第13話 元勇者から現勇者に宛てられた最後の手紙④
開口一番は3号だった。
「えっ? どういう事、どうして終生便りに書いてあるダンジョンに勇者様達は来てるの? ワタクシ意味が分からないんですけど」
その3号の反応と同じくセイタン卿も自分で読んでいて正直ゲシュタルト崩壊を起こした気分だった。魔法使いのメルトもまた二人と同じような表情を見せるので、勇者アーサーは少しだけ含んだ笑みを見せて話し出した。
「ダランの身体の事は俺も知っていた。確実に死ぬし、確実に良くない魔物に変わるって、ダランは死ぬ時はこのアウグス大迷宮の最深部で死ぬってよく言ってた。御伽話にあるダンジョンの最後の宝を守る魔物。ボスモンスターになって迷い込んだ冒険者に討ち取られるわ!ってね。まぁ冗談だと思うけど、普通の人が近づけない場所に自分を置き去りにしたかったんだろうね。だから、古代の兵器を倒す為に今俺がここに来る事もダランはお見通しだったんじゃない? 正直、手の上で踊らされているようでいい気はしないけどね」
勇者アーサーは「じゃあ一度外に行こうか?」と言ってセイタン卿の手を引いて歩く。「勇者様、続きは?」とまだ終生便りは読み終わっていない為そう聞いてみるが、勇者アーサーは「続きはダランの最後の願いを叶えてから」と話す。メルトに3号も仕方がなく勇者アーサーについていく。この広大なダンジョンの最深部なんて一体時間がどれだけかかるのかわかった物じゃない。
「あの勇者アーサー、このダンジョンの最深部ってどこか知っているんですか?」
「いや、知らないよ。その為にここに大勢の冒険者を呼んでるからね。最深部の古代兵器を見つけた者に金貨で200枚、報告を貰えば後は俺達が行って討伐というのがここでの依頼、冒険者は自ら危険な仕事を選んでいる為、できる事ならその中でも安全を優先する傾向にあるからまず、ダランを見つけても闘うような事はしないと思うよ」
そういう物なんだろうかと冒険者ではないセイタン卿と3号はあまり実感は湧かない。いつも終生便りを配る送り元である冒険者はいつも危険な場所であっけなく命を落としているのだ。そんな顔をしている二人に気付いたのか、勇者アーサーは「じゃあ賭けようか? きっと戻れば何チームかが最深部に到達したって言って来る。そして君達配達屋の仕事もいくらか増えていると思う」。と言うので、このダンジョンで幾人かの冒険者が命を落としたという事なんだろう。そんな話を平然と言ってしまう事に3号は少し閉口する。
しばらく歩いて、外の光が見える。ダンジョンから出るとなんだか空気が美味しい気がした。あの場所はあまり長居には向かない。冒険者の中には肺をやられて亡くなる者も大勢いるので、魔物に襲われたり事故以外でも冒険者の命は短命なのだろう。
「勇者様、ここの最深部、見つけてきましたよ!」
「そうそう、道中かなり危険な魔物もいやしたが、いくつかのパーティーで連合組んで攻略しました」
「古代兵器と思わしき魔物、見た事ない姿に豪華な剣を持ったアンデットがいました。恐らくはあれが」
外に出るなり冒険者達が待っていた。そして勇者アーサーの言った通り、攻略は進んでいて、そして今回の負傷者、そして死者の報告もなされた。勇者アーサーは亡くなった人、死体を運べた人、運べなかった人も含めて、片足をついて祈りを捧げた。「最深部へは?」「ポータルを用意しました」「分かった。俺とメルトとそこの配達人の二人、四人で向かう。各冒険者には支払いの証書を用意しているのでそれを持ってギルドで報酬を受けてくれ」と勇者パーティーの他のメンバーがその証書を配っていく、実に長い行列ができているので配り終えるのにどれだけ時間かかるんだろうとセイタン卿と3号は眺めていたら、「じゃあ俺たちは再びダンジョンに戻ろうか?」とポータルなる転移魔法の上に乗る。こんな経験も初めてのセイタン卿に3号はちょっとだけこの状況を楽しんでいた。
