病院地下の霊安室


 今日はこのお話で最後。


 病院の地下には何があるか。皆さんご存じだろうか?


 各病院で違いはあるかもしれない。

 僕の勤めていた病院の地下には霊安室があった。


 霊安室にご遺体が置かれた場合、僕たちのような設備員が霊安室のエアコンのON/OFFを行なう。


 だからと言って、ご遺体のある部屋にズカズカ入っていくのか。

 

 そう思う方も居るかもしれないが、実際は仮眠室にあるパソコンから画面を選び、クリックを1回押すだけでON/OFFができるようになっているので、ご遺体と対面する事は滅多にない。


 今日はそんな滅多にない。事が起きた時のお話。


 ご遺体が霊安室に安置されると、僕へ連絡が入るようになっている。

 エアコン入れてください、みたいな簡単な電話。


 その日もそんな電話が僕のもとに来たので、霊安室のエアコンを入れた。


 それから、いつもの様に点検業務をこなして仮眠室に戻ってくると、電話が鳴った。


「はい、設備です」


 電話に出ると、相手は医者をしている男性からだった。

 霊安室のエアコンから異臭がしているので見て欲しい。

 医者の男性は僕にそれだけ言って電話を切った。


 エアコンが入っているという事は、ご遺体があるという訳で、あまりいい気はしなかったが、地下の霊安室へ向かった。


 問題の霊安室の前で電話をしてきたであろう医者の男性は立っていた。


「おー来た来た、ちょっと嗅いでみてよ」


 そう言われたので、僕はくんくんと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いだ。

 確かに、生臭い何かが焦げたような匂いがしている。

 調べてみます、と言うと男性は去って行った。


 調べるには、ご遺体のある霊安室内に備え付けられているエアコン本体を開ける必要がある。

 幸い、と言っていいのかわからないが、霊安室の中を覗くと親族の方は居ない様子だった。

 

 僕は霊安室の片隅に取り付けられているエアコンのふたを開けた。

 

 中を見ても特別異常はないようだ。エアコンは順調に動いている。

 

「もしかすると、エアコン内部で配線が焦げたのかも」そう思っていた僕は肩透かしをくらった気分だった。


 じゃあ原因はなんだろう? そう思って霊安室内を見渡した。

 顔に白い布を掛けられた状態で、安置されているご遺体以外、ほぼ何もない。

 強いて言えば、ろうそくからでも匂いがしている可能性、があるくらいだろうか。


 僕は原因追及のために、ご遺体の頭の上に設置されている、ろうそくに顔を近づけた。

 特別おかしな匂いはしない。

 

 僕がひとり部屋の中で悩んでいると、エアコンの風に吹かれたからなのか、ふわっとご遺体の顔に被せた布が浮かんだ。

 

 顔が目元くらいまで一瞬見えて、再び元に戻った。


 僕はある事に気づいて、部屋を静かに出た。



 ご遺体の男性の目が開いた状態でこっちを見ていた。

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