第6話 〜錯綜⑥〜

 「よし着いたぞ」


 大佐がそう言い,俺は顔を上げると初めて鉄騎という人間の兵器を見ることとなった。

 ヒト型の兵器? いや! まさしく巨大ロボットと呼んでいい形体をしていた。


 だが,これが人間の最終兵器,Antsybalと戦うという割には造りは簡素すぎる。全て灰色に覆われた外観をしていて,鉄騎を見ると,何か武器らしいモノを備えている様子もない。


 素手で戦うのかわからないが,俺が想像するロボットいう概念のロボットではない事は確かだ。

 

 周りを見渡すとすでに俺以外の生徒は集合しているようだ。

 クマさんクラスとウサギさんクラスが合同とか言っていたっけ??

 大佐と一緒だったからか,無駄に注目を浴びているような気がする。そそくさと俺は自分のクラスの後ろの方へ向かった。


 その時に幼馴染のゆきの姿があった。やっぱりこの学校にいたみたいだ。という事はウサギさんクラスにゆきは居るみたいだ。自分が知っている顔を見るとやはり嬉しくなる。


 「よしこれから二クラス合同で授業を行う。今回は鉄騎についての説明をする。その為に研究員の部下を連れてきた。伊藤研究員挨拶と鉄騎についての説明を」


 「え〜大佐にいきなり連れてかれた伊藤和久,四十四歳,独身,現在彼女募集中です! 気軽に和さんって呼んでください」

 「伊藤研究員ふざけるのはその辺で説明に移ってくれ。こう見えても彼は相当優秀なので今回の授業に連れてきたよく聞いておくように」


 「天才科学者なんで皆さんよろしくお願いします! 今皆の目の前に見えているのがこの世界でAntsybalと戦う為に生み出された【鉄騎】という兵器だ。まあそんな事は分かっていると思うが,基本的な事から話していく」


 「この鉄騎はAntsybalから出てきた結晶を動力源として造られている。そして操縦士の適合率が高ければ高いほど鉄騎としてのポテンシャルを引き出す事が出来てAntsybalと戦う事が出来る」


 「簡単にいうと,適合率が高いと,どんな姿にもなるしどんな武器も生み出せるということ。自分が思い描く鉄騎へと変貌するのがこの鉄騎という乗り物の凄いところだ」


 「空が呼びたいと思えば羽が生えるし,味方を守りたいと思えば盾などを出現させて味方を守る事が出来る。ただし適合率が高くないと具現化出来ない事も多いし出来るかどうかは操縦してみないと分からない事が多いけどな」


 「だから適合率が高い事が最優先で大事だとされている。適合率が低いと出来る事がかなり制限されるし,操縦自体も相当難しくなるという。適合率が高いと自分の身体を動かすように鉄騎を動かす事が出来るようなんだ。けれど低いとまず動かすだけで苦労するという。山口先生は自分の右足を動かそうと意識すると鉄騎は左手を動かしていたそうだ。人によって違うみたいだが,動かすのは難しい。さらに武器を具現化するのも出来ない事がほとんどで,鉄騎の素手でのみ攻撃する事になるようだ」


 「適合率が高ければ自分が思い描く武器でAntsybalと戦う事が出来るのに対して,適合率が低いとそんなハンディキャップを抱えて戦う事になる。戦うのは難しそうじゃないか?」


 「けどここにいる山口先生も冬月大佐も適合率は決して高いとは言えなかった。だけど鉄騎に乗り成果を上げまくった人達だ」


 「何故そんな事が出来たのか? 操縦が上手いから? 元々の人間としてのポテンシャルが高かったから? 単純に天才だったから? 鉄騎に本来使われている素材でAntsybalを殴っても大したダメージを与える事が出来ないんだ。それでも倒すことができた何故か? 今までずっと解明出来ていない事だったが,俺が最近その謎の解明の糸口を見つけた」

 

 「それは……意志の強さだ」

 「少し噛み砕くと感情の強さが強ければ強いほど,鉄騎が反応するという事を突き止めた」


 「適合率が低いけど戦果を収めた人達の話や境遇を詳しく聞くと,きっかけがあったり境遇だったり元々だったり色々あるが,意志が強かったという事が共通として挙げられる。だが,数値化する事が出来ないし,どうすればいいのかわからないのは変わらない」


 「だが適合率が低いから鉄騎に乗ることが出来ないという事はない! 誰でも乗ることが出来るし,誰でもAntsybalと戦う事が出来る」


 「適合率が全てじゃないって事は覚えておいてくれ」


 「あ〜後それと大事な事を話しておく! 鉄騎の頭部には結晶の塊がある。もし操縦士が死んで鉄騎が動かせないような状況に陥った場合は,出来るなら鉄騎の頭部だけは回収出来るなら回収してきてくれ。そこさえあればまた鉄騎を造り出す事は出来るが,また同じ大きさの結晶を手に入るとは限らないからな。一つ一つの鉄騎は貴重という事は頭に入れておいてくれ」


