#0-2

「ん~!!美味しいです!!」


 こいつ、俺の金でグルメを楽しんでやがる。


 何が「3日間昼ごはん食べてないですし」だ。人の金でここまで食うか?普通。


「お前、これが目的だろ。」


「むぐ、むがもがむが」


「食い終わってから話せ。」


 忘れてた。こいつ、大食いだったんだ。

 (第2章:#9参照)


 普通に読者様が困惑するからやめてほしいんだが…


「目的はこれじゃないですよ。」


 じゃあなんなんだよ。


「ケンタロー、もうすぐ7時になります。」


「お、おう。」


「収穫祭は毎年、最終日の7時から8時まで花火を打ち上げるんです。」


「ほう。それを見に行きたいのか。」


「いえ、花火開始から30分間すべての屋台の食べ物が半額になるんです!!」


 結局グルメじゃねーか。


 というか金額事情はお前には関係ないだろ。


「つまり普通の値段で買うと量が2倍になるんですよ!!」


「おい、さすがにこれ以上は奢らねえぞ。俺の財布が空になっちまう。」


「銀行からおろせばいいじゃないですか。」


「流石にその発言は問題だな。俺の世界じゃ大炎上だ。」


「炎上?何が燃えるんですか?あなたのいた国では火あぶりにされるんですか!?」


「そうだよ。男女構わず問題発言をしたやつは世間から吊るされて燃やされるんだ。」


「怖い世界ですね。まあ、先ほどの発言はさすがに冗談ですよ。本当はケンタローと花火を見たいだけ………私いい場所知ってるんです!!ついてきてください!!」


 え、今なんて?


 花火が見たい…か。


 これもう脈アリで確定だろ。


 5分後


 花火が上がり始めた。


 ここで俺はリリルに気になっていたことを話そうと思う。


「リリ…」


「ケン…」


 声がかぶった。


 最高に気まずいシチュエーションの一つ。


 って何考えてるんだ!!特に意識することじゃないだろ。


 言え、言うんだ!!


「リリル、お前、魔法眼ステージ3いった?通常状態の魔法陣が増えてるぞ。」


 よし、言えた。


「えっ!!ほんとですか!!フフフ、私が魔王を倒すその日がついに目の前に!!」


 こいつ、所々中二病出るよな…


「「……」」


 …………


「いやなんか喋れよ。さっきから妙に静かで気まずいんだけど…」


「すいません、今、心を整理してるので…」


 あれ?いつもなら「あなたこそ何か喋ってくださいよ!!」とか言ってちょっと怒るのに…


 これは…まさか…


 こうしている間にも花火が空を明るく照らす。


 赤、青、緑、紫、黄…


 この世界の花火も結構きれいだ。


「け、ケンタロー、そ、その…」


「お、心の準備できたのか?」


 気付いてないふり、気付いてないふり…


「ケンタロー、そ、その…過去を振り返りましょうか。」


 なんでそうなるんだよ。


「私たちが出会った時、確かケンタロー、私の事をお嬢ちゃん呼ばわりしましたよね。」


「おん。覚えてる。」


「あの時は普通にイラッとしましたよ。正直、「私はこの男と仲間でいられるのだろうか」とか思っちゃいました。あの頃は顔に落書きをされたりもしましたからね。」


「今でもたまにしてるぞ?外出しない日とか…」


「…そうなんですか!?」


「マジで気付いてなかったのか!!」


「分かりました。その件に関してはあとでゆーっくりお話を聞きますからね。」


「はい、すいません。」


 あれ?なんでだろう。昔の話をするだけでこんなにも楽しいものなのか?


「きっと、その時の私達に今の私達が「魔王軍幹部5人倒した」なんて伝えたら、ひっくり返ってびっくりするでしょうね。」


「そうだろうな。あの頃はまだ魔王軍の「ま」の字も無かったからな。」


「いろいろ変わり始めたのは…5か月前、魔王の大軍を追い払った時からでしょうか…」


 俺達は語り合った。


 過去についてひたすら語った。


 なんだか楽しい。


 こいつと話しているだけで心が癒されるし楽しくもなる。


 生まれて初めての感覚。


「そういえば、ルルの親父さんの兵士団と戦った時…」


「ケンタロー、私、あの時あなたが助けに来てくれたとき、嬉しかったんです。ありがとうございました。」


「いやまあ、本来は俺も最初からいるはずの戦いだったし…」


「私、あの時初めて人に恋をしたんです。」


「え?」


 そうだ、昔話で盛り上がってたから忘れてた。


 待って、まだ心の準備が…


「ケンタロー、私は、あなたの事が好きです。なので…」


 異世界の夜空に花火が咲き乱れ、その音は確かに俺の耳に入っていたはず


 だが、俺の記憶にその瞬間の花火の音は存在していない。


 なぜなら………

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