第15話 デパートにて②
デパート内の買い物客がまばらになってきたころ、18時を知らせる館内放送がかかった。僕は品出しをしていた手を止め、腰を伸ばす。そのとき、後ろから店長にポンと肩を叩かれ、気が緩んでいた僕はビクリと体を震わす。
「ちょっと休憩してくるよ。三浦君も疲れたら休んでいいからね」
そう言って、店長は白髪ひげの生えた顔をほころばせる。
「はい、これ終わったら休憩します」
僕の返事を聞くとウンウンと頷いて、腰を曲げながらバックヤードに歩いて行った。
「びっくりしたなぁ、店長気配ないんだよな...」
そうつぶやいた瞬間、もう一度誰かに肩を叩かれ、今度は「わあっ」と声も上げる。
振り向くと、
「驚きすぎじゃない?」
と言って笑っている藤沢さんがいた。
「もう...」
少し恨めしそうな目で藤沢さんを見る。
「三浦君、お仕事頑張ってるねー」
「藤沢さんは買い物帰りですか?」
僕は、藤沢さんが手からたくさんぶら下げている買い物袋に目線をやる。
「うん、あとは三浦君のところでお茶を買って帰るだけ」
「おお、毎度ありです」
僕は藤沢さんと話しながら、手を止めていた作業をゆっくりと再開する。
「この間さ、那澄ちゃんと料理したんでしょ?」
「...はい」
水島さんが泣いてしまったことを思い出し、少し気の重い返事をする。
「楽しかった?」
「楽しかったです」
「おいしかった?」
「おいしかったです」
「そう...」
藤沢さんの顔から、さっきまでの笑みがみるみると消えていく。
「私も参加したかったな...ドリア食べたかったな...」
「ああ、すみません!でも、藤沢さん就職活動で忙しいですよね」
「うるさーい!そんなのどうでもいい!」
「どうでもよくは...」
僕がちらりと藤沢さんの買い物袋に目を落とすと、デザイン関連の書籍がいくつか目に入った。
「デザインの勉強してるんですか?」
藤沢さんが落ち着いたタイミングで尋ねる。
「...ああ、これね」
藤沢さんは書籍の入った袋を軽く持ち上げる。
「うん、勉強してる」
「独学ってことですか」
「そうだね」
「デザイン系の学校には行かなかったんですね」
藤沢さんは僕と同じ経済学部で、そもそもうちの大学にデザインを学べる学部はない。
「大学に入ってから興味が出たんだよ」
それを聞いて、なるほどと頷く。
「あ、ということは、就職先もデザインの会社ですか?」
「うーん、そうだね。入れたらいいけど」
と、歯切れの悪い返事が返ってくる。
ふと、僕の後ろに目線を映した藤沢さんは、
「あ、ごめんね、仕事の邪魔しちゃって。お茶選んでくるね」
と言って、そそくさと反対側の商品棚に向かって行った。後ろを振り向くと、僕らの話し声が聞こえたのか、店長がバックヤードから顔を出して覗いていた。だらだらと話しているところを見られてしまったなと、決まりが悪くなる。
藤沢さんの会計を済ませ、店を出ていくのを見届けた後、店長がニコニコしながら僕の横に立った。
「さっきのは彼女さんか?」
「違いますよ」
照れ笑いしながら否定した。
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