黒鳥のpassion~騙されて落ちた恋は王国の命運を揺るがせる~

暁 雪白

1-1 求婚

 広間に満ちた光がぐるぐる回る。ほら、王子様が熱に浮かされた顔で近づいてくる。美しい顔、琥珀色の瞳は焦点が合わないまま、私を見つめている。

 ―――早く!

 黒鳥―――今は白いドレスを着て貞淑な振舞いの白鳥の振りをしている娘、アリオムの心臓は激しく打っていた。

 ―――王子が自分に求婚したら、私の勝ち……

 黒鳥は嫣然とした微笑みの下で、手の震えを必死に抑えていた。これが私の運命の賭け。人生の賭け。

 王子は焦点の合わない目で微笑んで、アリオムの手を取った。 

 息が止まりそう。緊張のあまり叫び出しそうな自分の喉を、アリオムは歯を食いしばることで抑える。

 ―――早く!!早く!

「ああ、白鳥の娘、モイーラ、あなたはなんて美しいのか」

 王子は、黒鳥の娘アリオムの頬に手を添えた。思わず身を引きそうになるのをアリオムはこらえる。

 ―――早く!!

 こめかみがズキズキして、アリオムは倒れるのではないかと思った。

「白鳥の娘よ……」

 王子は、アリオムの顔をうっとりと見つめながらつぶやく。

―――早くしてよ!

「―――王子様!求婚して!」

 アリオムはしびれを切らして、目の前の夢うつつの美男に鋭く囁いた。

 王子は操り人形が急に糸を引っ張られたかのように、ぴくりと反応した。

「―――ああ……愛しいあなた、私とどうぞ結婚をしてください」

 王子はそう言って、アリオムの手を取って口づけた。

 その瞬間、アリオムの全身を歓喜が貫いた。

 ―――自由!ついに自由の身に!!


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