1-2 正体

 「あーはっはっは!!」

 野太い声の哄笑が、広間に響き渡った。

 楽団の音楽は止まる。舞踏会のざわめきは、一瞬で水を打ったように静まった。キラキラと輝いていた光すらも、暗くなったよう。

 広間にいる全ての人の目が、黒鳥アリオムに注がれている。何事が起ったのかと訝しむ視線は、跪いたまま娘の手を取る王子へ移り、そして、ゆっくりと黒鳥の後ろにいる大きな黒い影に移動した。人々の目に浮かんだ色は、最初は驚き、そして事態を理解するとともにゆっくりと恐怖へと移り変わっていった。

 アリオムは、人々の視線がそのように変わっていくのを見つめながら、立っていた。さきほどの歓喜の炎は冷えて、異形を見る視線が突き刺さるのを感じていた。

 ―――いつも、そう。お父様の娘であるというだけで、私はいつも蔑まれる。

 今すぐ逃げ出したい。油断したら、後ろに下がってしまいそうで、アリオムは必死で歯を食いしばった。傲然と顎を上げて、折れそうになる心を支えた。

 「おやおや、王子さまは我が娘アリオムに求婚なさいましたな!皆さんの前で誓いを立ててしまったようだ!」

 アリオムの後ろの大きな黒い影から、大音声が降ってくる。おかしくてたまらない、という笑い声が続く。

 アリオムは後ろから響く声からこそ、逃げ出したかった。その心を抑えて、必死で口角を上げる。

 ―――私は微笑みを作れている?泣き顔になっていない?

 「―――魔王、きさま……」

 そのとき、地獄の底から響くと思われる声が、アリオムに届いた。アリオムの目の前に跪いた美男子が、顔を歪めて立ち上がろうとしていた。怒りが全身から放たれている。

 アリオムは、その怒りが自分にも向けられているのをひしひしと感じた。心臓がギリ、と音を立てて軋んだ気がした。

 「魔王?」

「魔王だって?」

「隣国の魔王トグエテ伯……!!」

 音楽の止まった広間で立ち尽くしていた人々は、この不可思議な事態を解明する鍵を与えられたとたんに、騒ぎ出した。

「魔王伯!」

「魔王の娘!」

 その声をきっかけに、広間中の何百人の軽蔑と好奇の視線がアリオムに刺さった。

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黒鳥のpassion~騙されて落ちた恋は王国の命運を揺るがせる~ 暁 雪白 @yukishiro-akatsuki

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