 そう話す和久さんの姿を見て,初めてこの人も一応大人の人なんだなと思った。

 「ま,俺からの説明はこんなもんかな?」

 冬月大佐が和久さんの前に出て皆に向けて声をだした。


 「では次は実際に鉄騎の訓練を行う! 鉄騎というものが何なのか? 体感しないと分からない事が多いからな」 

 「じゃあとりあえず,ここに総合評価学年一位と二位が居るだろ? 前に出てもらえるか?」


 冬月大佐が言うと,ウチのクラスから一人,ウサギさんクラスから一人,前に出た。

 「二人ともクラスと名前を言ってもらってもいいか?」


 「クマさんクラスの財前巧ざいぜんたくみです」

 「ウサギさんクラスの石井いしいゆきです」

 ゆきの姿をこの時に初めてちゃんと見た。前の世界のゆきと顔は全く一緒だが,目に見えて活発そうな雰囲気が醸し出ている。ずっと本を読んでいた前の世界のゆきとはまるっきり違うみたいだ。


 同じクラスの財前はなんでだろう? 何故かコイツとは友達にはなれないと思った。嫌な奴というより自信家で人の事をちょっと見下してきそうな雰囲気がある男だなというのが俺が感じた第一印象だった。

 

 「よし! では彼らの鉄騎に乗ってもらい,模擬戦をしてもらう」

 財前とゆきはそう言われ,まさにコックピットと言わんばかりの中へ入っていく。すると驚く事にさっきまで簡素的な造りで灰色だった外装が,二人に反応してか,財前の鉄騎は黒くなり,ゆきの鉄騎は赤くなった。灰色だったのが一瞬のうちに変貌した。


 二体の鉄騎は駐騎場から外に出て,外で模擬戦を行うようだ。お互いの武器は剣であるようだ。

 

 「では,始め!!」


 大佐の一言で始まった模擬戦だが,開始直後にゆきの鉄騎が空を飛んだ。よく見ると背部から翼が生えてきている。ものすごいスピードで空からかく乱している。それを財前はさっきまで剣を持っていたのに,銃のような武器に変化していて,ゆきの乗る鉄騎に向かって撃ち込んでいる。

 


 しかしゆきには当たらない。模擬戦と言っていたけど,これが模擬戦なのか? と思うほどに迫力がある。


 上空から凄い速度で降下してくるゆきの鉄騎はそのまま財前の鉄騎に向かっていきなり斬りかかる。

 

 財前は武器を持ち替え剣で迎え撃っている。俺達の目の前で剣で斬り合っている。三十合は打ち合っただろうか!? 二体のロボットが戦っているのを見ると音と振動,それに迫力が凄い……


 「よし! その辺で止めて,二人とも戻ってきてくれるのか?」

 「今のように鉄騎というのは,適合率が高いと様々な事を出来る。思い描いた武器や能力が上手く使えるかは本人の腕と適合率次第であるが,ただ意外な発想から強くなる事もいくらでも出来る」


 大佐が話している間に先程の二人は鉄騎から降りてこちらに戻ってくる。黒と赤かった外装が最初に見た灰色の色へと戻っていく。鉄騎という乗り物,兵器はとてつもなく不思議な力が秘められているんだと感じた。


 「二人ともありがとう。では今日新しくこの学校の仲間になった黒崎雄二ちょっと前に出てきてもらえるか?」


 え? 何で俺? 前に出たくない……と思っていても流石に無理か……。

 「え〜ここにいる雄二くんですが,なんと鉄騎の適合率が82%あります!」

 ここにいる生徒全員がざわついた。その大佐の発言に財前が反応する。


 「冬月大佐! 発言してもよろしいでしょうか?」

 「財前なんだ? 言ってみろ!」

 「本当にコイツがそんな適合率があるんでしょうか? 今日一日の授業の内容を見ていましたが,何も出来ない人でしたよ。能力も低いし!」


 「ああ本当だとも! それじゃあ財前相手するか?」

 「大佐がそうおっしゃるなら僕が相手になりますよ!」

 いつの間にか俺が財前と鉄騎で戦う羽目になってしまった。


 「ちょっと大佐,そんな急に無理ですって!! 俺鉄騎に一度も乗ったことがないのに,いきなり戦えって!?」

 さっきの戦いを見ると,財前はかなりの実力者だってのは,素人の俺が見たってわかる。

 そんな俺がいきなり戦って恥をかくだけだし,やられるなんて目に見えてる。

 「お! なんか面白そうじゃん!」


 和久さんが面白がって茶化しにきた。

 「大佐。俺無理ですって!」


 「いや大丈夫だ雄二! 何事も実践あるのみだ」

 どうやら俺は逃げられそうにないみたいだ。財前はさっきからこっちを睨み散らかしている。


 最悪だ……


 傍から見たら俺は大佐から気に入られているようにも見えるだろう。

 生徒達からの視線も痛い……


 鉄騎の乗り方もわからない俺は大佐に教えてもらいながら,鉄騎に乗り込む。

 「雄二,お前の適合率ならきっと自分の手足のように鉄騎が動いてくれるはずだ」

 「適合率80%を超えた人の鉄騎の能力を見てみたい」

 

