#12

「あら、帰ってきたのね。」


「よそ見をするなああ!!」


「ごめんね~、次はあの子たちと遊ばないと~!!…エターナルスリープ」


 俺達が到着した瞬間、ケンザキは眠らされた。


「今かけた技は私が死なない限り解除されない。」


「ショット!!」


「あ、言い忘れたけど、四魔族はみんな魔力を使って自己再生が可能なの。だから私を…」


「ショット!!」


「だから言ってるで…」


「〈ホーリーフレイム・アンリベア〉!!」


 ボブの聖火魔法は火炎魔法と同様に応用が利く。


 だからそれで再生のスピードを遅らせる。


「ナイスだ、ボブ!!」


「ほう、やるじゃない。」


「聖剣十束の剣:大蛇の舞!!」


「こっちはいうほどダメージじゃなさそうね。」


「何を!!閃斬り!!」


 先ほどからルルの攻撃は当っていない。


 その時、ボブが悪魔の背後を取り


「〈ホーリーフレイム・ブロー〉!!」


「焔斬!!」


__ザクッ


 ルルが前から斬撃を入れることで見事に命中した。


「うっ!!やるわね…さすが聖剣、傷が治らないわ。」


「これで終わりだ。ショット!!」


 俺がとどめを刺そうとしたその刹那、悪魔の口元がニヤリと歪む。


「さあ?どうかしらね?」


 悪魔は唐突に詠唱を始める。


 そしてその詠唱の正体は…


「降雹魔法〈ヘイル〉」


 まずい!!


 雹を降らす魔法だ。


 普通の冒険者がやるとただ雪玉を降らせるだけの魔法に過ぎない、だが魔力値が高い者がやると…


__ズダダダダダダ!!


 人を殺すには十分な魔法になる。


 やっぱり俺、また死ぬんだ。


 せっかくベガに武器作ってもらったのに、暗黒魔法の空間にしまっていたから俺が死んだら消えちゃうな…


 ボブとルルならまだ耐えるだろう。だが、防御力が無い俺とベルは…


「疑似…」


 死ぬ瞬間はいつだって時間が遅く進む。


「結界…」


 その間、今までの記憶が毎回流れるんだ。


「魔法…」


 俺1人が死んでもベルが蘇生してくれる。


 でも今回はベルも…


「〈フレイム・フィールド〉!!まだ生きることを諦めるな!!ケンタロー!!」


 落ちてくる雹は全てボブの炎でできた疑似結界が蒸発させた。


 俺の世界はこいつのおかげで明るくなったのかもしれない。


「まだ諦めないぞ!!相棒!!」


 忘れていた。


 俺は全ての魔法を使える。


 あいつに爪痕を残す!!


「ショット!!〈ピュアフィケーション〉!!」


「私はあなたの攻撃では…治らない…それどころか少しめまいが…」


 弾丸に浄化魔法の魔力を流した。


 魔族は浄化魔法が弱点、なら魔力の少ない俺でも!!


「フフッ、そろそろ本気を出そうかしら。〈ダーク〉」


「「「「タス…………ケテ………」」」」


 悪魔の出した暗黒魔法の空間から眠らされた人たちが出てくる。


 その人たちはとても楽しい夢を見ているようには見えなかった。


「さすがのあなた達でも人間は殴れないでしょ?」


 この瞬間、俺は操られている人全員が男だということに気が付いてしまった。


「なら、躊躇せず行ける!!」


 俺も暗黒魔法の空間を出し、ショットガンを機関銃に交換した。


「これで夢から覚めろ!!」


__ズダダダダダダ!!


「え⁉ちょっと、人だよ!?何で撃てるのよ!?」


「ゴム弾だからセーフ!!オラオラオラオラオラオラオラ!!オゥルrrrア!!」


「ゴム弾って何!?」


 やっぱり眠っているところを操られているだけで生きているから普通に痛覚は感じるようだ。


 ゴム弾に当たった時にちゃんと触角が反応してビクッてなる。


 分かりやすく言うと寝ピクだ。


「ボブ、この人たちを拘束しておいてくれ。」


「まかせろ!!」


 とは言ったもののここからどうしようか…


 相手は悪魔…とはいえ見てくれはボンキュッボンの悪魔的な美貌を持つだけの美女、できるだけ銃で蜂の巣はやりたくないし、どっちが悪魔か分からなくなるしで良いことがない。やめておこう。


 そういえばタクミから教えてもらったスキルの俊足って足だけじゃなく腕にも目にも銃弾にも使えた。


 とすると血液にも使えるのではないか?


 心臓に俊足を使うことで血液に酸素をより多く含ませ体中を巡らせることで、筋力を一気に上げる。


「<俊足:心臓>」


__ドックン…ドックン…ドッドッドッド…ドドドドドドドドド!!


 力がどこからともなく湧いてくる!!


「キャア!!ちょっと、何をしているのかしら?」


「<俊足>」


 俺は悪魔を担ぎ、走り出す。


 担いでいると胸のソレの揺れがしっかり見える。そして俺の顔に当たる。あと服がはだけて赤ッ


「悪魔さん、ありがとうございます!!最後にお名前だけ教えてください。」


「えっえっ、なんなの?」


「名前だけでも!!」


「わ、私は四魔族の眠りと覚醒、淫魔ガルララ…」


「あーもう!!あんたともっと違う出会い方だったらな!!」


「…………ッッッッ!!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 私は本当の意味で恋をしたことがない。


 私のような淫魔であれば当然だ。


 今まで数知れぬ程の男の下の世話をしてきた。


 最初は冒険者。


 2人目は騎士。


 3人目は私を捕まえた魔王軍のゴブリン。


 4人目は…


 5人目は…


 n人目は…


 魔王ともシた。


 ベルゼルともシた。


 でもどちらも何人目だったかは覚えていない。


 これだけ経験人数が多いのに恋をしたことは一度もなかった。


 でも、私は今初めて恋をした。


 心臓が締め付けるように痛い。


 この人は初めて私に思いを伝えてくれた。


「あーもう!!あんたともっと違う出会い方だったらな!!」


 この言葉は死んでからも忘れることはないだろう。


 その人は私を地面において手を取り、そっと落ち着かせるかのように、心臓の鼓動を調べるかのように左胸に左手を強く押し当ててたった一言こう言った。


「ごめん、今は敵同士だ。さよなら。」


 その人の目には涙が浮かんでいた。


 突如、大きな音がなった後、私の真上に魔法陣が出現した。


 そして数秒して真っ赤な岩が落ちてきた。


 私は生まれて初めて死を感じた。


 最後にこんな感情を味わわせてくれてありがとう。


 タナカ・ケンタロー、あなたは魔王様を倒して幸せになってください。


 この世界に悔いはない。


『さよなら』


生き物をたくさん殺めてきた私にはもったいない最後だった。


「ありがとう。ケンタロー。」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ガルララを地面に置くと彼女は安らかな表情になった。


 きっと死を前に悔いはないのだろう。


 童貞の俺は女の人の手とアレの触感をもう二度と味わえないかもという感情がこみあげて涙が出てしまった。


 我ながら最低だ。


 ごめんなさい。


 来世では幸せにまっとうに生きてくれ。


 俺は俊足を使って即座に逃げる。


 ベルは俺が逃げ出したと同時、爆音を鳴らす。


 するとリリルが詠唱を始め、魔法陣が出現。


 俺達は急いでリリルの元まで走り、巻き込みを逃れた。


「〈メテオライト〉!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る