いつでも居る子ども


 深夜に容態が急変して、病棟から手術室へ運ばれる患者さん、というのは結構いる。

 

 その日は、月に一度点検をしなければならない点検があったので、普段は行くことのない3Fの機械室へ向かう途中だった。


 僕が3Fの病棟を横切っていると、病棟からドラマなどでよくある移動式のベット(通称:ストレッチャー)に乗せられて、患者さんがこちらに向かって運ばれている際中だった。


 患者さんの意識がないのか、看護婦さんが懸命に呼びかけている。

 僕は廊下へ背をつけ、搬送の邪魔にならないようにした。


 移動式のベットが目の前を通過していく。

 一瞬、患者さんの顔が見えた。

 白髪のおじいちゃんみたいだ。


 通過した後も看護婦が呼びかけているのか、その声が深夜の廊下にこだましている。

 

 僕はそんな移動式ベットの後ろに、この場所、この時間には場違いな子どもの姿を見た。

 その子どもは5歳ほどの背丈、髪型はおかっぱで男の子か女の子かまではわからなかった。


 あのおじいちゃんのお孫さんなのかな?


 そう思って、その日の点検場所へ向かった。


 

 次にその子どもを見たのは、それから3か月ほどしてからだった。


 その日も前回同様、僕は月に一度の点検場所へ向かっていた。

 僕はタイミングが悪いのか、再び患者さんの搬送場面に出くわした。


 今回は若い男性のようだ。


 看護婦さんはその男性に対して必死に呼びかけながら、僕の脇を通過していった。

 すると、あの子どもがその移動式ベット脇にまた居た。

 まさか、自分のお父さんなのか? とも思ったが、僕はその子どもをよく見て、その場を後にした。


 子どもは搬送されていく人を見てニッコリと満面の笑顔を浮かべていた。


 それからは、その子どもを見つけても、見ないふりをして退職までの期間を過ごした。


 未だにあの子どもが何だったのか、僕にもわからない。

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