8月第3週 チェーンソー野郎

『カラレンタ ロザート

 2021

 ファルネーゼ』


 イタリア貴族ファルネーゼ家のワインの歴史は、1582年にファルネーゼの王子と結婚したオーストリアの王女マルゲリータが、この土地でワイン造りに身をささげたことに遡る。

 その後数百年ワイン造りは途絶えるが、1990年に再興させ、今ではイタリアを代表する大生産者となった。


 今回のワインはメルローのロゼ、ちょっと変わったボトルに入ってはいるが、わりと格安な部類に入る。


 さて、開けてみよう。


 色合いは実に淡い色合い、本当に薄っすらとしたピンクが垣間見える。

 香りにはイチゴのようなフレッシュさ、味わいにもフルーティーで甘酸っぱさのあるスッキリとした後味だ。


 コスパに優れているが、気分を落ち着けて優雅にエレガントに飲みたいワインだと思う。


『焚き火BBQ』


 薪だけは腐る程あるので、バーベキューをやろうと思い立った。

 なぜ薪が腐るほどあるのかは、後半でわかると思う。


 しかし、薪をそのまま使うと煙ばかりが出てしまい、火力も安定しないので先にある程度木を焼いてからできるだけ炭化させようかと思う。


 庭先で畑から切り出した木を薪ストーブに入るほどの大きさにするために、チェーンソーで切り刻む。

 危険な作業が終われば缶ビール片手に、これらの薪を薪ストーブに投入、乾燥した杉の葉を着火剤にするために内部に散らし、いらない紙に火を付ければ焚き火の準備はオーケーだ。


 切り出したばかりの生木なので、杉の葉は勢いよく燃えるがそう簡単に火は広がってくれない。

 細い枝を入れながら徐々に木が燃えるのを待つ。


 やがて薪に火が付き、樹液などの水分が抜けていけば木にも本格的に着火していく。

 そうなれば煙も落ち着き、火も安定していくのだ。


 そして、バーベキュー用に切った輪切り玉ねぎ、ピーマン、しいたけ、ニンニクを並べる。

 火力の強い部分にステーキ肉を鎮座させ、炭酸の入った麦茶からワインへと切り替える。


 今回は試運転も兼ねていたので、簡単に焼肉のタレに付けて食べるだけだ。


 頃合いを見計らい、野菜からつまんでみる。


 気が早かったか、まだ半生だった。

 だが、これもまた独りでやるバーベキューでもある。

 肉はもうちょっと待って、グラスにもう1杯ワインを注ぐ。


 ロゼワインの良いところは料理を選ばない万能さにあると思う。

 気軽に飲み、食べたい物を食す。

 バーベキューはこういう雑さが良いのである。


 今度こそ野菜も焼け、ステーキ肉も良い具合になった。

 ステーキ肉もワイルドにフォークに突き刺してそのまま噛みちぎる。

 表面はよく焼けて香ばしいが、中はジューシーな旨みが溢れる。


 バーベキューを完食させれば、フライパンを持ってきてキャベツいっぱいの焼きそばで締めだ。

 満腹の余韻とともに、グラスを傾けながら夜空を眺める。


 庭先で思い立った時に適当にそこにあるもので遊べる。

 これもまた田舎暮らしの楽しみ方なのだと思う。


☆☆☆


 先週、新しい工事範囲が大体わかったところで、今週は本格的にやるべきことを始めた。

 とはいえ、週の前半は世間はお盆休み、僕もちょっとのんびりとした気分となっていた。


 雨の日はしっかりと休み、毎日朝から晩まで働くというほどのことはしなかった。

 まだ急ぐ必要もないし、ブドウ畑の方もやるべきことはすでに終わっているからだ。

 前もってやっておけば、後々楽ができるというものである。


 しかし、完全にサボってしまうと今度は次の作業が間に合わなくなるかもしれない。

 この先に台風や止まない雨が続く可能性が無いわけではないのだ。

 やれる時にやるべきことをやる、これが生存するために大事なことだと思う。


 さて、工事範囲が大体わかったので、次の作業である。

 苗木の植え付け範囲が影になる部分の木の伐採だ。

 この木というのが、背の高い杉なので、畑に何も無い今の状態でやらないと後からでは大変なことになるのだ。

 

 で、この杉の木が20本ほどあるので、このまま切って捨ててしまうのはもったいないと材木屋に買ってもらえないだろうかと見に来てもらった。

 しかしながら、取りに来る手間の方が高く付くということで、自分で切ることになった。

 とりあえず、切った木はできるだけ薪として使用しようかと思ったことで、今回のメニューになった次第であった。


 日本の山には手入れされていない杉の木が、それこそ無数にあるのが現状だろうと思う。

 手入れされていない杉は、材木としての使用価値がないのでチップ材にしかならず、花粉を撒き散らすだけだそうだ。

 管理されない材木林は荒れ果て、雑木林に飲み込まれて忘却の彼方にいくのだろう。


 結局のところ、農地もそうだが管理する人間が年々減っている上に高齢化が進んでいる。

 そのため、耕作放棄地が年々加速していっているのだろう。


 何でもそうだが、維持するよりも再興させる方が労力が何倍も必要となる。

 やってみてよく分かるが、通常の畑の管理よりも新しく畑を作り直す方がはるかに大変な作業なのだ。


 農業は食を作ること、それは人間が生きる上で最も重要な部分でもある。

 その産業が衰退すればどうなるのか?


 そんなことを思いながら今日も独りの野郎がチェーンソーを振り回す。

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