秋
9月第2週 骨が折れそうな時は骨休め
『ヴィオニエ レイト ハーベスト
2020
ビーニャ サンタ マリーナ』
スペイン南西部に1999年立ち上げられたワイナリーである。
代表者以外女性スタッフという、どこかハーレム物のラノベのようなユニークな生産者である。
「すべてのレンジのワインに対してエレガントさとシンプルさ」をモットーに、ワイン造りを行っているらしい。
では、今回のレイトハーベスト、遅摘みのぶどうで造られた甘みの凝縮された白ワインを試してみよう。
実に濃厚な黄金色、甘口のデザートワインらしさが見て取れる。
シロップ漬けにした桃のような風味が強く感じる。
ヴィオニエらしい華やかな香りが出てはいないが、甘ったるいくどさもない上品なハチミツのような味わいである。
『三種のブルーチーズ』
たまたま見つけたブルーチーズの三種セット、イタリアのゴルゴンゾーラ・ドルチェとピカンテ、デンマークのダナブルーを食してみよう。
ブルーチーズの代表格ゴルゴンゾーラ、呪われそうな名前だがこの癖のある味わいがクセになる。
その中に青カビの少ないクリーミーで甘みの感じるドルチェと青カビの多いピリッとした辛口のピカンテがある。
ダナブルーは、フランスの代表ブルーチーズ『ロックフォール』を模して作られた。
味わいはロックフォールほどのクセは強くはないが、青カビらしいシャープな辛味が堪能できる。
実食してみても大体そのような味わいであった。
プレーンクラッカーに乗せて食べるとより食が進むことだろう。
では、ワインと合わせる。
古くから甘口の貴腐ワインとブルーチーズの相性は抜群であると言われてきた。
ブルーチーズの持つ独特な風味と刺激的な塩っ気が、デザートワインの持つハチミツのような濃厚な甘みとよく溶け合うようにお互いと楽しませる。
このレイトハーベストでも十分にこのような雰囲気を堪能できた。
まさに食後のデザート、ゆっくりとした一日の終わりに向かうかのようだ。
これぞまさに骨休め、骨の折れるような作業をした後の至福の時間なのである。
☆☆☆
前回は収穫に向けて夢想を語ったわけであるが、今週は台風の影響のせいかどんよりとした天気が続いている。
安定しない天候の秋雨、ブドウ栽培にとって強敵となる雨季が来てしまったのだろうか?
このように湿度の高いどんよりとした雨模様、ブドウが水っぽくなる上に病原菌が勢力を拡大してくるのだ。
収穫までのカウントダウンも始まるが、厄介な敵から収穫まで逃げ切れるかどうかの勝負となる。
収穫間近の熟しかけているブドウに出る厄介な敵、
コイツに感染すると、ブドウの粒の表面にオレンジのツブツブが発生し、腐らせしおれていく恐怖の不治の病なのである。
感染したら最後、その部分は切り取るか房ごと切り捨てなければならない。
最悪の場合は、その畑は壊滅状態となる。
風評被害であるが、この時期のブドウ農家にとってBump of chickenの名前はレクイエムに感じてしまうほど神経を尖らせている。
ざっくりと糖度を計ってみると平均して19度といったところか。
場所によって21度、17度とばらつきはあり、食べてみて種を見るがまだ完熟前の青さがある。
これからの天気次第であるが、収穫まで多分1週間から2週間といったところだろう。
さて、こうなると開拓を進めるしかない。
後少しで今年の伐採する木は終わるところまで拓けて来た。
が、
油断、したわけではなかった。
木を切り倒す方向を失敗してしまったのだ!
倒す方向を失敗した木がさくらんぼハウスに倒れかかって引っかかってしまった。
不幸中の幸いなことに、そのさくらんぼ畑は廃業していたし、好きにしていいと言われていたので誰にも怒られることはなかった。
しかし、倒れかけてバランスの崩れた巨木、こんな凶器どころか危険な兵器を作り出してしまったのである。
下敷きになったら人間など潰れたトマトの様になってしまう代物だ。
どうしようと呆然と見上げる。
が、やるしかない!
決死の覚悟でのこぎりを片手にさくらんぼハウスの上に登る。
そう、時間をかけてでも少しずつ枝を切って木を小さくしていく作戦しかなかった。
不幸中の幸いパート2、ハウスに引っかかっている部分はメインの幹ではなかったのだ。
全身汗でずぶ濡れ、チェーンソーで切るよりも何倍も時間と体力を使って徐々に木を小さくし、少しずつ巨木はハウスの外に倒れ出してきた。
その時であった!
「ぐわあああああ!」
やらかした。
距離をおいていたはずだったが、ハウスの上で枝を切っていると見逃していた太い枝に右足が巻き込まれてしまったのだ。
絶対に足がへし折れたと思った。
不幸中の幸いパート3、とっさに身体を捻ってハウスと木に足が挟まれる前に逃げ出すことに成功できた。
そして、別の太い枝がすぐにハウスに引っかかって倒れるのが止まったので追撃されることはなかった。
しかしながら、ハウスの上で痛みに耐えながら大馬鹿者と自分を責めながら悲観する。
深呼吸を何度も繰り返し、やがて気持ちが落ち着いてきたところでハウスからゆっくりと降りていく。
地面に降り立った時の母なる大地の安心感はなかった。
手頃な長さに切った枝を杖にしてゆっくりと畑から出ていった。
意外にも歩けなくはない。
大事をとって、軽トラックの荷台で休み、裾をまくりあげて恐る恐る足の容態を見てみる。
足が腫れてはいるが変な方向に曲がっていない。
無理矢理足を回避させたので大きく擦りむけているが、それ以外に目立った外傷はない。
患部を触ってみると痛いが、骨に響く感じでない。
思ったほどのダメージは無いことに気分が落ち着き、冷静にすぐに行けそうな病院を探してみた。
入っている保険についても調べていると、いつの間にか痛みが引いてきたではないか。
とりあえず打ち身に効く湿布と擦り傷用の傷薬を買ってきて応急処置だ。
当然、この日は安静にして早くに寝ることにした。
夜中に眠れないほどの痛みが出たり、翌日になっても痛みが続くようなら病院へ行こうというところまで落ち着けた。
そうして翌日、歩くとまだ痛むが大丈夫そうだ。
ブドウ畑にとってはよくないが、不幸中の幸いパート4、雨となったので文字通り骨休めをすることができた。
負傷を少将、じゃなかった少々してしまった。
二階級特進するという最悪の事態にはならなかっただけでも良しとしよう。
開拓は一歩間違えば命に関わる戦場、痛い目に遭い、実感のこもった教訓を刻んだのだった。
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