第20話 入浴剤

 ハーブショップにて。


「ハーブの入浴剤を作ります」


 手順は、それほど難しくない。難易度、趣味の園芸おじさんレベル。

まず、ローレルさんが暴飲した茶会の片付け時、ポットに入ったハーブを回収する。

 取り出したハーブを細かく刻み、塩と一緒にスティック状の容器へ入れておく。

 暫定ハーブソルトに、おハーブ大好きお嬢様が感想を漏らした。


「タクミ様のおハーブを、わたくしのソルトへ混入いたしますの!?」


 なぜか、顔をほんのり赤く染めたローレルさん。

 まさか、下ネタ大好きお嬢様? 真実は、おハーブのみぞ知る。


「ローレルさんのソルトが嫌なら、その辺の塩でも」

「浮気は許せませんのよ! 真の仲間の契りを交わしてくださいましっ」

「うん、よく分からないことがよく分かった」


 報告、平常運転ッ。異常ありッ。

 ドライハーブを煮詰めた抽出液と、ハーブソルトを合わせて。


「ハーブバスソルトの出来上がりっ!」


 おじさんは、入浴剤をまじまじと観察した。

 試作品ゆえ、色合いが茶色っぽくてよろしくない。

 ハーブの種類を調整して、綺麗な彩りを作らねば。

 別案として、粉末状や布袋タイプのバスソルトを画策していると。


「素晴らしいですわ! おハーブの入浴剤を生み出してしまうなんて、文明開化でしてよ!」


 ローレルさんが万歳ポーズに励めば、ガチャリと音が聞こえた。


「ローレル、少しくらい大人しくできないのか? たまには令嬢としての振る舞いをだな」


 帰宅早々、眉をひそめたカミツレさん。


「カミツレさん、おハーブバスソルトですの!」

「……はあ。エンドー氏、説明を頼む」

「ハーブの入浴剤を作った。ローレルさん、大歓喜」

「ふむ……把握した。いつもの酔狂か」


 秒で、納得である。手慣れたものだなあ。


「わたくしとタクミ様の共同作業でしてよ。これが浮れずにいられまして? いいえ、浮れますわっ」

「お前が楽しそうで何よりだ。さて、それはいつ試すのだ?」


 おじさんが容器を手渡すと、カミツレさんは入浴剤に興味を持った。


「いつでもいいよ。ハーブバスソルトを最初に使うのは、2人だから」

「ファーストおハーブ……実に甘美な響きですの」

「仕事が終わり次第、銭湯へ行こうか。入浴剤の件、番頭には私が話をしておくぞ」


 うっとり気味なローレルさんを、カミツレさんがねめつけた瞬間。


「ハッ! もしや……今日は、全身でおハーブを浴びてよろしくて!?」

「ハーブ風呂。ローレルさんに似合いそうと思って、閃いたからね」

「タクミ様っ! 永久に永遠に、真の仲間でしてよぉ~っ」


 ローレルさんと固い握手を交わされた、おじさん。もう、逃げきれないぞ……

 真の仲間の価値が、マブダチくらいストップ安なのは杞憂かな?

 とにもかくにも、商品開発は実験実証しなければ次へ活かせない。

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