深夜のナースコール


 基本的に病院設備員の夜勤は、決められた時間に点検をするのがメインだが、簡単な院内の機器。

 例えばナースコールやベットなどの故障が深夜に起こった場合、夜勤をしている僕の元へ連絡が来ることになっている。


 その日も、そんな連絡が病棟の看護婦さんから来た。

 僕は電話に出る。


「はい、設備です」

「あの、すぐに来て欲しいんです」


 電話先の看護婦さんは取り乱しているのか息も荒く、そう言ってきた。


「はぁ……? 何かありました?」

「ナースコールがおかしいの! 早く!」


 一方的に電話を切られてしまった。


 仕方ないので現場の病棟へ向かう。

 ナースステーションに居た看護婦さんへ声をかけた。


「こんばんは、設備です」

「あ、やっと来たのね。遅いわよ」


 看護婦さんは僕の到着が遅かった事に怒りながら、ナースステーションの中へ僕を招いた。

 ナースステーションに入ると、ナースコールが押された事を伝える「ピポン、ピポン」という音が鳴り響いていた。

 

 看護婦さんは涙目で僕に状況の説明を始めた。


 それによると、ナースステーションに付いているナースコールの表示がおかしい。という様な内容だった。


 看護婦の説明が不十分で理解できなかった僕は、ナースコールの表示機の前に立つ。

 この表示機は、看護婦が一目でどのベットからの緊急サインか判断できるように、ナースコールの押された部屋のランプが点灯するようになっている。

 また、ランプが点灯している間、今鳴っている様な「ピポン、ピポン」という機械音がナースステーション内に大音量で鳴り響くようになっている。


 確かに一か所だけランプが点灯していた。


 それを確認して、涙目になっている看護婦に向き直り、何がおかしいのか聞いた。


「だって、そこのベット誰も居ないの……」


 僕は看護婦の言葉を受けて、もう一度機械を確認した。


 ランプは確かに点灯している。


 しかし、個人部屋ならありえないが、集合部屋。

 

 つまり、6人など患者さんがまとまって入っている部屋ならば間違って隣のベットのナースコールを押してしまった、という事も考えられる。


 僕は、ヒステリーを起こし気味の看護婦を残し、ナースコールが押されたと表示されている病棟内の1室へ向かった。


 どこの病院でも同じかはわからないが、僕の勤めていた病院のナースコールはボタンを押すと、ボタンの部分が赤く点灯するようになっていた。

 

 問題の部屋まで来た僕は中に入る。

 やはり、6人部屋みたいだ。

 

 部屋の中はカラで、患者さんはいない。

 誰もいない真っ暗なベット脇でナースコールが赤く点灯していた。

 

 ボタンの接触不良とかだろ。

 

 そう思い、ナースコールの線を引き抜いて、再びナースステーションに戻った。


 ナースステーションに入ってさっきの機械を確認すると、さっきまで点灯していたランプは消えていた。

 

 僕が看護婦に機器の故障である旨の説明をしていた時だった。

 



 再び、「ピポン、ピポン」とナースコールが押された時の音が鳴り響く。


「もうやだああ!」

 

 看護婦は泣きながらナースステーションを出て行ってしまった。

 残された僕は、表示機を見る。


 さっきと同じ部屋だった。

 

 もしかすると、部屋全体の電気配線に異常があるかもしれない。

 そう思ったので、もう一度さっきの部屋に戻った。


 部屋に入ると、真っ暗で誰もいない部屋内の各ベットに取り付けられている全てのナースコールが赤く点灯していた。


 ぞわっとして、鳥肌が立つ。


 しかし、このままにして帰るわけにも行かない。

 おそるおそる各ベットのナースコールの線を引き抜いていった。

 全てのナースコールが消灯した事を確認して、部屋を後にする。


 ナースステーションに戻ると、さっき泣きながら出て行った看護婦は戻ってきていた。

 僕はその看護婦に部屋全体の電気配線の異常だと思うという事を伝え、その場を後にした。


 でも、電気配線の異常ではない事を僕は知っていた。

 

 僕は幼い頃から霊感が少しだけあるのだが、誰も居ない真っ暗な部屋の中に最初から、おじいさんが立っていたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る