第3話

「他にも素敵な文房具があったんですよ」


「一応聞くけど、どんな文房具っすか?」


「すっごく揺れる椅子です」


「そもそも椅子は文房具じゃなくない?」


「本以外は文房具です」


「あ、はい。……すっごく揺れるってのはちょっと気になるけど」


「でしょう? グリングリン動くんですよ。ちょっと見に行ってみません?」


「そうっすね~。ブンボーガーの情報集めがてら行きましょうか」



 ズテテズッデ♪(場面転換)



「6時間この椅子に座っていると、軽い食事と同じくらいのカロリーを消費できる椅子なんですね」


 オカザキとブッコローが訪れた店の店員が椅子の紹介をしていた。


「すっげぇ座りてぇ~。それにしてもどっかで聞いたことあるようなセールストークだな~」


 店員はブッコローでも座れるようになんとか工夫して準備をし、ブッコローは勧められるまま座る。

 背もたれに体重を乗せ、体を動かすと……。


「ウッヒョー……ウヒョヒョヒョヒョヒョ!! いや、これすげーわ」


 店員曰く、座面と背もたれを繋ぐ所が球体になっており、そこを魔法で補強しているから自由に動くのだそうだ。

 この世界では、魔法のインクが色々な所に使われており、魔法のおかげで想像以上に文明は発展していた。


「ね? いいでしょ? 買いましょう、ブッコロー」


「ちなみにこれ、お値段は?」


「日本円にすると25万6千円相当みたいです」


「高くないっすか!?」


「健康を買うと思えば……」


「いやワタシ達旅してる身なんだよなぁ……」


 結局、オカザキは購入を諦め、周辺のブンボーガーの情報を集めを行って宿へと戻る。


「門番も言ってたけど、次は森に出るっていう鳥型を討伐しに行く感じっすかね」


「そうですね。それほど距離もないようですし、何より街道の近くまで出てきて商人さん達を襲って被害が出てるみたいです」


 直接的な被害が出ていることを重く見てか、ギルドは鳥型のブンボーガーに報奨金を設定していた。

 その金額は日本円にして約20万円と先程の椅子に手が届きそうな金額だ。

 無論、個人のお金と宿や食事などの共用の資金に分けるので、買えるわけではないのだが。


「それじゃぁ決まりっすね。近くなんで特に準備もしないでいいでしょ」




 翌日、オカザキとブッコローは鳥型が何度も目撃された森へと足を運んだ。

 小一時間程、森の中を探索していると、ついにそれらしき姿を見つける。


 見た目はなんとも奇妙だった。

 顔や体にあたる部分は鳥のそれである。

 ただ、翼が普通の鳥とは大きく異なっていた。


「えぇ!? 何あれ、メッチャ怖いんだけど!?

 本が開いているど真ん中から鳥が生えてるって感じじゃない!?」


 見た目はブッコローよりも余程ミミズクに似ている。

 ただ、翼が本のように紙の集まりになっているのだ。


「飛んでるとこ見てぇなぁ……紙がパラパラパラってなって絶対飛べないでしょ」


「ブッコローも似たようなものじゃないですか?」


「ワタシが持ってるのは、普通に本だし!? 翼も一応ありますし!?」


「あ、ちなみにあのブンボーガーの名前聞いたんです。

 ブックオウルっていうらしいですよ」


「はぁああ!? ワタシが先にブックオウル名乗ってるからっ!!

 あいつが二番煎じオウルでしょ。いっちょ前にミミズクみてぇな耳しやがってよ!!」


「まぁどうでもいいんですけど」


「だったら煽るようなこと言うんじゃないよ!!」


「それじゃ、行きます。

『文房具召喚:ブックスタンド』」


 オカザキが魔法を使うと、そこには組み立て式のようなブックスタンドが現れる。

 ブックオウルの目の前で展開すると、自動で組み立てられ、本のような翼を抑え込む。


「っあぁぁあ~四拍子とりたい、指揮とりたい! よしよしよしよし、丁度いい譜面台あるじゃーん」


 ブッコローが突如としてその翼をバタつかせて指揮を取り始める。

 その様子を見て、オカザキはクスリと笑う。


 ブックスタンドによってブックオウルが拘束されていたから、油断していた。


「きゃぁあああ」


 突如として死角から飛び出してきたもう一匹のブックオウルに体当たりをされ、オカザキは吹き飛ばされる。

 そして、手に持っていたガラスペンは少し離れていたブッコローの方へ飛び、持っていた本に突き刺さる。


「ザキさん!」


「だ、大丈夫です……それよりガラスペンをこっちに下さいっ」


 オカザキとブッコローの間には、数十メートルの距離が空いていた。

 オカザキが立ち上がって取りに行く間に、再びブックオウルが襲ってくるのは明白だ。


「わ、わかった……って、ヤバっ」


 何故かガラスペンは本に深く突き刺さっており、ブッコローの翼では簡単に引き抜くことはできなかった。

 その間にも、ブックオウルは引き返してきてオカザキを狙っていた。


 焦るブッコローは、もう一つ異常を見つけた。

 手に持っていた本が、光始めていたのだ。


「これ、何だ……?

 あ、この世界の……知恵……この世界の、記憶……?

 そうか、これならっ……」


 ブッコローの持っていた本は突然見開きに開かれ、ページがパラパラと捲られていった。

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