第18話 戦利品

 …………

 ……あれ? まだ生きてる?


 目を開けば、おじさんを押し潰さんと迫ったサボテンが動きを止めていた。

 巨躯の中心を鋭利な結晶体が貫き、その場に拘束されている。

 ローレルさんの足元から巨大サボテンまで一直線に、塩の塊が続く道が残っていた。


「ご無事でっ!?」

「ローレ」


 むぎゅっと。

 ローレルさんが銀髪を乱しながら、おじさんめがけて飛び込んできた。


「タクミ様、怪我はございませんか!?」


 抱き着かれたまま、ペタペタと全身をくまなく調べられた。


「だ、大丈夫。何ともない。君のおかげで、助かったよ」

「そうですの……ほぉっ」


 荒ぶるお嬢様の腕を掴み、おじさんは宥めるばかり。


「エンドー氏! 無事で良かったっ」


 カミツレさんが少し遅れてやって来た。


「あまり迂闊に飛び出してくれるな。あなたは、戦闘スキルを持っていないのだぞ。私の後ろに隠れて守られるのは、別に恥ではないよ」

「すいません。異世界転生の戦闘って、バトルモノじゃなきゃテキトーだと……」

「む、よく分からんが? 反省したら、次に活かせばいい」


 おじさんの肩に手を置いた、カミツレさん。


「わたくしはまだ、小言がありましてよ」

「聞きます」

「あの瞬間、死期を悟りましたわね。必死に生き延びようと、足掻いてくださましっ」


 真剣な面持ちのローレルさん。おハーブ以外で初めて見た表情。


「タクミ様は、真の仲間ですの! 諦めるなど、到底許容できぬ行為でしてよ。今後、同じような振る舞いは許しませんわ!」

「ごめん」

「わたくしには、あなたが必要ですの。くれぐれもお忘れなく。よろしくて?」


 おじさんはこくりと頷いた。

 自分は必要な人間。大事なそれが全く慣れないとは、なかなかどうして切ないね。

 カミツレさんに手を貸してもらい、おじさんが立ち上がったところ。


「でも、よく間に合ったね? もうダメの状態から攻撃を割り込ませるなんて」


 アニメやマンガならよくあるシーンだ。


「――おハーブですわ」

「え?」

「わたくしが、おハーブティーをしばいたおかげですわ!」


 悲報、真の仲間の発言が理解できない。

 今更だと言われれば、否定もできない。


「エンドー氏のハーブティーは、回復に加えてステータスバフがあるのだろう? しっかりしてくれ、おハーブマイスター」

「おじさん、趣味の園芸を嗜む素人ハーブでして」

「ローレルの相手が務まるなら、十分玄人ハーブじゃないか?」


 カミツレさんは、やれやれと首を振った。


「おハーブティーを飲んだ結果、わたくしのリアクションとスキルの発生スピードが向上しましたの。つまり、タクミ様を救ったのはあなた自身の力でしてよ」

「あくまで、貰っただけだからね。手柄自慢はできないなあ」

「フ、考え方は人それぞれさ」


 しばらく、3人で笑い合った。少し、仲が深まった気がする。


「タクミ様、そろそろ収穫よろしくて? おハーブのお預けは……身体に毒でしてよ」


 ローレルさんがモジモジと身体をくねらせた。気のせいだったかもしれない。


「栽培ポットはたくさん持ってきたし、ハーブの苗を収穫しよう」

「根絶やしですわ! おハーブ一本、残さずお持ち帰りでしてよっ」

「あまり欲張るな。自生させる分を取っておけ」

「……仕方がありません。わたくし、未来のおハーブに投資しますわ」


 おハーブ大好きお嬢様、すこぶる残念そうに了承した。

 ローレルさんとカミツレさんが、シャベルを握った傍ら。


「ハーブの在庫問題は、一応解決。あとは、栽培スペースがほしい」

「確か、レンタル農場を探すのだったな?」

「なるべく、栄養価が高い土を使ってる場所で」


 カミツレさんが瞬くや、首を傾げた。


「エンドー氏、土の心配は不要だ」

「?」

「ステータスを確認してくれ」


 おじさんは言われるがまま、久しぶりにステータスを確認。

 メニュー、オープンッ!


 ネーム・遠藤匠。

 タイトル・転生者。

 ステータス・レベル2、生命力150、魔法力60、運命力30――

 所持スキル・<栽培><薬草強化><家庭菜園><土壌>


 ……土壌? 二匹目の?


「ど、<土壌>!? なんか、新しいスキルがにょろにょろっと生えてるッ」


 落ち着け、ハーブじゃないぞ。


「おめでとう。レベルが上がって、新しいスキルを覚えたな」

「<土壌>スキルって何!?」


 詳細を調べれば――農作物に適応した、成長を促進する土を生成。


「タクミ様がまた一歩、真のおハーブマイスターに近づきましたわ! 祝杯ですの!」


 歓喜に打ち震えた、ローレルさん。おハーブティー、グビグビにつき。


「真のおハーブマイスターとは一体……」


 そもそも、おハーブマイスターが未だ解明されていないのだが。


「バトルで何の役にも立ってないのに、レベルアップで新スキル……どうしてこうなった?」


 おじさんが知ってる、俺TUEEEは何処? 何もしてNEEE。


「一応、おとり役判定で経験値を入手したのかもしれん。私にもさっぱりだ」


 カミツレさん、匙を投げないで。解説ちょうだい。


「おハーブティーを飲んだわたくしがモンスターを撃破。つまり、タクミ様も戦闘に参加したと等しい。2人の力を合わせた、おハーブ無双でしてよ!」

「いや、その理屈はおかしい」


 おじさんは、図らずもツッコミを入れてしまった。

 けれど、断言できることがある。それこそ、たった一つの真実かもしれない。

 畢竟、やはりグンマーには不思議がいっぱいだと思いました。

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