出会いの入学式2

 校舎の正面玄関には腕輪を付けた上級生らしき人が新入生の誘導などをしていたので迷うことなく俺と雪さんはクラス分けの票が張られているところに行くことができた。左から順番に見落としのないようにしっかりと確認していく。


「あ、蒼汰君、一緒みたい……!」


「え、どこ?」


「ここ……」


「あ、ほんとだ」


 雪さんの小さい手が指した右のほうにある3組のクラス表を見てみると確かに二人の名前が書かれていた。


「また、他の人たちも増えてくるだろうし先に教室に行くほうがいいかな?」


「私もそれがいいと思う」


 近くにいた上級生の人に大体の教室の位置を聞いて俺と雪さんは階段を上がっていって、二階の三組の教室に入るとまだ少し早い時間だったからか中には数人の女子が集まってしゃべっているだけだった。


「席、隣みたい」


「……ほんとだ」


「これからもよろしく。雪さんはあっちの人たちと話してくる?」


 俺がそう言って雪さんのほうを見ると、首を真横にぶんぶん振って否定してきた。


「いっぱいの人、とは、きびしい……」


「俺と喋れてるんだから何とかなるって」


「それは、お父さんが居た、っていうのとなんか優しそうな感じがしたから」


 ちらっと女子の集団のほうを見てみると、そこにいるのは金髪や茶髪の俗にいう不良っぽい見た目の人たちだったが、個人的には怖そうな感じなどはほとんどわからなかった。だけども、嫌がっているのを強制するべきではないと思い俺は担任の先生が入ってくるまでの間、二人で話すことにした。



 教室に来てから大体三十分が経った頃、担任と思われる男性先生が教室に入ってきた。


「皆、おはよう。それと、入学おめでとう。今からの予定をざっくりと説明するけど、まずこの後、体育館で入学式に出てからここに戻ってきていろいろ配って自己紹介し終わったら今日は解散だ」


「まあ、とりあえず話すこととかは後でやるから。入学式、結構すぐ始まるからもう移動を始めていいぞー」


 周りはもうすでにグループ的なものが形成され始めているようでクラスメイト達が一斉に移動を始めたので、俺と雪さんも遅れないようについていく。

 入学式が始まると、意外と先生の話などは素早く終わり逆に短いと思っていた生徒会長の話がとてつもなく長かった。ナルシストをこじらせているのか何なのか内容のない話が永遠と続き、美人はたいていのことを許されるというが俺は生徒会長のことがすでに少し嫌いになっていた。


「………以上で終わりだ。青春を存分に楽しんでくれ」


 その瞬間、疲れた雰囲気の保護者席とは違って新入生のいる席からは大きな拍手が送られたのを見て俺は『この学校とは合わないかも……』とおもった。

 



教室に戻ってきてからすぐに自己紹介が始まり、前から順に発表していってとうとう雪さんの番が回ってきた。


「ゎたしの、名前、は、三枝 雪です…。ぇっと趣味はゲームセンター、に、行くことです。一年、よろしく……ます」


自己紹介を終えると、雪さんはクラスメイトの拍手も待たずに自分の席に戻ってきて耳を真っ赤にしている。とりあえず、フォローは後ですることにして自分の番の準備を優先していると自分の番が来た。


「えっと、俺の名前は柳 蒼汰です。蒼汰でも柳でもどっちでも呼んでください。趣味は漫画を読むこと。これからよろしくお願いします」


噛まずに前を言い終えた俺が席に着くと担任が前に立った。


「最後は俺だな、名前は鳥川 竜だ。どんな呼び方でもいいぞ。趣味は料理で我ながらごつい見た目だと思うが担当は数学で百人一首部の顧問をやってる。新入部員はぜひ来てほしい」


「っとこれで今日はこれで終わりだ。なんか質問あったら今聞くがどうだ?…………なんもなさそうだな。まぁなんかあったらあとで聞きに来い。各々帰っていぞー」


鳥川先生の話が終わり、プリント類の整理をしていると雪さんから声をかけられた。


「蒼汰君、いまからお父さんとごはん食べに行ってから帰るんだけど一緒にどう?」


「ごめん、朝はいなかったんだけど姉さんが来てるから帰りは一緒には無理かな」


「そっか……。じゃあ、玄関までいっしょにいこう?」


「うん、それなら」




二人で人が集まって混んでしまわないうちに正面玄関のほうに向かうと、周りの人と比べてひときわ若い姉さんはすぐに見つける頃ができる。


「お、来た。もう友達作ってんの?早っ」


「初め、まして、三枝 雪です」


「私は柳 翠。翠でいいよー」


お互いに自己紹介を済ますと、後ろのほうから雪さんのお父さんがやってきた。


「合流できてよかった。あ、あなたはもしかして蒼汰君のお姉さんですか?」


「はい、そうです。弟が娘さんと仲良くなったみたいで、これからよろしくお願いします」


「はい、こちらこそお願いいたします。娘は最近一人暮らしを始めたばかりなので少し目をかけてもらえると助かります」


「はい、わかりました」


 姉さんはそういうと俺のほうを向いて歩き始めた。


「じゃあ、蒼汰帰ろっか。咲が家で出前とってくれてるし」


「あーそういうことみたい。また明日、雪さん」


「仕方ないね。バイバイ、蒼汰君」


そこで、俺の出会いの入学式は終わった。



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