第4話

 ――パクリ


 ブッコローはパラパラと捲られている本の1ページを嘴で掴み、引き抜く。


 ――フッ


 それに軽く息を吹いて、目の前に浮かべた。


「えーっと、炎式、連弾……え? ちょ、まじでコレ言うの?」


「はやくっ!?」


 ブックオウルが迫ってくる様を見て、オカザキが悲鳴にも似た声を上げる。


「あーもう! 炎式連弾、ロケットペンシル!」


 目の前に浮かんでいた引き抜かれたページは、光を放ちながら長い棒状に形を変えていく。

 それは先端から少しずつ切り離され、炎の塊となってブックオウルへと放たれていった。


 計8発程放たれたそれは半分以上が命中し、ブックオウルはドサリと地面へと落ちる。


「ブッコロー! 紙が燃えちゃったら換金できないです」


「やっべ」


 ブッコローは再び嘴で1ページ引き抜き、先程と同様にページを目の前に浮かべる。


「あー、水式、塊弾……はぁ? いや、まぁ消すんだけどさぁ……」


「ブッコロー!?」


「はいはいっ。水式塊弾、まっとめろくん!」


 ページは水の塊に姿を変え、燃えているブックオウルの火をゴシゴシと消した。。

 ブックオウルはピクリとも動かなくなると、ガラスペンへと黒い影を飛ばし、翼の紙を数枚残して消える。


「あっぶねー。稼ぎが減っちゃうとこだったわー」


「ブッコロー、ガラスペンを返してください。もう一匹も早く倒さないと」


「へーい」


 喫緊の脅威が過ぎ去り、のんびりとした口調、足取りでブッコローは移動する。

 先程の油断などすっかり忘れているようだ。


 が、今度は何事もなくオカザキの元へ辿り着き、オカザキはガラスペンを使ってもう一匹のブックオウルを倒すことに成功した。




「いやーちょっと焦ったけど、ワタシ結構すごくない?」


「さっきのアレ。なんだったんですか?」


「ヒョヒョヒョヒョ。この世界の魔法でーす」


「……手品ですか?」


「魔法だって言ってんでしょーがっ!」


「なんでブッコローが突然そんなことができるんです?」


「ザキさん、知らないんすかぁ? ワタシの本はリアル・ブック。

 真の本、真の知を意味してるんすよ? つまり、知の象徴たるミミズクみたいなもんです」


「……」


「……いや、実はワタシもよくわかんないんですけど、この本がこの世界の色んな知識を教えてくれたんすよ」


「その中に魔法もあってことですか?」


「そうそう。なんとなく、魔法の使い方がわかったつー感じ」


「へ~。すごいですね」


「他にも、色々わかったかもしれないっすね。例えば、この世界でブンボーガーが急に人を襲うようになった原因とか。それを解決すれば、たぶん元の世界に帰れると思う」




 ズテテズッデ♪(場面転換)




「ガラスペンのインクはかなり減っちゃいましたけど、かなりいい金額稼げましたね。これで新しい文房具が買えます」


 ブックオウルを退治した報奨金に加え、残された翼のページをオカザキ達は換金していた。

 ページが大きく、1枚あたりの金額が想像以上大きかったため、オカザキはホクホク顔である。


 対してブッコローの表情は暗い。


「……はぁ~すんません。リアル・ブックで魔法を使うとインクを消費するなんて知らなかったんすよ……」


 世界の記憶とやらは、魔法の燃費の悪さを教えてくれなかったらしい。

 それでも、今までオカザキが一人で戦っていた頃より、戦力が上がったのは単純に心強いと考えているが。


「仕方ないですよ。地道に旅をしながら溜めて行けばいいんです。文房具と一緒ですね」


「え? 何が?」


「さぁさぁ新しい文房具を探しに行きましょう。今日は文房具市が開催されるみたいですよ」


「そっすか~。ワタシもたまには行ってみますかねぇ~」


 それぞれが買い物を楽しみ、宿に戻ったら戦利品を自慢し合う。

 主にオカザキが。


「これ見て下さい」


「何これ?」


「羽ペン」


「それは見ればわかるんだよな~~? そうじゃないんだよな~~?」


「空飛ぶ羽ペンです。ほら」


「おぉお!? すげぇ! けど、結構早く動くし、手が届かないくらい位置も高いっすよ? いやぁ、ワタシミミズクでよかった! すぐ取れる!!」


「他にも……」



 …………

 ……



「つかさ、ザキさん。これ予算オーバーしてない?」


「……」


「いや、黙ってないでさ」


「だってブッコローは勝手にインク使ったじゃないですか」


「おいザキぃぃ!? インクを換金しやがったな!?」


「ブッコローが使った分、私が使っても良くないですか?」


「良くねーよ!? ワタシのは不可抗力だし、これから戦えるようになったし!? それとこれとは別だろぉ」


「……ん、でもね……」




 ズテテズッデ♪(場面転換)




 その後も街で同じようにブンボーガー退治と買い物をする日々を過ごし、周囲にブンボーガーの目撃情報がなくなって、オカザキ達は次の街へ向かうことにした。


「次の目的地は、あっちっすね。リアル・ブックの記憶が正しければ」


「うふふ。次の街ではどんな文房具が売ってるんでしょうかやっぱり旅をしながら色々な街でゆっくりと文房具を探したり買ったりするのも楽しいですね」


「いやいや、ワタシは早く元の世界に戻りたいの!! 妻子もいるし、この世界じゃ競馬できねーしっ!!」




 オカザキ達の旅路はまだまだ終わりそうもない……。


 ただその旅路には、一人の隣に一羽が。

 一羽の隣には一人が。


 いつも、共に有る。

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文房具王になれなかった女は、異世界で文房具を探して旅をする ひなまる @hinamaru01

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