 大佐後ろで面白がってこっちを見てやがる和久さんも話しかけてきた。

 「まあ気軽にいけよ!」


 コックピットの扉が閉まり俺は鉄騎に乗った。操縦席には座る。

 鉄騎という乗り物は,車のようにハンドルがあるわけでも,アクセルやブレーキなんてものがあるわけではないようだ。


 操縦席と一体化している腕を嵌める装置のような所に腕を入れ,そうする事で鉄騎と一体化する事が出来るようで,自分が思うように動かせるという。

 自分の身体のように動こうとすれば動けるらしい。操縦席の前に映し出されたのは鉄騎からの視点の映像でこの映像を見て操作するようだ。


 一度も乗ったこともないのに,いきなり戦う事出来るのか? いや,立って歩く事だって実は難しいのでは? と思っている。まあもうなるようにしかならないか……


 とりあえず俺は動こうとしたら,ホントに自分の身体のように動かす事ができた。

 立ち上がって歩く。歩く。歩く……なんとか歩けた。


 財前の方がもうすでに外で待ち迎えている。

 俺は初めて歩いた幼児のようにヨロヨロした足取りでやっと財前の前に着いた。

 「二人とも聞こえるか?」

 大佐の声が聞こえる。


 「はい――聞こえます」

 「これは模擬戦だっていう事は忘れてはいけないぞ。私が止めたらすぐに攻撃などを止めるように! では始めてくれ」


 大佐が合図をいうと,財前はもの凄いスピードで俺との距離を空けて,すぐさま銃で撃ってきた。避けれるはずがない。


 「うわぁぁぁぁぁぁ……」

 銃弾を食らったと思ったけれど,何か当たったような様子がなかった。ロボットだからか?

 分からないが,とにかくなんとか大丈夫そうだ。

 財前は次に連射をしてきた。


 どう考えても銃弾が当たると思ったのが,目の前で銃弾が弾いている。

 バリアがあるとでもいうだろうか。財前が放つ銃弾を防いでいる。俺が何かしたのだろうか?

 いや! 何もしていない。だけど,銃弾を防いでいる。


 財前も何かに気付いてか,攻撃を銃から接近戦の剣と替えて俺に迫ってくる。

 俺はどうしていいから分からず,とにかく防がないとと思った。

 財前の鉄騎が俺に斬りかかってきて,咄嗟に左手を上げたら,左手には盾が出現していた。

 

 財前の攻撃をどうにか防ぐ事ができたようだ。でもこのままだと,財前にやられてしまうと思った俺は,なんでも出来るって言っていた事を思い出し,武器や攻撃なんかは難しいと思ったから,透明になるかどうか試してみた。


 透明になる事ができれば,攻撃を当てる事も見つける事さえ難しくなって有利になるだろうと思った。


 「透明になれ……透明になれ……透明になれ……」

 透明になったかどうかわからない。


 近接戦闘は圧倒的に不利だと感じた俺は財前の乗る鉄騎と距離を取った。

 財前は俺の事を探しているみたいだ。俺の鉄騎を透明化する事ができたみたいだ……


 しかし困った――どう攻撃すればいいのかわからない。

 戦闘訓練なんかした事もない俺が剣や銃なんて扱えるわけもない。

 正直降参したい……


 「大佐!! 大佐!! 聞こえますか?」

 「雄二か!? 聞こえてるぞなんだ?」

 「降参とかって出来ないんですか?」

 

 「出来ないな。雄二の鉄騎が急に消えたんだが,雄二の仕業か?

 「多分……そうだと思います。とにかく戦えってことですか?

 「まあそうだな。頑張ってくれ!」


 まだ止めてくれるつもりはないみたいだな。とにかく透明化する事は出来たみたいだから,簡単に攻撃してくる事もないだろう。


 単純だが,このまま全力でぶつかってみるか。左手に盾が出現したみたいだし,イノシシみたいに全力で突撃してみることにした。

 作戦と呼べるものでは到底ないが,そうする事ぐらいしか思いつかない。


 俺は後先考えず,この一撃で模擬戦を終わらせるつもりで全力で財前の乗る鉄騎に突進した。

 財前は俺の事を見失っているおかげでこっちには気付いてなさそうだ。


 俺はやれる! そう思ったが,気配を感じたのか,何かを感じたのか分からないが,財前の鉄騎がこっちを見て攻撃を仕掛けてきそうだ。でもそんな距離はない。俺はそのまま思いっきり突っ込んだ!

 財前は当たる直前で自分の騎体を守るような形をとっていた。


 二体共地面に倒れた。

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