私の家に来たら?
三月の中頃、我が家には重い空気が漂っていた。
「ごめん、公立ダメだった」
というのも俺が志望校に落ちた結果滑り止めで受けておいた私立に行くことになったからだった。
「まあ、いつもまでも落ち込んでても仕方ないんだしさっさと切り替える!!」
はつらつとした声で母さんが励ましてくれるが、ずっと応援してくれた二人にこたえられなかったことがなんだか申し訳なくて切り替えができないでいた。
「そうはいっても落ち込むのも無理はないよ、母さん。蒼汰はこういうことは初めてなんだから...」
少しの間、沈黙が続いた。
「でもな蒼汰母さんの言うことも一理あるんだ。こういうことはこの先いろいろなところで起こるからどれだけ早く前を向くかが大事だったりするんだ。」
「わかった……」
俺にはこの言葉がとてもやさしく感じられた。
そこから一週間がたち、高校に入学する準備をし始めなくてはなくならなくなり落ち込んでいる暇もなくなってきた。
「あと、何かいるものってある?」
「制服も買ったし、かばんもある。教科書とかは?」
「入学式の後に販売会があるってパンフレットに書いてた」
「なら後は…、あれか。家探し」
「ほんとどうしよう?」
最初は順調に進められていた準備であったが、唯一それだけがいまだ決められないでいて、はじめは学校側の寮に入ろうと考えていたが部活動に入っている人が多いらしく運動系の部活はいるつもりのない俺には居心地が悪いだろうと父さんからの勧めで学校近くのアパートやマンションを借りることになった。
「今の時期はどこもいっぱいいっぱいだからもうこの中から決めるしかないな」
リビングのテーブルの上に広げられた資料をもう一度一つ一つ吟味しては見たがどれも決定するに及ばず、ぺらぺらと紙をめくる音だけの時間が続いた。
「わかった!!」
ダン!と急に母さんが机をたたいて立ち上がると引き出しから紙を一枚持ってきておもむろにあみだくじを作り始めた。その様子ををじっと見ていると、インターホンが鳴ったので玄関に向かうと扉の前に姉の翠が帰ってきていた。
「姉さん?さっさと入ってきたらいいのに」
「ご苦労、蒼汰。私、家の鍵なくしちゃって中に入れなかったんだよね。父さんたち中にいる?」
明らかに母親の血を濃く受け継いだ姉さんは家の中に漂う真剣な雰囲気を素通りして真剣な面持ちをした二人のいるリビングに入っていった。
「う~ん、久しぶりの実家はいいものだね。あ、母さん父さんただいま。」
「ああ、おかえり」
「おかえりなさい」
そういうと姉さんはテーブルの上にあるあみだくじと端に固められた資料を不思議そうに見つめた。
「母さん、なんであみだくじなんか作ってるの?」
「今から、蒼汰が一人暮らしするところを決めるの。でも二人ともなんだかんだ言ってずっと決めないからめんどくさくなっていっそ運に任せてみようってことで」
「蒼汰高校生なのに一人暮らしするの?」
「私立の夢見高校に行くことになって、ここから通うのは無理だからって父さんが」
「結構いい学校じゃん。どこら辺に住むの?」
「ここらへんにしようと思ってる」
俺が不動産でもらった資料を適当に渡すとそれに目を通し始めた。
「え、ここ?少し高校から離れてるけどいいの?」
姉さんが開いている資料は母さんが、俺に何かあったときに駆け付けやすいようにということで選んだものでほかのものとは結構離れた場所にある物件だった。
「私が言ったの。一人暮らしって何かと心配だし翠はもう大人だから何とかするだろうけど蒼汰はまだ高校生だからって」
「母さん的にはここがいいんだ?」
「そうね」
他の物件の資料にも目を通し終えた姉さんは腕を組みながら俺のほうをじっと見て口を開いた。
「ならさあ私の家に住む?」
急にそんな突拍子もないことを言われた俺は何を言われたかを理解するのに結構な時間を必要とした。
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