約束

待ちに待った土曜日。梅雨の中休みで晴れてはいるが、なかなかの暑さ。天気予報では夏日になると予想していた。


萌香と10時に駅前に集合してカフェに向かう約束をしている。一通りの準備を終えたので、ゆっくりしていると部屋へ来るよう師範代から声がかかった。


「失礼します。」

挨拶をし部屋に入る。少し重たい空気感の中、師範代の前に座る。顔つきが怖い。


「今日は、誰と何処へ?」

この間、夕ご飯の時に言いましたけどー。なんて思いながら、「萌香とカフェに行った後、買い物をしてきます」と返答したが、まだ渋い顔つきをしている。門限には帰宅する事、たまに連絡を入れる事、師範代からの連絡には出られるようにする事を約束させられた。…まるで子供扱い。今までそんな事なかったのにどうして?素直に約束はしたが、不服ではある。


「不満そうだな。けれど…」

何か言いかけた師範代。しかし頭を小さく振って言い直す。

「すまない。けれど、必ず約束は守ってくれ。決して無茶な事はしないように。」

分かりましたと返事をすると解放された。


おかしな師範代。今まで心配だからと色々言われた事はあった。けれど、今回の様に部屋で重々しく言われた事なんてなかった。どうしてこんなに約束を守る様言ってくるのだろう?頭の中でぐるぐる考え込んでいると不意にスマホのアラームが鳴り響く。駅へ行かなくちゃ。

詩織は、考える事をやめて家を出た。



---


「すまない。予定通り詩織をつけてくれ。」

八木原の指示のもと詩織の兄弟子2人は尾行を開始。詩織と萌香に有事の際以外は見守るよう指示している。


最近、詩織が付けられている気配がする。ただ本人が気付いておらず、こちらが探ろうにも情報が不確か過ぎる。問題が解決するまで、本人を家から出さずにいたいが、そんな事出来るはずもなく。今日だって八木原自身が詩織達の同伴で付いて行きたかったが、外せない別件があり付いて行けず。付けられているかどうかも含めて修行の一環として兄弟子達に尾行させる事となった。

「あなた…」

少し不安げに微笑む妻の肩を抱き「大丈夫」と口にする。それはまるで八木原自身に言い聞かせる様だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る