第11話 元勇者から現勇者に宛てられた最後の手紙②

「痛ててて」

「すぐに回復の魔法をかけますから少し我慢してね」

 

 あの騒動は勇者パーティーが騒ぎを聞きつけてきた事で事無きをえた。そして今、勇者パーティーがテントを張っているキャンプにて石をぶつけられていた3号は回復魔法で治療を受ける最中である。

 

「君達、こんな所に終生便りを配りに来るなんて自殺行為と同じだよ?」

 

 歳も変わらないであろう回復士の少女に若干上から言われるも「まぁ、それがワタクシ達の仕事ですから」「そっか、大変だね?」と返されるのでセイタン卿は笑顔で何も言わない。あっ、3号この子苦手だろうなくらいで考えていた。

 

「私は終生便りの配達人、セイタンです。そして今、お世話になっているのが配達飛竜3号です。勇者様に終生便りをお届けに参りました」

「えっ? アーサーに?」

 

 勇者はアーサーという名前らしい、そのアーサーは今、セイタン卿と3号に石を投げていた冒険者達を注意、そして諫めに行っている。回復士の少女、彼女はきっと目が飛び出る程高い装備を使っているのだろう。お洒落であり、勇者パーティーだろうが冒険者、これから冒険に行くというのに化粧もバッチリ決まっている。そんな彼女はメルトという名前らしい、「そうですよ。そのアーサーさんに終生便りを配達しにきたんです。渡したらずらかりますよ」と悪者にされた皮肉か、悪者みたいな口ぶりでそう言う3号。

 

「俺に終生便りだって? 一体誰から?」

 

 割と大きな声でメルトと3号は話していたんだろう。テントの前からそう声が聞こえると入ってくる好青年、勇者アーサー。まじまじとこれが勇者様かとセイタン卿は珍しそうに見ているとアーサーは笑う。

 

「終生便りの配達人、こんな愛らしい女の子達だったとはね」

「恐縮です。私はセイタン、そっちで治療を受けさせて頂いているのが3号です。ダランさんという冒険者の方から、勇者様、貴方に宛てられた終生便りが届いています」

 

 そう言って質の良さそうな黒い封筒をアーサーに手渡す。それを受け取ったアーサーに「もし、差し支えなければ私がダランさんの最期の言葉をお読みさせて頂きますが?」「うん、そうして貰おうかな」と言ってアーサーはセイタンに手紙を返す。封を鉄製のナイフで破ろうとした時、「ちょっと待った」。一体なんだろうと思ったが、思いもしない提案を勇者アーサーに持ちかけられる。

 

「ダランは生粋の冒険者だったから、ダンジョン内で読んでよ。それをダランへの手向けとするよ」


 そう言ってアーサーはセイタンの肩に手をやると、ウィンクして微笑む。甘いマスク、戦いの日々だろうに真っ白い歯が光る。この勇者アーサーはかなりのイケメンだ。そして同時にセイタン卿はこの手のタイプ、3号は苦手だろうなと再び思う。

 

「かしこまりました……しかし私達は冒険者ではないので、そんなに深いダンジョンに潜られると“あぼーん“してしまうので、入り口前とかで宜しいでしょうか?」

「あ、ボーン? ふふっ、セイタンちゃん。君は面白いね」

「あーはい、恐縮です」

 

 次はセイタンの腰に手をやり笑いかける。そんな様子にメルトは「アーサーはいつも可愛い子がいるとあぁなんだからぁ!」と焼き餅を焼き、3号は「あんのぉロリコン野郎!」と憎悪の炎を燃やす。「そちらの勇者様、あんな事言ってますが、割とワタクシ達の業務外のお話なので、注意して貰えませんかね? メルトさん」「アーサーは一度言い出すと、聞かないから、そんなところも可愛いんだけど!」とか惚気出すので、3号は舌打ちしてセイタン卿と勇者アーサーについていく。

 

「ところでダランさんという方はメルトさんもご存知で?」

「知らないわ。アーサーが勇者になる前の仲間じゃないかしら」

「そうなんですね。というかここどういう遺跡なんですか? なんとなくですが、嫌な感じがするんですが」

「ここはかつての魔王が封じた危険な兵器があると言われている場所よ」

「そんな所にワタクシとセイタン卿を……」

 

「大丈夫よ! アーサーは勇者だし、私だって、勇者パーティーの一員なんだから! そんな事より3号さんはドラゴノイドか何かかしら?」

「いえ、ドラゴンもどきのダイナソー・ウィングですよ。ドラゴンに擬態して身を守る非常に弱い生物です。今はこうして人間に擬態して今は罪人として刑を執行中です」

「自由になれるといいわね」

「良い意味で受け取っておきますよ」

 

 二人は別に仲良くなったからこうして会話をしている訳ではない。目の前で勇者アーサーがセイタン卿の手を引いて、高山植物についての知識をひけらかしたり、今までの冒険譚について話し、聞き上手のセイタン卿が相槌を打つので勇者アーサーも、とても気分良く話を続けていく。その度にセイタン卿にソフトタッチするので3号とメルトの怒りのボルテージが溜まっていく。

 

「3号さんの相方、仕事中なのにあれはいいの?」

「いやいや、そちらの勇者様、少し手癖が悪すぎでしょうに、あっ! 勇者様見もせずになんらかの魔物を倒しましたね」

 

 セイタン卿のエスコートに夢中に見えて、襲いくる魔物を一刀両断。流石にこれには3号もドン引きする。これが勇者の力なのだろうと、これだけの大人数で攻略するというのは建前で、攻略程度は勇者パーティーがいればなんとでもなるのだろう。ここに集められた冒険者はあるのかないのか分からない危険な兵器の探索要員でしかないと3号はすぐに察知した。

 

「メルトさん、かつては魔王やら異世界の魔物やらが存在していたらしいですけど、今や勇者様という存在は何をされる方なんですか?」

 

 流石にこればかりは本では学べない。冒険者の中でもまさに頂点の勇者パーティーがいるのであれば質問しない手はない。聞いてびっくりと落胆してしまう事実を聞く事になるのだが……

 

「今の勇者はかつて魔王や異世界の魔物が戦った時代の戦争処理、要するに後片付けが大半よ。たまにこうして大きな仕事もあるけれど、命懸けの戦い! なんてのはもう御伽話の中だけね。見るからにガッカリしてるけど、そんな感じ」

「ワタクシは世の中には聞かなければ良かったという事があるのを再確認できましたよ」

「それでも、勇者パーティーでも死ぬ事はあるわ。不意の事故だったり、色んな要因だけど、だから貴女達がいるんでしょ?」

「……違いないですね」

 

 魔物を退治しながらしばらく歩くと、広い鍾乳洞に出た。3号はただアーサーとセイタン卿のデートスポット周りをしているだけじゃないかと思ったが、アーサーはそこまで来るとこう言った。

 

「セイタンちゃん、じゃあここで元勇者ダランの話を聞かせてくれる?」

 

 そう、この終生便りは元勇者から現勇者へ送られた最後の手紙だった。

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