第14話 功労祭 前編

「早く着替えてください! セイタン卿、本日は全ての配達が止められる年に一度の功労祭です。ほら、髪くしゃくしゃですよ? ナイトキャップをあれほどなさいといつも言っているのに……貴女はだらしない事の研究でもされているのかい?」

 

 きちんと制服を着込んだ3号がまだ半分夢の中にいるセイタン卿に制服を着せて、せっせと準備をする。セイタン卿は3号の胸に頭を埋め、その大きな胸を鷲掴む。「本当は起きてるでしょ? セイタン卿は策士ですか? ワタクシの乳を触りたいから狸寝入りとは恐れ入りました……いや、本当に寝てますね」ぐわんぐわんと揺らして3号はセイタン卿を起こす。「まぁ、もう少しこんなセイタン卿も可愛いので見ていたいですが……」と独り言を言っているとセイタン卿は目を擦る。「おはようございます3号」「はいおはようございますセイタン卿」と、温め直した白湯にハーブで味付けし、朝食代わりにそれを飲む。本日は配達員達にとって特別な日、配達が一日ないのである。代わりに、休暇がわりに色々と催しがあり、ご馳走を食べられる以外は面倒臭い一日なのだ。

 当然咎人である配達員達に拒否はできないし、数少ない他の配達員達と関われる機会でもある。

 

「もうこんな時期ですか」

「もうこんな時期なんですよ。セイタン卿は日々をふわふわ生きてらっしゃるので時間の経過を感じられないかもしれませんがね。では行きましょうか?」

 

 そう言って3号が手を差し出すので、エスコートされるようにセイタン卿は3号の手を取って歩く。別にドレスを着るわけでもない。正装といえば配達員の制服しか持っていないので、これがある種囚人服兼礼服だ。普段立ち入りを許可されていないホールへと向かう。既にやってきている配達員達も多く、セイタン卿と3号は随分最後の方だった。

 

「ごきげんようセイタン卿」

「今日も可愛いですよセイタン卿」

 

 そう言ってウィンクする男の子の配達員スヴェンと彼の相棒11号。そんな二人にセイタン卿は頭を下げる。

 

「ごきげんよう。スヴェン卿に11号」

「ワタクシには挨拶なしですか?」

 

 でんとセイタン卿の前に立って3号がそう言うので、二人は3号の手を取りその甲に口づけ。

 

「3号、いつも君は美しいね」

「今晩3号、俺の所に来ないか?」

 

 セイタン卿はそんな情景をニヤニヤ見つめていた。普段、茶化してくる3号が完全に茶化されているのだ。もしかすると半分くらいは二人の本心も入り混じっているのかもしれないが、少し困惑している3号、そんな3号を楽しんでいるセイタン卿を見て「適当な所に座りますよ」と言って功労祭の始まりを待つ。

 遠くにトリエラと6号、その他の配達員達も皆集まってくる。

 

「1号と局長です」

「久しぶりに見ますね。まぁ連中も咎人である事には代わりないのですが、やはり私たちより普段良い食べ物食べているんでしょうかね?」

「食べてるんじゃないですか?」

 

 緑色の配達員のタイが1号と局長は赤色なので、明確に差別化されている。話にしか二人も聞いた事がないが、個室が割と広いという専らの噂だが、セイタン卿と3号がそれらを見る事は恐らく生涯ないだろう。

 そうこう言っていると功労祭が始まった。

 

「一同起立」

 

 全員が立ち上がる。

 

「冒険者挽歌三唱」

 

 面倒臭い、初めてこの功労祭に参加した時、セイタン卿も3号も「なんですこの歌、教わってませんよ……セイタン卿、口パクで誤魔化そうとしないでください」とか一悶着あったそれである。

 しかし、さすがに数回参加すると3号が歌詞をメモっているので歌えるようにもなる。

 

「さーらばー、祖国よ! 旅立つ旅団!」


 大きく口を開けて歌うセイタン卿に3号は笑いを隠せない。絶妙に音痴なのだ。

 それに気が付かず気持ちよく歌っている。

 

「大陸の彼方、アルケイディアに運命背負い、今、旅立つ! かーならーず、こーこにぃ! 帰ってくるとぉー! 手を振りながらぁ……」

 

 冒険者挽歌、配達唱歌、など何曲か歌わされ、少し隣にいるトリエラ卿は初めての参加らしく「何この時間?」と困惑している。誰もこの時間がなんの時間なのか正確に答える事ができる人なんていないだろう。

 

「続いて、ペアを交代してクジを引き、書いてある場所に置いてある荷物を取ってくる宝探し開始! 一同駆け足で準備!」

 

 そう真面目に言う局長。初参加の配達員に一ミリの配慮もないその指示、隣で姿勢正しく立っている1号に意味はあるのだろうかと皆思うが、ペアを交代するという事は殆どこんな事がない限りは起こり得ない。配達飛竜は皆トリエラの所にペアになろうと向かい。逆に配達員は皆3号の元に集まってくる。要するに見てくれが良い者が顕著に人気が出るのだ。

 

「やはり3号大人気ですね。相棒として鼻が高いです」

 

 そんなセイタン卿の元にやってきたのはセイタン卿も面識のある配達飛竜、19号。相方はニッキーという少女。

 

「セイタン卿、是非! ペアになってください!」

 

 3号と同様片方のツノが折られている彼女、そばかすが可愛いお姉さんタイプである。殆ど会う事はないが、妙に気に入られているのでセイタン卿も「是非、エスコートお願い致します」とペア成立、そんな二人を見て3号は頬を膨らませてみるからに不機嫌になっていく。結局、一番人気の3号は一番人気のトリエラとペアを組む形で事なきを得た。

 セイタン卿は普段の準備は殆ど3号が手伝ってくれるが、3号がとてもやきもち焼きであるという事を知っている。時折目が合うのはペアとしての責任感なのか、数多い3号の可愛らしいところの一つであるとセイタン卿は思う。

 箱から紙を一枚引いて、向かう場所が書かれている。そこに宝物があるらしい。去年は全然焦げ付かない鍋と人によっては本当に宝物をゲットしたセイタン卿だったが、それを使う局面はまずい麦煮を作る時程度でしかなく結果として宝の持ち腐れだった。そんな意味も咎人としての刑の一つなんだろうかと思っていると、「セイタン卿、何が手に入るか楽しみですね?」と19号がそう言うのでセイタン卿は「そうですね。できれば美味しい物だと嬉しいのですが……」だなんて答えてみると「去年、私はこれでした」そう言って見せてくれた物は指輪だった。綺麗な宝石がハマっている。罪人に渡すにはどうかという本物ではないだろうと思っていたセイタン卿だったが、それを外して見せてくれた。

 

「これ、おそらく誰かの結婚指輪です」

「確かに、イニシャルが掘られていますね……という事はこれら宝物というのは……」

「きっと冒険者の方々の宝物だったんでしょうね。私達の宝物ではありません」

 

 なるほど、そういう事かとセイタン卿は理解する。終生便りはどこから来ているのかは今だに知らないが、これら生前の宝物はきっと依代のような物なのだろう。あるいは代償か、死んだ後に代償を払う為に宝物を使っているのだろう。そしてそれを一番想いを受ける配達員達の手元に送られる。

 

「ヨーテルの海方面です。19号、行きましょうか」

「はい、セイタン卿!」

 

 

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