1月第5週/2月第1週 郷に入っては郷に従え

『カオール シャトー ピネレ

 2019

 ビュルク エ フィーユ』


 フランス南西部に位置するカオール、中世の雰囲気が残る街並みである。

 非常にユニークなワイン産地としても有名で、マルベックという赤ワイン用品種を主体として「黒ワイン」と呼ばれる程色濃く長熟タイプのワインが造られる。


 今回のワインは、1456年に所有者として羊皮紙にラテン語で記されたビュルク家の物だ。

 カオールの特異性をすべて備えていると紹介されているこの1本を開けてみよう。


 グラスに注ぐとよく分かる、真っ黒な色、香りには黒系の果実があり、新樽のけばけばしさが無いところが好印象だ。

 味わいは見かけによらず、渋みはきつくなく滑らかなタンニン、味わい深い果実味が心地良い。

 

 十分な飲みごたえがありながら疲れさせない、若さと僅かに熟成の雰囲気が混在した実に良いワインだ。


『オークのトマト煮』


 以前お隣さんから頂いたオーク肉、じゃなかったイノシシ肉がまだ冷凍されているので使ってみよう。

 前回と同じ味付けではつまらないので、とりあえず洋風っぽくなるのでトマト煮にしてみよう。


 レシピを調べていたら、千葉県庁が公開しているレシピが面白そうなので採用してみた。


https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/norin/torikumi/bosogibier/recipe/inoshishi-tomatoni.html


 レシピ通り、オーク肉も具材全てをぶった斬り、炒める。

 この段階でオークの獣臭さはあったが、気にせずトマト缶を開けてひたすら煮込む。

 レシピだと15分程度とあったが、水分を多めにして念のため1時間程煮込んでみた。


 実食


 ゴロっとしたオーク肉、僅かにホロッとし始めているこの時が、噛みしめる食べごたえによって命を頂いているという実感、それが旨さを増幅させてくれる。

 トマトの酸味と甘味、イタリアンに欠かせないセロリの爽やかさがまた食欲を増進させてくれるのだ。

 もちろん、根菜類の旨味も溶け込んで贅沢な逸品となっている。


 さて、合わせるとワインがまたさらにたまらなく愛おしい。

 ワインの持つ夜の闇のような漆黒が、仕留められたオークに捧げる鎮魂歌のようにお互いの味わいがよく馴染む。


 闇というものは悪、死というものは絶望、そんなイメージが付きまとう。

 しかし、命を頂くことは血となり肉となり、また次の生命へと生まれ変わるというサイクルの過程に過ぎない。


 これが生命を頂くという食の基本、美味さの追求は楽しいと同時に尊いのだ。


☆☆☆


 前週は金融危機(笑)が発覚したところで、今後の予定を無駄に熱く語った。

 今週はその通りに有言実行して動き始めた。


 いつもお世話になっている地元ワイナリーへ剪定の仕事へと出稼ぎし、サクサクとブドウの枝を切り続ける。

 先週にドカ雪が久々に降って多少は雪が足元にあったが、青天とまるで春のような陽気であっさりとほぼ消えて無くなった。

 作業は捗るが、今年も異常な1年の予感が漂う。


 それから、オフシーズンモードから切り替え、朝4時に起床し家事から事務仕事を行う。

 独りだと自分で食事の用意も片付けも洗濯までやらないといけないので、これが意外と積もると手間なのだ。

 

 ああ、ワインを造るヒモになりたい。

 流浪人だった頃が懐かしいでござる……


 さて、このようなところが冬の間の生活スタイルになるところだ。


 しかし、こうしてのんびり過ごすだけが冬の過ごし方ではない。

 作業自体が落ち着いたこの時期、やはりどこも同じように昨年を振り返り、今後の展望を考えていく。

 各既存ワイナリーや準備中のワイナリーでは、それぞれのやり方があるので内部で決めていくことの方が重要だろうと思う。


 それ以外でも、同じ市内のワイン関係者が一同に会して地域としてどのような方向性にしていくか、について話し合った。


 10年にも渡ってワインの郷プロジェクトなるものをやっておきながら、今更な話ではあったが、それぞれの考えを聞いてみるのも良いだろうと参加してみた。


 合わせて十以上の各代表者たち、始まる前は確実にまとまることは無いだろうと正直に思っていた。

 それもそうだろう?

 十年もの間、それぞれの独自路線を進んでいるのに今更、とは思った。

 これ以前にあった老舗ワイナリーは僅かに1社のみ、それ以外はブドウ生産者たち、それらのブドウの多くは県外へと流れていたということもある。


 そうして、開始直後はグダグダでどうなることかという始まり方だったが、会合が始まると意外や意外、話は盛り上がり活発に様々な意見出てきた。

 それぞれのスタイルは違うが、地域としての強みや特性についての認識がほぼ共通していたのだ。

 

 扇状地という地域の特性があるので、市内の東西南北で地区の違いはあれども、やはり良質なブドウが採れるという産地が最大の強みである。

 そのことから、地域として今後の展望も色々な意見も出たりしたが、そのような話は追々していくことになるだろうと思う。


 終われば、久々の飲み会、ワイン生産者が飲み食いをしながら好き勝手に話をするから美味しさの追求ができるようになるのだ。


 ついでに付け加えれば、住んでいる地区の総会もあった。

 田舎であり御老体ばかりなので、町内会のようなものも必要となってくる。

 都会のように、何でも行政や民間管理業者に丸投げにはならない。


 持ちつ持たれつ、面倒事は増えるがそれも郷に入っては郷に従え、なのだ。

 人間ってヤツは、独りで生きているわけでは無いである。

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