#2

2時間後…


「ボブ、今回の運転は確かに酔わなかった。リリル以外は。」


「それならよかった。」


「だけどな…」


「?」


「正直、命の危険を感じたぞ!!」


「それはすまなかった。申し訳ない。」


「ホントだよ!次から気を付けるんだ!」


「おう。」


「ケンタローさん、そこまで怒らなくても良いんじゃない?」


「怒るよ!だって、あそこで死んだら俺は魔王を倒してチヤh…歴史に名を刻めなくなるだろ!?」


「いま「チヤホヤされなくなる」って言おうとしたわね?このクズ男!」


「あ!?ふざけんなよ!誰がクズ男だ!このアル中クソビ■■!」


「う、うぅ、そこまで言わなくていいじゃない!!」


 さすがに言い過ぎたな。ベルが泣いてしまった。


「言い過ぎだ、ケンタロー。お前もそう思うだろ?十束の剣。アァ!マッタク、ソノトオリダ!!」


 こいつは真面目なのかふざけてんのか分からねえな。


「とにかく、昨日と今日で10日分進んだ。ここからはみんなで歩こう!危なすぎる!」


「分かった。」


「分かったわよ!」


「承知した。ミギニオナジ」


「問題はリリルがどう言うかだよな…」


翌日


「おはようございまっ!?」


「さあ、決めろリリル!!歩いて行くか、それともこのリアカーに乗って行くか!!」


「ど、どうしたのですか?みんな、目が充血してますけど…」


「決めてリリル。あなたに私たちの運命がかかっているのよ?」


「頼む、決めてくれリリル。お前の選択だ。私たちは今、お前の選択で歩くかリアカーで走るかが決まる!!」


「そんな重い決断…私にはとても!!」


「大丈夫、お前がどんな選択をしても、俺達はいつも一緒だ。」


「ケンタロー…」


「さあ、決めてくれ。俺は反論しないぞ。」


「ボブ…」


「私がついてるわ。リリル。」


「ベル…」


「私と十束の剣も忘れるなよ?」


「ルル…」


「さあ、リリル。決めるんだ。」


「ごめんなさい、皆さん…」


「まさか、またリアカーにn…」


「意外な選択かもしれませんが、私は歩きますよ!」


 どこもかしこも“意外”じゃねえ。


 そして俺達は目的地まで歩いていくことにした。


5日後


「結局、借りたリアカーはお荷物になっちまったな。ボブ。」


「でも、メルテ村でいろいろ貰えるかもしれないぞ!それに、これもいい筋トレだ!」


 いろいろ貰える保証はどこにもない。


 しかもこの脳筋は筋肉の事しか考えていないのかどこ行っても筋トレ筋トレって…


 初めて会ったときはもっと賢そうだったんだけどな~、馴染むとこうなるのか。


 その時だった。


「みんな!なんかあっちから物凄く大きなジャイアントアースワームが!」


 ルルが叫んだ。


 アースワームってことはミミズか!?


 この世界のミミズは地を這って生きてるのか!?


「よし、みんな下がってなさい!このベル様の音響魔法と、この前覚えさせたばかりのフルートステッキの浄化魔法以外の魔法の力を!」


 なんか、今日は珍しくベルが頼もしく見える。


「私も行こう!今度こそ誰にも邪魔されず、この斬撃魔法を決める!」


 そうだ、今思い出した。


 このルルという女の幸運値は最低レベルだった。


 故にこいつの飛ばす斬撃魔法は運が悪すぎて途中で消えたり大きく外したりとにかくあてにできないんだ。


 っとか考えているうちにベルが攻撃を発動する!


「私の音響魔法発動!みんな耳を塞いで!〈サウンド〉!」


 彼女はそう言って自分の手を叩き、音響魔法で音量を調整し、ワームに飛ばす。


 しかし、もちろん周りの仲間の耳もことごとく粉砕していく威力だ。


 ベルから貰った耳栓で耳を塞がないと恐らく俺たちの耳は一瞬で聞こえなくなる。


 まあ、耳栓をしていたとしても…


「耳が、耳鳴りが止まりません…」


 リリルが耳鳴りを訴えた。


 そうだ、ベルの頭には周りの事を考える能力なんてない。あいつは自分の魔法で仲間を傷つけないように自分から仲間から離れて戦うという頭はないのだろうか?


「あれ?おっかしいわね~、私の音響魔法を食らってもあのミミズ、びくともしないわ!」


 そりゃあミミズだもん。あいつらには耳無いんだぞ?振動は感じれるけど。やっぱりあいつは頭が…


「よし、今度は私の番だ!行くぞ十束の剣!斬撃魔法!紅月(べにつき)!!」


 あ、もうダメだ。


 斬撃魔法は何かに当たらないと飛んだ斬撃は止まらない。


 しかし、逆に言えば何かに当たってしまうと斬撃は消えてしまうのだ。


「あ!あの鳥の糞が斬撃に当たって斬撃が消えた!!」


 ほら、いつも通り。


「もう一回!」


「おーい、もっと近づいて放ったほうがいいんじゃねーの?」


「知るか!聖剣!十束の剣!奥義!」


「ここで奥義使うなよ!お前の魔力消えるぞ!」


「奥義!八岐大蛇!」


・・・


 斬撃はもちろん、奥義だから普通の斬撃魔法とは違い、聖剣の力も込めて放った一撃だったから鳥の糞程度では消えなかったが、今度は大きな岩を切って斬撃は消えた。


「あとは、頼んだ!ガクッ」


「“頼んだ!ガクッ”じゃねーよ!お前一撃も入れずに倒れてどうすんだよ!」


「また私の出番のようね!」


「お~早まるな!」


「フルートステッキに教えた新魔法!濃霧魔法!〈ミスト!〉」


 その瞬間、ミミズの体を囲むように巨大な魔方陣が出現し、濃い霧が発生した。


「おい、まさかお前の新魔法ってこれだけじゃないよな?」


「何言ってるの?こういう楽器型のステッキは一度作曲した曲に魔法を覚えさせる仕組みだから、1つ魔法を覚えさせるのにもすごい時間がかかるのよ!!そんな簡単に2個とか3個とか入れられないの!」


「お前は馬鹿か!!ミミズは水分に当てられると元気になっちまうんだよ!」


「安心しなさい!あの霧の中に入ったら最後!四方八方どこがどこだか分からなくなって出られなくなるのよ!」


「ミミズの目は光しか検知できないからな?」


「・・・あれ?そーだったかしらー?あは、あはははは!」


 もうだめだこいつら。


「しょうがない!この私が隕石魔法で!」


「この距離だと俺たちも巻き込まれるぞ!」


「大丈夫です!多分!遠い天空に浮かびし迷える星よ、このリリルが強大な魔力を持ってここに招喚する。落ちろ!〈メテオライト〉!!」


 あー、終わりだ。


 上空の魔方陣から小さな石が落ちてきて、やがてミミズに到達し、ものすごい爆風と衝撃波を発してミミズの体を木っ端微塵にしてあたり一面にまき散らした。


 おかげでミミズは倒せたが俺たちも爆風にさらされ、危うく死ぬところだった。


 奇跡的に全員無傷だったが、命の危険を感じた。

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