかあったろ?」

 「なんか知らないけど,家に帰れないとかマンションがなくなってるとか,周りの人間が自分の事を知らないとか」


 「何か知ってるんですか? 和久さん……」

 「いやぁ〜まあいい! とにかく困ってるだろ? とりあえず付いて来い。説明してやるよ!」


 「もしかしてこのまま誘拐とかしないですよね?」

 「俺がそんな悪いやつに見えるか??」


 「悪いやつには見えまえんけど,怪しい変なやつには見えます」

 「かぁ〜マジかよ! でも頼れる場所も人もないだろ? 俺もそうだったからな。悪いことなんかしねぇよ同郷のよしみだからな。とにかく付いてきな」


 雄二は和久と名乗る男の話を聞くことにし後をついていくことにした。


 「それじゃあ隣に乗ってくれ。とりあえず俺の家に行くからそこで落ち着いて話をしてやる」

 かっこよく言ってるが,ボロッボロの車に乗って彼の家へと向かっていく。


 「雄二に聞きたいんだが,今日一日どう過ごしたか詳しく話してくれないか? 今日一日何をしてたんだ?」

 「何をしてたんだ? と言われても……」


 俺は今日一日してたことを話した。何をしてたってことはないけど,普通に朝起きて学校に行って,一日過ごして放課後部活をしていつも通り帰ったこと。何一つ変わった出来事もないいつもの日常だったこと。


 ただ変わった日常になったのは知っているコンビニではないという所からだと説明した。朝通った時は変わっていなかったのに,帰りに寄ったら突然コンビニが違うコンビニになっていた所から異変の最初だと話した。


 そこから家がなかったこと,幼稚園から一緒だった隣に住んでる幼馴染が俺の事を知らなかった事などを話した。

 和久はさっきの質問ばっかしてきた時の態度とは打って変わって俺の話を静かに聞いている。


 俺の話が終わると,マンションの前で車が停まった。

 案内され一つの部屋に到着するが,どこにでもある普通のマンションの普通の部屋だった。

 「まあここが俺の住んでる部屋だ。とにかくゆっくりしてくれ! 今日は泊まっていってもいいぞ。話も積もるだろうしな」


 「はぁ〜」


 俺は案内された扉が開かれた光景を見て驚愕した。大の大人が住んでるような部屋ではなく,とにかく汚かった。様々なゴミ? 紙とゴミ袋が散乱していて,あちこちにはありとあらゆる携帯食料とカップ麺で積み上げられていた。

 「きたな!!」

 不意に心の声がだだ漏れていた。


 「いやぁ〜わりぃ〜な汚くて。研究が忙しくてな。時間がないんだよ!」

 「とりあえずソファの上は大丈夫だから座ってくれ」


 「研究って本当にしてるんですか? 自称じゃなくて?」


 「なんだよ怪しんでるのか? 今は軍に勤めていてな。そこで研究してるんだよ!」

 「軍?? 研究??」」


 和久さんはおもむろに取出したタバコに火をつけゆっくりと吐き出した…………

 「なぁ雄二。今って西暦何年だ?」

 「和久さんなんで俺によく分からない質問ばっかしてくるんですか? 今は2022年でしょ?」


 「はっはっは! いやぁ〜とにかく嬉しくてな! いいか雄二何一つも信じる事ができねぇと思うがよく聞け」

 「今ここは日本であって,日本じゃない」


 この時俺が思ったのは,やっぱ頭イッちゃってる人だと思った。 


 「言っとくが俺はちゃんとしてるからな。薬もやってないし至って身体も健康体だ。ここは俺達が知ってる日本じゃない。簡単に言えば,パラレルワールドって分かるか?」

 「まあ,聞いたことだけは」

 「パラレルワールドの日本って言えば簡単に伝わるか?この世界はそんな世界の日本なんだ」

 

 「いやいや! そんな事を急に言われても信じる事出来ないでしょ」

 「まあそりゃあそうだよな」 

 和久さんが自分に起こった出来事を語り始めた。


 「俺は五年前にこの世界に迷い込んだんだよ。あの例のコンビニに夜中行って,夜食買って家に戻ったら雄二と同じように家がなくなってたんだよいきなり。意味がわからなくてな」

 

 「頼れる友人も居なくて,家もないから家族もわからないしな。途方に暮れててフラフラしてコンビニの前に戻ったらコンビニが変わってたんだよ。さっき行ったときと変わってたんだよ。店員に聞いても前からずっとこれです! と言われるし。騒いでたら軍の人達に捕まって色々と事情聴取されてさ,この世界で俺の存在を示す書類が何一つなくてな。身元不詳で怪しいって軍に取り押さえられたんだが,持ち前の頭脳を発揮して成果を出したら,そしたら研究者として軍に雇ってもらえてな。ある程度の自由と権限を与えられて今は研究とそして,元の世界について調べてるんだよ」


 「正直病気なんじゃないかと思ってたさ自分自身で。もしくはイカれちまったか。でも過ごしていけば過ごすほど違う日本って表現が一番しっくりくるんだよな。そして俺と同じ状況のやつをずっとコンビニの前で探して続けてきたんだよ。俺はコンビニ出たらこの世界に迷い込んでしまったと思ったからさ。ずっと続けていたら今日雄二が現れたんだよ。俺はおかしくなった訳じゃなかったんだなって思ったよ! 後は単純に嬉しかったな」


 「でも話を聞いてると雄二の場合はコンビニがきっかけじゃなく電車を降りたらこの世界に迷い込んだ感じだけどな。何がきっかけなのか分からずじまいな感じだな」

 

 和久さんの話を黙って聞いていたが,何一つちゃんと頭に入ってこなかった。

 違う日本? 意味がわからない。

 「さっきから軍とか話に出てますけど,自衛隊じゃなくて?」


 「そうだよ軍だよ。この日本は軍事国家だよ。全ては軍が主導なんだよ。まあずっと戦争というか戦ってるからな」

 「戦ってる?」


 「ああ。まあ俺がいま話しても信用されないと思うからな。明日自分の耳と目で確かめたほうが早いだろ? 俺も最初は信用出来なかったからな」

 「とりあえず今日は早く寝ろ。明日は色々と忙しくなるからな」


 「いま雄二が疑問に思ってることなんかは明日ほとんど分かると思うから。あ〜ただ言っておくけど,元の世界に戻る方法は分からん。この世界で生きていく覚悟だけは決めとけよ色々手伝ってはやるけどな。とりあえずおやすみ〜」


 そういって和久さんはすぐに眠りについた。

 「わけわかんねぇ〜よ」


 頭の整理が何一つ出来ていないが,唐突に訪れた出来事で俺自身も疲れ切っていたのか,ソファーですぐに眠りについた。

 朝起きると知らない天井だった。全ては夢だったという事にはやはりならなかった。

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