視線

紫陽花が咲き、長雨が続く季節がやってきた。雨は苦手。傘を持たなくちゃいけないし、服も荷物も濡れる。髪もまとまらない。油断すると風邪をひく。それに1ヶ月位前からなんだか視線を感じる。学校でも休みの日も。ずっとじゃないし、振り向いても誰もいない。気のせいかもと思って誰にも相談してないけど、モヤモヤする。


「詩織、どうしたの?憂鬱そうな顔してる。悩み事?」

「大丈夫だよ。雨、嫌だなぁって見てたの。パパの誕生日も近いからプレゼントも買いに行きたいのに。」

窓の外を眺めていたら、萌香に声をかけられた。よほど顔に出ちゃってたみたい。萌香は「大丈夫なら良かった。」と胸を撫で下ろす。


萌香から「プレゼント、何にするか決まってるの?」と聞かれたけど、まだ決められてない。

「人にあげるプレゼントって難しくて、まだ決まらないんだよね。長く使える物ってなんだろう?」

「なら駅前のカフェで新作ケーキが出たんだって!週末プレゼント見にいきながらカフェ行こっ!」

ちょうど今週末は稽古休み。行ける!

萌香とプレゼントや新作ケーキの話で盛り上がり、憂鬱な気分が吹き飛んだ。


---

夕食時、師範代とママに週末出掛ける事を伝えると門限までに帰ってくれば良いと許可が出た。あとで萌香に待ち合わせの連絡をしようっと。うきうきでご飯を食べていると、師範代から「最近変わった事はないか」と聞かれた。別に初めてではない、これまでも何度か問われた質問。いつもは楽しかった事や困り事を聞かれてる家族間の話題みたいな感じで問われる。けれど、今回はなんとなく深刻そうな言い方。『たまに視線を感じる』と言おうとしたけど、勘違いかもしれない。他に心当たりもない。

…はっ!誕生日プレゼントの事バレた?兄弟弟子達とサプライズお誕生会しようって約束したのに。

「変わった事など、何もございません。」

「…口調がおかしな。」

首を横に大きく振りながら否定したら、余計に怪しまれた。バレたらサプライズ出来なくなってしまう。兄弟弟子達に何て言えば良いか…。何もないと押し問答を繰り返してる師範代と私。コホンと小さな咳払いをしたママが「早くご飯を食べようね」と静かに怒りを表した。ヤバいと2人して思い急いでご飯を食べ終えた。

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