次の日

 ブッコローが盗まれてしまった。

 次の日のバルコニーにも、ブッコローが戻っていることはなかった。

 戻っていても逆に怖いものがあるが、ちょっと期待していた自分もいた。

 飛び石の祝日で、せっかくの休みだというのに、ブッコローがいなくなってしまったもやもやが鬱陶しい。

 ふつう盗むか、そんなもの。

 いや、僕にとっては”そんなもの”ではない。だからこそ気分が落ちているわけで。

 気温は20度前後。さわやかな天気だが、あまり遠くに遊びに出る気にもならない。

 だらだらと洗面所に移動し、電動歯ブラシと歯磨き粉を手に取る。チューブの中身が残り少ないことに気づいた。

 ダルいがせめて買い出しに行こうとアパートの外に出た。



 サンダルをつっかけてスーパーへ向かう。平日の出勤とは反対方向だ。

 空を見上げると、薄い雲がひとすじ。

 風もなくのどかな日和。

 閑静で穏やかな住宅街の休日である。

 様々な木や花々が植えられている戸建てがあり、洗濯物や布団がほされているマンションがあり。

 洗濯物…。

 ブッコローを洗おうなんて思うんじゃなかった。いや、洗ったのはいいんだが、外に干すんじゃなかった。

 だって誰も盗むなんて思わないじゃないか。

 僕はまた、ため息をついて顔を上げた。斜め前の家に、二階の屋根まで届く木が茂っている。確かこの木には、毎年季節が来ると実がなっていた。

 名前はわからないが、夏みかんみたいなあんな感じのオレンジ色の--------。

 ん?

 見覚えのあるオレンジ色が木のてっぺんに。

 ブッコロー!!

 ハンガーごといなくなったブッコローのぬいぐるみが、木の上に座っていた。

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