仮眠室をノックする音
時々、夜勤をしていても電話に気づかないまま寝てしまっている時がある。
そんな時は、電話先の、大抵が看護婦さんだが、看護婦さんに仮眠室のドアを叩いて起こされるという様な事になる。
その日も仮眠室で僕が寝ていると、仮眠室のドアが叩かれた。
寝ぼけまなこでベットから起き上がり、ドアに向かう。
よほど緊急な用でもあるのか、ひたすら仮眠室のドアは叩かれている。
電話が来たのに寝ていて気づかなかったかな。
そう思いながら叩かれているドアを開けた。
誰も居ない。
仮眠室前の廊下も確認する。
まっすぐと伸びた廊下にも誰も居ない。
少しだけ肌寒い感覚になったが、仮眠室のドアを閉めて再び眠った。
それから1週間ほど、そんな事が続いていて、僕もいい加減嫌になってきたので。
ドアを開けて廊下が見える状態で夜勤をしていた。
これなら誰か来たらすぐにわかる。
僕は誰かのイタズラだろうと思っていた。
でもその反面、こんな設備員の仮眠室まで来てそんなイタズラをする人がいるのか、という疑問もあった。
今日の夜勤の業務を終えて、あとは寝るだけになったのでベットで横になる。
それからどれ位してからかは、わからない。
しかし、ドアを閉めていると気づかなかったが、誰かがハイヒールの様な靴で廊下をこちらに歩いて来る足音が聞こえた。
カッカッカッ
と一定のリズムで歩いている足音。
その音に気付いた僕は、ベットから上半身を起こして、ドアの開いている部分から廊下を見ていた。
足音は僕が上半身を起こして廊下を見ていた仮眠室の前で止まった。
この時になると、僕も慣れたもので、この手のホラーには驚かなくなっていた。
なんだそっち系か。
無視して再びベットで横になった。
僕は眠るとき片耳を枕に押し付ける様にして寝るのだが、目を閉じて眠ろうとすると、そんな地面に近い耳の方が、再び歩き出したハイヒールの足音を拾った。
足音は僕が居る仮眠室の中まで入ってきて、僕が目を閉じて眠っているベットの横まで来た。
人の気配を感じる。
その内、視線も感じる様になってきた。
僕はさすがに怖くて目を開けて確認する、という訳にもいかず、そのまま寝たふりをしてやり過ごす事にした。
どれ位そうしていたか覚えていないが、気づくと人の気配は消えていた。
目を開けて、上半身を起こし、さっき気配のあった方を見る。
何も居ない。
僕は胸をなでおろして再び眠りつこうとした。
ベットで横になり目を閉じた。
すると、すぐに
カッカッカッ
僕のベット脇からハイヒールの音が聞こえて、部屋から出て行った。
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