部活動見学!1

 朝、同じ時間にバス停に向かうとそこには昨日、舞台上で見たギター担当の先輩がいた。こちらから話しかけるつもりは全くないがそれでも自分の視線が無意識に先輩のことを追ってしまっている気がする。




「おはよ、蒼汰君」


「おはよう、雪さん」


「なんだか今日、人多い……?」


「もしかしたら、これが普通なんじゃない?昨日って上級生ほとんどいなかったし」


「あ、確かに…」


 雪さんの言う通り、今日のバス停には昨日の二倍近い人が並んでいる上にギターの先輩のファンのような人たちが朝早くから多く集まっていた。


「これ、バス乗れる……?」


「厳しいと思う……」


「だよね……」


 入学してから三日目にしてもう遅刻ギリギリを経験するとは思っていなかったが、間に合うことには変わりないため今日は割り切って学校に行くことにした。



 数分もしたらバスが来たが、前にいる人や車内の感じを見ている感じではやはり乗ることはできなさそうだったので、雪さんと部活動見学の予定について話していると俺の前に並んでいたギターの先輩が急にこちらのほうを振り返ってきた。


「ねえ、君たち一年生でしょ?良かったら先に行って」


「いえ、僕たちは次のバスに乗るので大丈夫です……」


「私一人ならそうなんだけど、朝からみんなが集まってきてくれたのに私だけ乗るのはちょっとね。そういうことだから君たちが先に乗ってくれないかな?」


 昨日の舞台上でのキリっとした鋭い眼光ではない、こっちを優しく見つめる柔らかい眼差しを断ろうかとも思ったが俺の後ろにいる人達から伝わってくる無言の圧に屈した俺は雪さんに声をかけてバスに乗り込んだ。




 学校に着いてから、教室で部活見学のことについて話していると入学式の日に見かけた不良っぽい人たちの中の一人が雪さんに話しかけた。


「ねえ、何の話してたの?」


 さっきまでそこそこ饒舌に話していた雪さんが急に静かになり、こっちのほうにSOSを出してきたので俺がその子の質問を返した。


「部活動の見学に行こうって話してたんだ」


 その子はちらっと雪さんのほうを見た後、話をつづけた。


「…ふ~ん。目星とかってついてんの?」


「まあ、大体は。もともと文科系の部活しか興味なかったし、昨日のやつで三つくらいには絞れたかな」


「軽音部とか?朝からみんなずっとその話してるし、アンタらも?」


「いや、そこは行く予定ないかな」


「へえ~なんで?」


「俺、ちょっと遠くからきてるからあんまり時間とか取れないんだよね、家事とかあるし」


「ねえ!あたしも……」


「悪い!遅くなった。急いでホームルーム始めるから席に座ってくれ」


 何かを言いかけていたが担任の鳥川先生が入ってきたのでその子は席に帰っていった。その後、全員がそろっているのを確認してから先生はプリントの配布を行ってからその内容についての説明を始めた。


「今日なんだが、昨日ちらっと言った通り今日の授業はまあ顔合わせみたいなもんだな。別に教科書とかもいらないから忘れたやつも安心していいぞ。そんで今週だけだが一限につき45分で早めに終わるから存分に部活見学して来い。…あ~、ただし人気の運動部とかは入部試験とかあるらしいから道具とかもって行くようにってさっき言われたからしっかり確認はしろよー」

 

「ゲーム部、e-sports。ってことは運動部……?」


「違うと思う……」



 先生の話が終わり、一応授業の用意を机の上に並べて準備しているとさっきの子が友達を二、三人連れて同じく準備中の雪さんのほうに歩いてきた。


「さっき言いそびれたんだけどさ、二人で行くってさっき言ってたじゃん?それさ、あたしらも一緒について行かせてくんない?」


 その子がそう言うと、うつむきながら話を聞いていた雪さんの顔色が少し曇ったような気がした。前にいる人達からは見えないのかそのことには気が付いていないみたいだったけど、俺のほうからはそれが見えたので気軽に「いいよ」とは返事ができなかった。


「ごめん。…見学の後に二人で遊びに行く予定だから、今日は無理かな」


「そうなんだ。明日とかならいい?昨日くらいに他の奴に誘われたんだけどなんかそいつらめっちゃキモくてさ……」


 面識のないのに急に話しかけてきたのは多分、この子言う人たちと真逆のタイプの俺や雪さんに話しかけてその人たちから逃れようとしたんだろうと思い、この感じなら何か困ったときにでも助けてくれる気がしたので俺はこの要請を聞き入れることにした。


「それなら多分いけると思う」


「マジ?助かる~。じゃあ、明日よろ~」


「よろ~」

 

「……ありがと、蒼汰君」


「別にいいよ」



 昼休みになり、自分の席で姉さんの分のついでに作ってきた弁当を食べながら朝の出来事について聞いてみることにした。

 

「…雪さん、あの人たちとなんかあった?」


「あの人って、朝のあの子?」


「うん、その子」


「別に、初めて会った子…ただ、ああいう人が苦手なだけ」


「そうなんだ」


 俺はそこから先は聞いてもただただ雪さんの気分を嫌な感じにするだけだと思ったので何も聞かずにそこからは静かに弁当を食べ進めた。



 授業が終わり、放課後になった。朝の先生が言ってた通り、だいぶ早くに学校が終わったので今日はゲームと文芸の二つを一気に行くことになり、昨日配られた資料に書かれた地図を見ながら歩いていく。だが私立の高校なだけあって広い敷地のなかで校舎からそこそこ離れた距離にある文芸部室に行くのは一苦労だった。

 コンコン、とドアをノックすると昨日壇上に上がっていた部長さんが出てきた。


「こ、こんにちは!部活動見学の人、ですよね…?」

 

この反応にものすごく既視感のあるような気がしたが、真横をちらっとみると雪さんは少しむっとした表情で睨み返してきたので「ごめん」と小さく謝ってから部長さんの後について部室に入っていった。中にはパソコンで何かをしている男子生徒とゲーム中の多分、男子の生徒が一人座っていた。(夢見高校は女子生徒のズボンOKの学校なのです)


「えっと、どうしよ…。し、質問とかある?」

 

「あ~えっと、ここにいる人以外でほかに部員っていますか?」


「うん…四人かな?今日は男の子が多いけど、いつもなら女の子が多いよ。あぁでもみんな好きなことしてるだけだから話に入れないとか、ないから安心です…!」


部長さんからぜひ入ってほしいという意思がビシビシ伝わってくるのがわかる。そして次の質問を考えていると、雪さんが小さく手を挙げた。

 

「あの、その、兼部してる人、っています、か?」

 

「いますよ。そろそろ来ると思うので詳しい話はなっちゃんから聞いてください」


すると、ドアが開いて昨日、壇上にいたゲーム部の部長さんが入ってきた。




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