出会いの入学式1

 朝、まだ少し薄暗いうちにあらかじめ機能のうちに設定しておいたアラームで目が覚めた。入学式の今日も俺はいつもと同じように姉さんと自分の分の朝食を作り始めようとリビングに向かうと、珍しくいつもは起こすまで起きない姉さんがメイクをし終えた状態でそこにいた。


「おはよう」


「おはよ」


「今日って姉さんのとこも入学式なの?いつも着ないのにスーツまで来て」


「いや、うちの学校は一昨日。あと、別に教員も担任持ってないならスーツとかは着なくてもいいんだよ」


「ならなんで?」


「前に言ったじゃん。私が母さんの代わりに入学式行くって」


「え?……!」


 そういえばここに引っ越してきてから一週間も経っていないくらいの時に酔っぱらいながらそんなことを言っていたような気がするが、いつも酔っ払っているときは適当に返事をしている俺は全く気が付いていなかった。


「じゃあ、今日って車で送ってくれるってこと?」


「そうしてもいいけど、私としては友達作りもかねて通学で使う予定のバス使ったほうがいいと思うけど」


「ああ~なるほど。了解」


「なんでも初日が一番大事なの!ちゃんと髪とかも決めたら?」


 そこで時計を見てみると、家を出るまで一時間以上あるのが確認できたので俺は朝食をたべてからより入念に準備をし始めた。




「いってらっしゃい。式が終わったら、連絡するから」


「わかった」


 そういって家を出て家の近くにあるバス停でバスを待っていると思っていたよりも早くバスが来たが、朝の通勤で使う人が多くいる時間帯なだけあって乗り込むだけでも一苦労といった具合の混みようで、乗ることができなかった俺は気長に次のを待つことにした。


「あの~すいません。夢見高校行のバスに乗りたいんですけどここで合ってるでしょうか?」


 後ろからの声に振りかえってみると、スーツ姿の四十台くらいの男性の横に自分が今身に着けているものと似た制服を着たボブカットの女子高生が立っていた。


「はい、あってると思いますよ。と言っても、僕自身そんなに乗ったことがないので確実にそうとは言えないんですが」


「あ、新入生の方なんですね。ならもしよければ一緒に入学式に行ってもいいでしょうか?」


「全然大丈夫ですよ」


 横にいる男性はおそらく、この子の親で娘が心配でここまでついてきたようだった。先ほどまでの少し厳しめの顔から今は朗らかに笑っている。そんな会話をしていると、バスが来たので一番後ろの広めの席に一緒に乗り込んでまた会話始めた。


「このあたりに住んでらっしゃるんですか?」


「いえ、少し遠くからきているのでこの近くに住んでる姉の家に居候してるんです」


「そうなんですか、近くに頼りになる人がいるのは心強いですね。私が住んでいるところはここから少し距離があるので娘は今年から一人暮らしなんですが、この通り、どうも人見知りが激しいのでずっと心配だったんです」


 先ほどからずっと俺のほうをチラチラ見ているのでなんとなく人見知りかな?とは思っていたが親が認めるほどとは結構なもののようだ。


「なので、もし学校で見かけたときとかに気にかけてもらえませんか?」


「はい、わかりました。一応自己紹介とかしたほうがいいですよね……?えっと、名前は柳 蒼汰で、『蒼汰』って呼んでもらえると嬉しいです。趣味は漫画で好きな食べ物はラーメンっとこのくらいかな」


 俺は昨日のうちに考えておいたクラスの自己紹介で使う用の文章を言い終えると、女の子の口がぼそぼそと少し動いているのが見えたがバスの音でその子の声は名前以外ほとんど聞き取ることができなかった。


「三枝 雪、です。………で、好きな…………」


「これからよろしくお願いします。雪さん」


「こちら、こそよろしく、です蒼汰君」


「お、そろそろ着くみたいだね」


 雪さんのお父さんがそう言うとバスはすぐに止まった。俺はあまり気が付いていなかったが多くはないけれどバスの中にはほかにも同じ学校の生徒がちらほらと見られる。


「じゃあ、お父さん、またあとで…」


 小さく手を振って雪さんのお父さんと離れて、俺と雪さんは正面玄関のほうへ向かって歩き始めた。

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