「ここ最深部なんでしょうか?」
「あぁ、だろうね。メルト、いつでも魔法を使えるようにしてくれるかい?」
「分かったわアーサー」
セイタン卿から手を離し勇者は顔つきが変わる。先ほどまでこのダンジョの魔物なんて歯牙にもかけないようにあしらっていたのに、今回は違う。アーサーが一歩踏み出すとそこには歪な体を持った何かが、剣を握っていて、その周りで倒れているのはここに踏み込んでしまった冒険者達だろう。アーサーに何かが気づくと、倒れていた冒険者達もゆっくりとアンデットとして立ち上がった。「ダラン、随分遅れてしまったけど、元勇者のダランから現勇者の俺が、免許皆伝を貰いにきたよ。メルト、炎の魔法だ」そう言ってメルトが魔法詠唱、それが放たれると同時に勇者アーサーは自らも走りその魔法に剣を乗せた。
魔法剣は化け物と化したダランの周りのアンデット達を焼きつくし、勇者アーサー狙うダランの剣を避けると勇者アーサーは「ダラン、今までお疲れ。またいつか一緒に冒険しようぜ」と言って一刀両断。ダランの身体の一片までも残さずに焼き尽くし、最後はその場にいた全員に勇者アーサーは祈りを捧げた。その様子を見てメルトも、セイタン卿も3号もそれを真似る。
「さぁ、続きを読んで貰えるかい? セイタンちゃん」
「畏まりました。......もう殆ど何も考えられなくなってきているが……」
勇者アーサーに宛てられたダランからの最期の言葉は……
「俺を勇者として最後の仕事をさせて死なせてくれるであろうお前に、感謝する」
それは勇者を育てたダランなのか、勇者に勇者たらしめる為、古代兵器となったダランを討伐させた事なのか、それは勇者アーサーと元勇者ダランにしか分からないのだろう。読み終えるとセイタン卿は封筒にダランの手紙を入れてそれを勇者アーサーに手渡した。
「これにて冒険者ダランさんから勇者様に宛てられた手紙を配り終えます」
「うん、ありがとう。それにしてもセイタンちゃん。全然変わらないよね?」
「はい? 私はどこかで勇者様と会った事がありますか?」
「いや、直接じゃないけど、俺がもっと若い頃。ダランのパーティーに参加していた時にその近くの街にあるギルドマスターに君達が届けにきた事を見たんだよね。その時もかわゆいなと思っていたけど、あの時と全く同じだから」
セイタン卿は一体なんの話だ? という顔を3号に見せると3号は少し怪訝な表情をして「勇者アーサー、多分人違いじゃないかな?」「そうかな? 3号ちゃんも確かにいた気がするんだけどな。俺の勘違いかなぁ」と、話に入れないメルトが「アーサーってそういうちょっと抜けてるところあるわよね!」と言ってその話は笑いとして流れた。されど3号だけが、真顔でぎこちなく笑う。再びポータルで外に出ると、セイタン卿と3号に石を投げてきた冒険者達が謝罪、保存食とワインを慰謝料にくれたのでセイタン卿はそれを受け取り許す。宴会の参加にも呼ばれたが、帰れなくなりそうなのでそこで二人は勇者アーサー達に別れを告げ、広い場所で3号は手を広げ、セイタン卿は3号の背に乗り浮かび上がる。
「いやぁ、なんか疲れましたね3号」
「そうですね」
「あれ? なんか勇者様に私がモテてた事とか茶化さないんですか? 珍しい」
「まぁ、そういう気分でもないので」
「疲れましたしね」
と言って3号の背中を撫でるセイタン卿、3号は詩を読む。
「世界よ生まれ生きる事は罪か? ならば誰が望み生んでくれと言った?」
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