聖女狩り・中編

 魔道大戦後の現在、怪我や病気の回復・治療に使われる魔法は、神官プリーストがかつて行っていた、神の力を借りた神聖魔法ではなく、生物の生態に理論付けられた、医学・薬学と並んで遜色ない治療魔法である。


 汚れけがれを払う、という抽象概念ではなく、害のある細菌や、健康を阻害する物質の除去であり、浄化の考え方の根本から異なっている。

 魔法の無い異世界から来た、薬師や医師達が編み出し積み上げた、異世界の知識=『科学』的な理論に基づく魔法らしい。


 現実に、怪我や病を治し、迷いや苦悩・苦痛を取り除いているのだから、かつての神聖魔法に勝るとも劣らないわけで、治され癒される側に、何の不都合も、問題も無い。

 むしろ、施術者への対価にプラスして、神への感謝と祈りを求められる神聖魔法より、対価がはっきりしている分、わかりやすいとも言える。


 その治療に、対価すら満足に支払えない貧困層には、神への感謝と、ある時払いの喜捨の方が安いと言えるのかも知れないが、安いチープ喜捨では、やはり相応に安いチープ奇跡しか起こり得ない。


 かつての神聖魔法の使い手達プリーストは、その神聖魔法に癒され信徒となった者達の祈りの力を束ね、より強大な神聖魔法を行使した。

 それは、信徒の祈りと神の加護の賜物だが、一部の神官プリーストは、それも自分の力の結果と感じ、実際、そう振る舞う者もいた。それは奢りであったのか。


 逆に、魔界と悪魔や魔物の力を喚起した魔術師ソーサラー召喚師サモナーは、それを自覚的に我が物と感じた。

 行使者ソーサラー自身の深い知識と理解、そして強い制御力が、それを可能とするからだ。


 その行使を目の当たりにした者は、行使者ソーサラーに対し、恐怖もしくは畏敬の念を抱き、その思いは術の発動と効果を容易に増幅し、行使者ソーサラーを強くする結果となる。


 かくして、神聖魔法は世俗に塗れ、喚起魔法は悪夢に彩られる。

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【ウィザードスタッフ】 聖女狩り 大黒天半太 @count_otacken

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