高校生活初日 1



 昨日は家に帰ってから咲さんと姉さんと三人でご飯を食べた後、気が抜けてどっとたまっていた疲労を感じた俺は風呂を入ってから二人の酒飲みに近づくことなくすぐに寝ることにした。




 翌朝、二人分の朝食を作るためにリビングへ行くとテレビの前の机に大量の缶が置かれているのを見て、いったん俺はそれを放置してとりあえず料理を開始した。



「姉さん。起きてる?ご飯できたー」


 朝ごはんの準備をし終え、姉さんを呼びに部屋に行くがいつもと同じく返事はない。

 このまま放っておいても絶対に起きることはないのはわかっているので部屋に入り、無理やり起こそうとすると姉さんの横にいつもはないもぞもぞ動くふくらみがあった。


「うぅ、ん?はぁ~おはよう蒼汰君」


「え、咲さん?お、おはようございます……。昨日、帰ってなかったんですか?」


「うん、そうなの。リビングで寝ちゃってた翠をこっちに運んだら私もそのまま寝ちゃった」


「あぁ~そういうことですか」


 咲さんがいる理由はなんとなくわかったが、今リビングには文字通り『二人分』のご飯しかないのでそれをどうしようか考えていると横で寝ていた姉さんが動き始めたのが見えた。


「ぁぁ、おはよ、咲」


「おはよう、翠」


「朝ごはん?」


「うん、まぁそのつもりだったんだけど……」


「あ、咲の分がないの?」


「うん」


「いや、私は一回帰るから別にいいよ」


「あ、そうだ。ちょっとだけ待っててもらえますか、咲さん?急いで作るんで」


「いや……」


 さっき冷蔵庫を見たときにある程度食材が残っているのを思い出した俺は急いでキッチンに戻り、もう一人分の朝食を作り始めた。


「「「いただきます」」」


 幸い、フライパンなどはまだ洗い始めていなかったので5分もしないうちに温めない押した分も含めて三人分をそろえることができた。


「ごめんね、蒼汰くん。私の分まで作ってもらっちゃって」


「全然大丈夫ですよ、咲さん。昨日、いろいろしてもらったみたいですし」


「そうそう、気にしないでいいって!」


 そんな風な朝の時間を過ごしてから制服に着替え、昨日の夜に確認しておいた時間のバスに乗るために余裕を持って家を出た。





 バス停には昨日とは違って同じ学校の制服を着た人が数人先に並んでいた。先輩だと思われる人の中には俺があまり楽器には詳しくないため、はっきりとはしないがギターやベースのような形の袋を背負っている人もいる。

 高校で入る部活を決めてはいないが入るなら文科系の部活、というのだけは決めているのでもしかしたら直属の先輩になる人を見て俺は部活動見学の予定に『軽音部』を追加することにして、スマホで適当に音楽を聴き始めた。




「ぉはよ、蒼汰君」


 イヤホン越しに聞こえた声のするほうに顔を向けるとそこには少し息を切らした様子の雪さんが立っていたので、イヤホンを外し俺のほうからも挨拶を返した。


「おはよう、雪さん」


「今日、寝坊、しちゃって……。いそい、で来た……」


 息の上がったまま話している雪さんの髪を見てみると、気になるほどではないが昨日と違って直し切れていない寝癖が見て取れた。


「お、バスきた」


「間にあ、ってよかった」





 バスに乗ってから、俺は昨日先生から伝えられた今日の予定について話し始めた。


「そういや、部活動見学のこととかって何か言ってた?」


「いや、言われてない、はず」


 運動不足が深刻そうな雪さんはまだ息切れが続いている。


「雪さんは部活はいるの?」


「私は、わかんない。蒼汰君は?」


「俺はバイトとかしたいし、入るとしても忙しくないやつかな」


「……ふぅ。そうなんだ。なら私と、見学行ったりとかいかない?」


 俺は雪さんにいきなり誘われ、少し驚いた。


「え、いいの?ほかの人とか…」


「いない…」


 そこで俺は昨日のことを思い出して、もしそんな人がいるなら父親と二人で入学式には来ないはずだと思った。


「じゃあ、いっしょにいこっか」


「うん」

 



 学校に着いて、自分の教室に入るとすぐ後ろから担任の鳥川先生が入ってきた。


「おーい、今日の予定いうからさっさと座れよー。 よし全員いるみたいだな、えっと今日は教科書販売とかもあるんだが、お前ら的に一番大事なのはオリエンテーションか」


「せんせー!それってなにすんの!?」


後ろのほうの席で昨日の不良っぽい女子が手を挙げていた。


「まぁ、つまらないものじゃないから安心していいぞ。あぁ~でも生徒会長が来るから長くはなる。はぁー」


先生はあの生徒会長のことに関して俺と似た考えのようで心底めんどくさそうに溜息を吐いた。





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