引っ越し初日2
リビングまで廊下に落ちている下着類、乱雑に置かれたごみ袋、という典型的な汚部屋。目の前に広がっていたのはそんな景色だった。
「よし!さぁて片付けしよっか」
「ストップ。」
この光景があたかも普通であるかのように入っていく姉を引き留め、とりあえず話を聞く。
「翠さぁ、昨日会った時に片付けしたって言ってなかったっけ?」
「片づけてるじゃん!踏み場もあるし、大きなゴミは落ちてないでしょ?」
「姉さんって実家の部屋は綺麗にしてたんだけどなあ」
「えっ?翠ってこれがもともとじゃないの?」
この風景しか見たこのない様子の咲さんが不思議そうにしていると姉さんが何かを思い出したように話し始めた。
「あぁ~蒼汰って私の部屋の掃除を母さんがしてたのを知らないんだっけ?」
「知らないよ……」
かけらほど残っていた俺の姉さんに対する尊敬の意のようなものがなくなった。
三人で力を合わせて片付けたのにもかかわらず結局、終わったのは夕方だった。
「ふう~やったおわった。まるで新しい家に引っ越してきたみたい!」
「すいません、咲さん。休みの日なのに一日中手伝ってもらって」
「気にしないで、蒼汰君。私は仕事のほうで色々助けてもらってるから。今から、多分晩御飯だよね?翠は多分あのまんまだろうし出前しよっか、何食べる?」
「いや、さすがにそこまでは悪いです。適当になんか作って食べるんで大丈夫です」
「ならさぁ、ついでにお酒と食べれるのなんか作って。今から飲むから」
俺がそう言った瞬間、ずっとソファーの上で幸せそうにテレビを眺めていた姉さんが急にこっちを向いてそんなことを言ってきた。
「めんどくさい」
「いや~ほんとは今日、咲と一杯しに行く予定だったんだけどな~。お世話に……」
「あぁーもうわかった」
こうやってこき使われるのはいつものことなので、仕方ないと割り切ってキッチンに向かい料理を始める。
受験期が始まる前は毎日のようにしていただけあって腕は全くなまっていない。
「はい、できたよ」
俺は作り終えた焼きそばと冷蔵庫に入っていた缶チューハイをもってリビングの机の上に持っていった。
「「「いただきます」」」
自分で作って言うのもなんだがソースが濃く、結構おいしくできたと思う。
「蒼汰、もう一本持ってきて」
「あ、私もいいかな」
二人ともお酒を飲むスピードが速く、多めに作っておいたやきそばがすぐになくなっていく。姉さんが酒に強いのは知っていたが優しそうでほんわかとした見た目の咲さんがついていっているのには驚いた。
「翠いいらぁ。これからずっとこんなおいしいごはんがたべれるんらもん」
「いいれしょ~」
晩御飯を食べ終えた後でも飲み続けた二人は赤い顔と、回っていない呂律からだいぶ酔いが回っているということが見て取れる。
「姉さん、俺寝るから」
聞こえていないだろうが一応そういってから、昼間掃除した自分用の部屋に向かう。
高校生活以前にそもそもが前途多難だが何とかなることを信じて寝る用意をしていると急にドアが開き、べろべろの姉さんが入ってきた。
「そうた~。これからたまに咲が家に来るようになりあした~!」
「うるさい。寝ろ」
駄々をこねる姉さんを追い出して明日、カギを部屋に導入することを決めて目を閉じた。
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