第19話 土壌
シェアハウスの中庭。
日当たり良好。ベンチを設ければ、住民たちの憩いの場間違いなし。
さりとて、変人集団がほのぼの井戸端会議に参加するはずもなく。
「ふぅ、草むしり完了」
おじさんは、ひたすら無心で雑草を引っこ抜いていた。
清めのソルトで除草すれば、おじさんの腰が犠牲にならずに済んだなあ。
ちょい、ハーブ畑を不毛の地にするんじゃない。<土壌>スキル自体は、特にチートではなくありふれた能力。一応試したものの、やはり<塩力>に軍配が上がった。
単純に、使用者のレベル差で力負けしちゃったよ。しょうがないね。
おハーブ畑となる場所をクワで耕した、おじさん。
近所の農家おじさん(別人)に分けてもらった腐葉土をふりかける。
趣味の園芸おじさん(本人)は、<土壌>スキルを発動。直接手で触って混ぜれば、フカフカの土壌が盛り上がった。少し経つと、表面に白化粧が施された。
「石灰かな? 栄養素、アルカリ性、土壌改良……」
ダメだ、さっぱり分からん。おじさん、スキル頼りの素人だからっ。
どーにかなれーと祈りつつ、苗を植えて種をまいた。
畑の土が十分湿るまで、ジョウロで水をたっぷり与えていく。
バジル、ミント、ローズマリー、ローリエ、ハイビスカス、マリーゴールド、レモングラス、ラベンダー、カモミール、セージ。ハーブ祭だった。
ここを、ハーブ栽培地とするッ!
後で、オサレな看板を立てかけてもらおう。
「タクミ様! わたくし、何か手伝えまして?」
「ハーブ畑の装飾をお願い。周囲をレンガで囲ったり、アンティーク調の花壇を並べたり。ウッドデッキとか石畳を並べて、ハーブが主役の庭造りをお願いします」
おじさんに、ガーデニングセンスなんてあるわけない。女性目線が足りないなぁ~。
「カミツレさんと協議しますわ! インテリアコーデ、お任せくださいましっ」
ローレルさんが楽しそうに、両手を合わせた。
まるで、お嬢様のような慎ましい笑みを携えている。
「じゃあ、おじさんはちょっと休憩してくる。ハーブの新商品、作っとくよ」
「新商品おハーブ!? すでに、構想がありまして!?」
ローレルさんが楽しそうに、両手を合わせた。
まるで、おハーブ(合法)をキメたような笑みを携えている。
はたして、想像おハーブで愉悦するのは健全か? うーん、アウト。
「疾く、取りかかってくださいませっ。おハーブティーを飲みながら、全力待機ですわ!」
「在庫切れが心配だし、作業前倒しかなあ」
おじさん、休憩なし。身体がきついぜ。
コンビニバイトではよくあった。休憩時間でも店が混むと、対応しなくちゃいけない。
スタッフルームに入った時点で休憩は成立! 遅えぞ、さっさとレジに入れ!
異世界生活に対応できたのも、辛く苦しく険しいコンビニ経験の賜物である。
――滅びろッ!
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